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「市民活動促進法案」今国会成立要請の論理

事務局長早瀬 昇

 -「NPO法案」大阪公聴会陳述原稿-
 個人責任依存を脱皮できる法人格
 現行制度と併存の税優遇なら対象限定
 市民活動との対話で法案大幅修正

 「NPO法案」については五月二十二日、連立与党と民主党の担当議員間で修正の合意が成立し、二十八日、ようやく国会審議開始。六月一日には大阪で地方公聴会が開かれ、この公聴会に、当協会の早瀬事務局長が意見陳述者として出席した。そこで以下に、その発言内容を紹介する。

 初めまして。私は、社会福祉法人大阪ボランティア協会で事務局長を務めております早瀬と申します。大阪ボランティア協会は、三十二年前、昭和四十年に設立いたしました民間ボランティアセンターです。私は、昭和五十三年にこの協会に就職しまして、以来二十年間、ボランティア活動、市民活動の推進に取り組んでまいりました。特に二年前の阪神・淡路大震災には、全国の市民団体やボランティア・コーディネーター、それに経団連1%クラブ、大阪工業会傘下の企業の皆さんとともに「被災地の人々を応援する市民の会」を結成し、震災で被災された人々への救援活動を続けました。
 さて本日は、与党三党が提出され、本委員会で審議されいくつかの修正が検討されている「市民活動促進法案」の今国会での成立を強く希望する立場から意見を述べさせていただきたいと思います。
 資料として「市民活動促進法案の修正に関する四党合意を支持し、速やかに国会審議に入ることを要望する緊急アピール」の賛同者リストをお配りいたします。
 私は、現在審議されている「市民活動促進法案」について、

1.まず、この法案により、公共的な課題解決に取り組む多くの市民活動団体に対する法人格取得の規制が大幅に緩和され、多くの市民団体の法的地位の向上が進められると考えること、
2,税制優遇措置については、波及力が大きく多くの市民活動団体に福音をもたらす制度を作るには憤重な検討が不可欠であることから三年以内の検討に期待したいと考えること、
3.法案立案過程で、これまでには例のない規模で国会議員の皆さん方と多くの市民団体との間の対話があり、一定の修正がなされたというプロセスを評価し、法案成立に賛意を表するものです。

