ボラ協のオピニオン―V時評―

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『新・学生のためのボランティア論』発刊に寄せて

編集委員永井 美佳

 大阪ボランティア協会(以下、協会)発行の『学生のためのボランティア論』(以下、本書。2006年、岡本榮一・菅井直也・妻鹿ふみ子編)は、大学・短期大学・専門学校等の「ボランティア」を学ぶ授業で使われ、19年間に7刷し累計1万5300冊を学生らに届けてきた。
 本書のプロローグに、「ボランティアとは、『何をすることなのか』ではなく『なぜするのか』『どのようにするのか』に核心がある」とし、「ボランティアの本質は、自発性と社会的な問題提起やその解決にあり、ボランティアの活動は、自分のしたい気持ちから出発して、自分のしたいことの実現を通して社会的な問題の解決をする営み」とある。社会と個人の関係のあり方を「なぜ」と問うのがボランティア理解の軸になるとうたっている。また、「ボランティアは、納得のゆかないものに自分を犠牲にすることではなく、むしろ自分を大事にすることからはじまる」として、自分も他人も大事にする姿勢や向き合い方がボランティアをするうえで大事であると伝えてきた。
 

 本書を重刷してきた間に、東日本大震災や新型コロナウイルス感染症の流行があり、従来の価値観や社会システムでは太刀打ちできない場面を、わたしたちは経験してきた。個人のライフスタイルや社会の環境は大きく変化し、これからの社会と個人の関係のあり方において、わたしたちは「なぜ、どのようにボランティアをするのか」を問い直さねばならない、と感じた。時代の変化に添った内容に本書を改訂し、「ボランティア」を学ぶ学生らへ、新しいスタンスで伝えなければならないと強く感じた。
 では、どうするか。部分改訂か全面改訂か。編者や執筆者はどう選定するか。授業のテキストや参考図書としての、教員や学ぶ学生のニーズはどうか。編集体制をどうするか。支持されている本書を改訂するのは、大いに勇気のいることだ。悩みはつきず、企画を練り始めるも、体制や条件が整わない日々が続く。それでも、重い腰を上げられたのは、前出の問題意識と悩みをひとつずつ検討し、「これ以上は先送りできない、やるしかない」と覚悟を決めたことにある。

 

  こうして2025年1月、『新・学生のためのボランティア論』(以下、新刊)(赤澤清孝・川中大輔・野尻紀恵編)を発刊する運びとなった。初版の理念を継承しつつ、全面改訂にのぞんだ。編者・執筆者も一新した。大学の教員とNPOのプロフェッショナルが執筆を分担している。執筆依頼にあたって伝えた方針を紹介しよう。
①初等・中等教育で学習するボランティア観を大きく広げて、新たな「ボランティア像」を獲得してもらう。
②社会の課題、矛盾に目を向け、社会の仕組みに視野を広げ、「ボランティア」は社会を変革しうる存在であることを伝える。
③「ボランティア」が自らの当事者性と通じうる視点を提示する。
④ボランティア活動をするだけでなく、ボランタリーな生き方への呼びかけを行う。
⑤学生が手に取りやすく、読みやすい文章にし、イラストや図表を多用して、視覚的に訴えるものにする。
 この方針が反映されているかどうかは、ぜひ新刊を手に取って評価いただきたい。
 最後に、新刊を発行するプロセスで気づいたことを伝えたい。事業承継のポイントは、「理念は承継しつつ、やり方は継ぎ手が主体的に考えて実践する」ということだ。悩みながらも新たなものを生み出せたときの喜びと自信は、格別のものとなる。

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