自民党内で郵政三事業の国営維持論が広がったことに反発した小泉厚生大臣の 辞任発言で、低調かつ後退気味だった行政改革の論議が、また熱をおびだしてきた。
その行政改革。現在は、省庁の再編や地方分権のように行政内部の改革が大きな問題となっている。
もちろん、それはそれで重要なテーマだが、それだけに留まるなら「機構改革」の域を出ない。今回の行政改革が真に「改革」の名に値するものであるためには、もう一歩踏み込んだ改革が試みられねばならないだろう。
その、より踏み込んだ改革でのキーワードの一つは、まさに小泉厚生大臣が郵政事業で指摘している「行政による独占」の撤廃であろう。 現在、葉書や封書の送付業務は郵便局が独占していて、民間事業者は参入できない。これが「競争」を排し、結果的に国民の負担を増やしてはいないか。厚相は、そう指摘しているわけだ。つまり公共的なサービスにも競争原理を導入することで、現在の行政システムを抜本的に改革しよう。そんな議論が交わされるようになってきた。
実際、こうした行政(およびその関係機関)が公共活動を独占し、適切な競争を損なっているとも見える事例は、この国に数多く見られるものだ。今月号の特集として取り上げた公的介護保険に関わる事例-つまり従来の社会福祉事業の推進態勢などでも、この競争制限的な側面がある。
もっとも、その背景を点検してみると、やや複雑な事情がある。社会福祉事業法では、特に人権上の配慮が必要な入所施設などの「第一種社会福祉事業」を経営できるものを、原則として行政と社会福祉法人に限定している。これも一種の「競争制限」だ。
しかし元来、この規定は福祉サービスの「質」を一定水準以上に保ち、サービス対象者の人権を守るために定められたものだ。そこで行政が、社会福祉事業を民間団体に委託する場合、一定の規模と能力を有するものしか認可されない「社会福祉法人」に限ったのだ。
このように行政を中核とした事業独占という参入規制・競争制限の背景には、人権への配慮といった確固とした理由が存在している。現行システムには、それぞれこうした「存在理由」があるわけで、この秩序を崩す「改革」はそう簡単ではない。
しかもこのシステムのもとでは、たとえば社会福祉法人の認可を受け行政の措置委託を受けるといった形で行政の傘の下に入れば、結果的に経営を安定化させることができる。逆に社会福祉法人の認可が得られない団体は、まるで非合法の存在のようなイメージを与える「無認可」の呼称で呼ばれてきた。
実際、こうした団体は安定した行政資金を得られないことからサービス水準を高めることがなかなか難しい。そこで「無認可」の団体もまた、認可をめざす。つまり行政を頂点とした旧来の秩序が強化される方向に向かうわけだ。
制度的に確立した部門がますます強化され、自主的に取り組むサイドは疲れ果ててしまうとなると、行政を頂点とした競争の少ない仕組みは変わりようがない。こうした循環を脱皮し、公共部門でも良い意味での「競争」を進めていくには、どうすれば良いだろうか?
それは、NPOが、行政の支援に期待しすぎず、自らの力で行政の水準に見合う質のサービスを提供できるよう努力していくことではないかと思う。旧来のシステムに乗ることだけをめざしていては、新しいサービスの創造はない。旧来の仕組みを超えた「競争」を生み出すには、システムの外側に独立した形で質の高いサービスを提供できる仕組みを作っていくことしかないからだ。
実際、介護の分野ではそうした実践の積み上げがなされてきた。行政ヘルパーに勝るとも劣らないレベルの在宅ケア活動を提供してきたNPOの実践があったからこそ、介護保険制度で行政などと対等に競争する存在と認められたのだ。
効率的で質の高い公共サービスを実現する上で、多彩なサービスを自由に展開する「もう一つの公共活動」としてNPOが成長する意味は大きい。まずこの自負・自覚を持つことが第一歩だろう。
市民活動情報誌『月刊ボランティア』1997年11月号 (通巻330号)
2024.10
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