 以上の点について、逐次、陳述いたします。

 まず法人格についてですが、現行制度では公益目的の非営利団体が法人格を得るには「主務官庁の許可」が必要です。この「許可」には行政裁量の余地があることから、公益法人を「許可」することは行政としてその活動を評価し、いわば信用保証を与えるということになります。この信用保証の責任が行政に課せられるということから、許可される団体は極めて限定されがちでしたし、さらに言えば法人格付与という誕生の段階で民間の公益団体が行政の下に置かれる状態となっていました。
 この敷居の高さと行政管理の問題から、大半の市民活動団体は法人格を得られず、法的に権利と義務の主体として認知されないまま、特に代表者となる個人が活動に関する全責任を、それも無限責任の形で背負うということになっていました。
 このため、阪神・淡路大震災の際の救援活動のように、大変、リスクの多い現場での活動でも、いわば個人の善意だけに依存し、個人がリスクを背負う形で活動を進めざるを得ない状況にありました。
 しかし今回の法案が成立すれば、広範な範囲の市民活動団体が、行政担当者の裁量に左右されないより明確な方式で、法的な認知を受けることができるようになります。万一の事故に対しても“団体として”責任が取れることになり、これにより災害救援の場面などでも、民間の特性を活かした展開が、より容易にできるものと思います。
 なお、ここで確認しておきたいのは、私たち市民団体は、団体の法的な認知が得たいのであって、別に行政からの信用保証、つまり“お墨付き”が欲しいのではないということです。自らの活動に対する信用は、それぞれの自主努力によって築き上げるものだと考えます。その意味では、市民活動法人の認証にあたって、都道府県(二県をまたがる場合、経済企画庁)は、活動の内容そのものについての評価にまで立ち入ることなく、要件が満たされる団体に対しては、価値判断を極力排し、いわぱ機械的に認証手続きをとっていただくことを希望します.
 この点で、経済企画庁が認証する場合には主務大臣に相談できるとする条項などは、修正が検討されていると聞いていますが、この条項が削除されることは大きな意味をもつと高く評価いたします。
 次に税制面についてですが、非営利の市民活動団体の活動を活発化させるために税制の優遇措置が大きな効果をもつことはいうまでもありません。特に現行制度では個人からの寄付に対する税控除制度が極めて制限的で、私もできるだけ早く現行制度が見直されることを望むものです。
 しかしその一方で、この種の制度の改廃には慎重な検討が必要であることも理解できます。現行制度とのすりあわせも必要ですし、NPOを隠れ簑にした脱税防止対策なども重大な課題です。
 こうした問題をクリアする新しい税の体系を築くには、どうしても一定の期間が必要だろうと思います。逆にいえば、安直に税の優遇制度が作られた場合、その適用範囲は現行の特定公益増進法人のように極めて制限的にならざるを得なくなります。形だけは優遇税制度を作ったけれど、ほとんどのNPOは適用されない。少なくとも現在の特定公益増進法人制度をそのままにして新しい制度を作るなら、制度間の公平性・一貫性を保つため、そうならざるを得ないことは明らかです。拙速に、そのような制度を作って済ますのではなく、抜本的な制度改革のために二年間の時間をかけることの方が生産的である。私はそう考えます。
 そもそも、NPOへの寄付で問題となるのは、その団体が税制上の優遇資格を有することそれ自体も重要ですが、それ以上に税の優遇資格を国から認められているという信用、つまり行政の“お墨付き”があるかどうかがポイントになります。今後、税の優遇資格をもつNPOが広がれば、この“お暑付き”の効果は相対的に低下します。その意味で私たちとしても、税優遇資格への過剰な期待は禁物だと考えています。逆に先の論点である法人格の取得により組織としての確立が進み、活動内容のレベルアップを図り多くの市民や企業の期待に応えられる組織となることが、寄付者を広げる王道だと考えております.
 さらに、この税制優遇策が導入されても、その認定を受けるには、一般に数年の活動実績が必要です。制度を作れば、すぐに寄付金控除の資格を得られるということはありえません。ですから、今回、まず法人格取得の規制緩和を進め、続いて休むことなく税制度の検討に入っていただき、委員会審議を通じご二年以内の税制優遇を導入できれば、この三年間はNPOの活動活発化を抑制するものとはなりません。
 以上のような点から、波及力が大きく多くの市民活動団体に福音をもたらす制度が作られることに期待して、私は与党案に賛成します。皆さん、ぜひ私たちの期待を裏切らないで下さい。
 最後に、今回の法案立案のプロセスについてですが、この二年間、 多くの市民団体が国会議員の皆さんとの直接対話を進めてきました。大阪でもこの三月に国会議員の皆さんを招いた対話集会を開催しました。こうした国会議員の皆さんを招いて開いた対話集会は、通算十回を超えました。今回の議案検討にあたり、この市民活動団体と議員の皆さんとの対話は一定の役割を果たしたものと考えております。
 実際、こうした過程への共感もあり、先に配布しましたように昨夜の時点で北海道から九州まで全国の市民活動団体の代表者ら約五百五十人が、今国会での「市民活動促進法案」の成立を求める緊急アピールに賛同しています。
 以上、まず法人格取得の規制緩和が重要であること、税制に関しては波及力のある制度創設に時間を要することは理解できること、法案立案において市民活動団体の意向が一定程度反映したこと、の二点から、私は「市民活動促進法案」の今国会での成立を期待しております。

 以上で私の陳述を終わります。

市民活動情報誌『月刊ボランティア』1997年6月号   (通巻326号)

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