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【CANVAS NEWS】2026年夏号

2026年夏号 誌面

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社会課題の解決に向き合うNPO メールインタビュー全文

特定非営利活動法人 棚田LOVERS 永菅 裕一さん

1.団体設立のきっかけや経緯を教えてください。「あと5年で棚田がなくなってしまう!?」という地域の方の声をきっかけに活動を始められたと拝見しました。当時の思いや、活動を立ち上げるまでの経緯についてお聞かせください。

 特定非営利活動法人棚田LOVERSは、2007年5月に兵庫県市川町上牛尾の棚田を舞台に活動を始めました。きっかけは、地域の方から聞いた「あと5年で棚田がなくなってしまうかもしれない」という言葉です。美しい棚田の風景は、ただ自然に残っているものではなく、地域の方々が草を刈り、水を管理し、田んぼを耕し続けてきたからこそ守られているものだと知りました。
 当時、私は大学で環境や地域づくりについて学んでいましたが、実際の現場では高齢化や担い手不足によって、棚田が急速に失われつつありました。「このままでは大切な風景も、生きもののすみかも、地域の文化も失われてしまう」と強く感じ、仲間とともに活動を立ち上げました。
 最初は小さな一歩でしたが、田植えや稲刈り、草刈りなどを通じて、都市部の人たちが棚田に関わる機会をつくることから始めました。棚田を“守る場所”としてだけでなく、人と人、人と自然がつながる場所として再生していきたいという思いが、現在の活動の原点です。

(市川町棚田)

         

2.団体の活動内容について簡単に教えてください。また、特に力を入れている活動があればぜひお聞かせください。

 棚田LOVERSでは、棚田の保全・再生・活用を中心に、田植え、稲刈り、草刈り、川遊び、生きもの観察、味噌づくり、土鍋・羽釜ごはん炊き体験など、自然・農・食を五感で学べる体験活動を行っています。これまでに250回以上の体験企画を実施し、子どもから大人まで多くの方に参加いただいています。
 また、都市部の親子や学生、企業、行政、研究者など、さまざまな人が棚田に関わることで、地域の担い手づくりや関係人口の創出にも取り組んでいます。近年は、生物多様性の保全にも力を入れており、再生した棚田で生きもの調査を行い、アカハライモリ、トノサマガエル、サワガニ、コオイムシなど、多様な生きものが暮らす環境を守っています。
 特に力を入れているのは、子どもたちが自然の中で学び、自己肯定感や地域への愛着を育む体験活動です。棚田は、お米を育てることを学ぶ場所であると同時に、命のつながりや食の大切さ、人と協力する喜びを実感できる学びの場だと考えています。

(市川高校生たちとの田植え前の集合写真)

     

  1. 3.田植えや稲刈りなどの活動を通じて、参加された方々にはどのような反応や変化がありますか。印象に残っているエピソードがあれば教えてください。

 参加された方からは、「日本の豊かな自然を守りたいと思うようになった」「自然の中で食べたらとてもおいしかった。もっと自然を大切にしたい!」「帰りたくなくなりました」「家庭に戻ってからもお手伝いをしたがる子どもが増えました」という声を多くいただきます。
 普段、都市部で生活している子どもたちは、田んぼの泥に入ることや、生きものに触れることに最初は戸惑うこともあります。しかし、少しずつ慣れてくると、泥だらけになって笑顔で走り回ったり、カエルやサワガニを見つけて夢中になったりします。
 印象に残っているのは、棚田で体験をする中で、継続して参加してくださっていた子どもが「これだけ大変ならお米を残したらあかんなー」と話してくださったことです。
 環境問題から食の問題に入り、食べ物を残すことが非常に課題になっているのですが、こちらから子どもたちに伝えるのではなく、子どもから自ら話してくださったことに感激しました。さらに、「棚田の跡継ぎになりたい」という子どもも現れて、その時は本当にうれしかったことを覚えています。
 棚田での体験は、単に農作業をするだけではありません。自然の中で感じ、そうした言葉が自然と発せられ、子どもも大人も少しずつ変化していきます。その変化を間近で見られることが、活動を続ける大きな力になっています。

(親子の田植えの写真©北村隼人氏撮影)

  

4.棚田の保全と活用、都市と農村の交流、地域活性化など、幅広く活動されている印象を受けました。活動を続ける中で、大切にされていることや、難しさを感じることがあればお聞かせください。

 大切にしているのは、「地域の方々の思いを尊重しながら、外から来る人も一緒に関われる形をつくること」です。棚田は、地域の暮らしや歴史の中で守られてきた場所です。都市部の人が関わることは大きな力になりますが、一方で、地域の方々の負担にならないようにすること、地域の文化や関係性を大切にすることが欠かせません。

 また、棚田保全は一度イベントをすれば終わりではなく、水路の管理、草刈り、獣害対策、農作業など、地道な作業の積み重ねです。楽しい体験活動の裏側には、継続的な管理や人材育成、資金確保の難しさがあります。特に中山間地域では高齢化が進み、担い手不足は大きな課題です。

 それでも、棚田には人を惹きつける力があります。子どもたちの笑顔、地域の方の知恵、自然の豊かさが重なり合うことで、「この居場所を未来に残したい」という思いが広がっていきます。活動を続ける上では、無理なく、楽しく、そして長く関われる仕組みをつくることを大切にしています。

 こうした取り組みが評価され、2025年には農林水産大臣賞(第9回食育活動表彰)、環境大臣賞優秀賞(第13回グッドライフアワード)、地域づくり活動賞、2026年には環境大臣賞特別賞(第21回エコツーリズム大賞)も受賞させていただきました。地域の方々、大学や行政、そしてともに汗を流してくれた仲間のおかげでここまで歩むことができました。改めて深く感謝申し上げます。

    

5.今後の展望についてお聞かせください。

 今後は、棚田を育む活動をさらに広げながら、次世代の担い手育成に力を入れていきたいと考えています。棚田は、お米を育てる場所であるだけでなく、生物多様性を守り、子どもたちが自然と食を学び、都市と農村がつながる大切な場です。この価値をより多くの方に伝えていきたいです。
 具体的には、子どもや若者が継続的に関われる環境学習プログラムの充実、ボランティアや関係人口の育成、生きもの調査の取り組み、企業や行政、学校との連携を進めていきます。また、これまでの活動で得た知見を冊子や報告会、発信活動を通じて共有し、他地域の棚田保全や地域づくりにも役立てていきたいです。
 棚田LOVERSの願いは、棚田を単なる風景として残すことではなく、人と自然、人と地域がつながる“生きた場所”として未来につなぐことです。これからも地域の方々、参加者、支援者の皆さんと一緒に、100年先にも棚田の恵みが続く社会を目指して活動していきます。

(202310月棚田フェス集合写真©北村隼人氏撮影)