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「自発的な活動」のジレンマ~〝担い手〟としての過重な期待

編集委員筒井 のり子

 「こども食堂から一線を引く」
 そう発表したのは、他でもない「こども食堂」の名付け親と言われる大田区の「気まぐれ八百屋だんだん」の近藤博子さんだ。ご本人がSNSで発表し、その後5月末にウェブメディア(東洋経済オンライン)で紹介されたことで、一気に関係者の注目を集めた。SNS上では、「やりたくて始めた活動だが、近頃モヤモヤした気持ちが膨らんでいた」という人たちから多くの共感の声が上がっている。
 今や全国に広がった「こども食堂」。2024年12月時点で1万866カ所。その数はすでに公立中学校数を上回っている。「こども食堂」は子どもの貧困解消に役立つだけでなく、あらゆる人にとっての居場所となり、交流が生まれていく可能性をもつ取り組みとして、各方面からの期待が増大している。昨年から始まったACジャパンのテレビCMの影響も大きい。
  しかしその裏で、徐々に疲弊してきている現場が少なくないという。


  そもそも、「こども食堂」を運営しているのはボランティアだ。経済的な基盤が脆(ぜい)弱じゃくなところがほとんどであり、さまざまな工夫をしながら自分たちのできる範囲(規模や頻度)で取り組んでいる。「こども食堂」への行政の補助金や民間の助成金は増えているものの、それを獲得するための事務作業の負担も大きい。
 「こども食堂」の認知が広がり、食べに来る人が増えるのはうれしいことだが、自分たちのキャパ(受け入れ能力)を超えはじめると、疲弊感が蓄積していく。
 本来、子どもの貧困解消のためには、国や自治体が親の就労問題や教育問題、相談体制などにもっと真剣に取り組む必要がある。にもかかわらず、「こども食堂」を支援することが子どもの貧困対策であるかのようなイメージが広がっていることにモヤモヤ感が募るのだ。「公助が共助に甘えている」と指摘する人もいる。

 

 実は、こうした動きは最近の社会福祉において顕著になってきている。20年の改正社会福祉法で、「地域福祉の推進」の理念として、第4条第1項(地域福祉の推進は、地域住民が相互に人格と個性を尊重し合いながら、参加し、共生する地域社会の実現を目指して行われなければならない)が新設された。
 地域福祉において「住民」は、「支援される対象」と「活動の担い手、推進主体」という二つの側面を持っている。単に福祉サービスの受け手というだけではなく、自ら主体的に参加し福祉社会を創造していくことは、住民自治という観点から大変重要だ。
 しかし「参加」の中身がサービスの担い手の側面に偏り、その期待が過重になるとモヤモヤ感が生じる。たとえば社会保険である介護保険制度においても、「介護支援ボランティアポイント」をはじめ、ある時期から「活動主体」としての地域住民への期待が大きくなってきている。


  17年からはボランティア主体でサービス提供を行う「総合事業の住民主体サービスB型」も創設された。
 かつて、金子郁容氏はボランティアに関して「自発性パラドックス」という概念を提起した(注)。自ら進んでとった行動の結果、自分自身が苦しい立場に置かれるという現象を表したものだ。「こども食堂」を運営するボランティアたちが感じているジレンマやしんどさは、まさにこの状態と言えるだろう。
 ボランティアや地域住民の「参加」は、サービスの担い手という側面だけではない。問題状況の発信、制度の創出や改善に向けての働きかけなどより幅広いものだ。
 その意味で「こども食堂から一線を引く」という決断も、こどもを取り巻く困難な状況に日々真剣に向き合っているボランティアだからこそであり、その発信が投げかける意味は大きい。

(注)金子郁容著『ボランティア―もうひとつの情報社会』(岩波新書1992年)。

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