ボラ協のオピニオン―V時評―

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市民活動も「経営」の時代

 第一期「市民プロデューサー養成講座」が八月九日に修了した。この講座は大阪ボランティア協会が今年度新規事業の柱の一つとして計画したもの。二十八人の第一期受講者の中には、東京、鳥取、三重など近畿圏の外から毎週大阪に通う熱心な人もいた。
 講座のポイントは、市民活動の特徴をふまえた上で特に企画力を向上すること。協会では、ここ数年、「助成金のもらい方、教えます」といった実践的な講座を開いてきたが、この種の講座ではノウハウの伝授を超えるものとはなりにくい点が悩みだった。
 本来、助成財団や市民に支持されるプログラムは、内容の斬新さや効果・波及力の大きさ、実行性といった企画そのものが優れている必要がある。そこで、こうした企画を立案・推進できる能力をもった市民活動家を「市民プロデューサー」と名づけ、その養成に取り組むことになったのだ。

 それにしても最近、市民活動の世界でも企画力やマーケティング力を問う動きが本格化してきた。
 著名な経営学者P・ドラッカーの『非営利組織の経営』の日本語翻訳版が出版されたのが一九九一年。本書によって、従来、企業の世界の用語と思われていた「経営」という言葉が、営利を目的としない団体の運営にも適用できることが広く知られるようになった。そして社会活動にも企業で蓄積されてきたマーケティング理論が応用できることを説いたフィリップ・コトラーらの『ソーシャル・マーケティング』の翻訳が出版されたのは九五年。市民活動の世界に、「顧客」「市場」「効率」といった用語が急速に浸透してきている。
 実際、元来、市民活動には民間企業に似た面がたくさんある。目的が営利か非営利かの違いはあれ、ともに自発的な意欲のもとに活動が始まる。どのようなテーマを選ぶかは自由だが、結果に対する責任は自らが負う自己責任の世界。そして特に市民団体が専従スタッフを確保して活動を組織的に取り組むようになると「何もしなくても人件費などの増加で支出が増えるが、何か新しい取り組みをしなければ収入は増えない」という状況に追い込まれる。そこで限られた資金やスタッフを活かして、最大の「効果」をあげることが求められる。市民活動においても、まさに「経営」が鍵になってくるわけだ。

 もっともこれは、私たちが企業の経営ノウハウを学習すれば済むというものではない。「市民活動の経営」という場合、営利企業の経営にはない難しい課題がたくさんあるからだ。
 たとえば、市民活動では無給のボランティアと有給の専従スタッフが協働するという企業では考えられない態勢で活動が進められる場合が多い。無給であっても「夢」の実現のため努力しようとするボランティアと活動の安定と専門性向上のため専従で関わるスタッフとは、お互いに補い合う関係であると同時に、ある種の緊張関係も生まれやすい。
 また市民活動では、自らの活動を点検する客観的な「物差し」を見つけにくい。営利企業の場合なら収益といった客観的な物差しが存在するが、市民活動の場合、かなり主観的な評価に流れやすいのだ。「最近、活動がマンネリ気味で…」といった相談を受けることがよくあるが、これも活動を客観的に評価する物差しを持たないがゆえに起こる事態だ。

 このように「市民活動の経営」には、企業経営にはないセンスや能力、そして新しい経営理論の整備が必要だ。この理論を整備するには、日々、活動の推進に頭を悩ます実践家の参加が不可欠だろう。
 ともあれ、今、「市民活動の経営」が注目されるようになってきたのは、市民活動が一人前の存在とみなされるようになった証でもある。つまり企業なみに活動の「効果」が問われるようになってきたのだ。その上、寄付の有効活用といった「効率性」、賛同者の共感を持続させうる「透明性」、他の市民活動との切瑳琢磨を乗り切る「起業家性」など、今経済界で議論されている経営課題はそのまま(あるいは企業以上に)市民活動でも重要になってきた。まさに「市民プロデューサー」活躍の時代だ。

市民活動情報誌『月刊ボランティア』1997年9月号   (通巻328号)

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