コーディネーション力の向上こそ 活動活性化の王道
ボランティア活動の核心は自発性。機動的で、創造力にあふれ、多彩な活動を生み出すのは、活動が自発的になされるからだ。
しかし自発的とは心のあり様だから、その真の姿が外からは見えない。渋々活動しているように見えて実は結構楽しんでいたり、積極的に振る舞いつつ実は嫌々参加していた、ということも起こる。
この「見えにくい」特徴から、2023年の阪神タイガースとオリックス・バファローズの優勝パレードの際、職員の無償強制動員と思われるのに「ボランティア」だと強弁した大阪府・市のような対応が生まれる。
昨年の兵庫県知事選挙でも、知事陣営と広告代理店(代表者)間で公職選挙法が禁ずる報酬提供があったとの疑惑があるが、知事は広告代理店代表者が「ボランティアとして選挙を手伝った」ので法に触れないと弁明。ここでも、自身を正当化するキーワードとして「ボランティア」が使われた。相手が自主的にした行為だから、公選法の禁じる買収にはあたらないという論理だ。
心が形として見えない特性を使う動員や責任回避は、権力を有する者が起こしやすい。市民や報道機関による監視が欠かせない。
この「自主性」とは何かが理解されていないと、活動を活性化する方策もねじれてしまう。そう感じたのは、先般、某市の審議会で「介護予防ポイント」制度の成果が目標に達していない点が問題になった時のことだ。
この制度は、高齢者の社会活動を促すため、活動時間に応じたポイントを提供し一定の上限額まで換金できる制度で、「ボランティアポイント」制度と呼ぶ自治体も多い(注1)。07年に東京都稲城市が始め、厚生労働省は地域支援事業交付金の活用対象に指定。さらに同省は125ページものパンフレット『ボランティアポイント 制度導入・運用の手引き』を作り、普及を強力に後押ししている。
社会活動への参加が健康寿命の増進に効果があることは、多くの研究で裏付けられている。そこで高齢者が健康な状態を保ち、その結果、介護保険事業費を抑制するとの観点からも、高齢者の社会活動を促進したいという同省や自治体の意図自体は理解できる。
ただし、この制度は活動参加への「呼び水」程度の位置づけであるべきだ。というのも、金銭的報酬などの誘因には限界がある上、負の効果も生じかねないからだ。
数多くの心理学者の研究で、金銭的報酬などの形で外側から意欲づけると、心の内側から生まれる〝やる気〟の低下や、報酬がないと行動しないといったことが起こりがちなことが分かっている(注2)。
では、人々が自発的、内発的に活動意欲を高めるには、何が必要なのだろうか?
内発的動機付けの研究では、以下の点が大切だとされている。活動の内容を自ら選んだり企画できたりする自律的な状態であること。目標を達成するための活動を自分自身が十分にこなせるという有能感や、一定の成果を得たという達成感を得られること。自らの活動が社会的に意味のある取り組みだという有用感を得られること。さらに自己実現や成長の実感(気づき・発見)があること……。
ここで鍵となるのがボランティアコーディネーション力。参加しやすい活動プログラムの開発、思い付きも含め自由な発想が認められる環境づくり、互いにカバーし合える関係づくりなどの働きかけをする能力だ。
自発的行動の促進は、外発的な誘因(要はアメとムチ)ではなく、内発的に意欲が湧く環境を整えることこそが王道だ。ポイント制度の換金額増額などではなく、ボランティアコーディネーション力向上のための研修などにこそ、資金を投じるべきだと考える。
(注1)経済的報酬が生じるのにボランティアの呼称を使うことの問題点は、07年6月号の本欄(ボランティアって呼ぶな)で指摘した。(注2)エドワード・デシらの研究が有名だが、ダニエル・ピンク著、大前研一訳『モチベーション3.0』(講談社)では、その研究も含め、内発的な意欲向上の鍵を平易に解説している。
2025.05
コーディネーション力の向上こそ 活動活性化の王道
編集委員 早瀬 昇
2025.02
『新・学生のためのボランティア論』発刊に寄せて
編集委員 永井 美佳