十一月八日、NHKは「NPO法案、非営利法人促進法として成立へ」と報じた。他の報道も総合すると、「『市民』の強調は国家・国民を軽んじる」との一部議員の主張を受け、法案名を「市民活動促進法」から「非営利活動促進法」に変更することで審議入りの道筋ができつつあるという。「市民」を避ける理由は納得しがたいが、元来、NPOの日本語訳は民間非営利団体なのだから、法案名の変更は了解できる範囲だろう。
しかし、こうした調整が進みながらも、法案成立の見通しは立っていない。本稿執筆時点(十一月二十日)では審議入りの日程さえ目処が立たないのだ。
この理由の一つは、平成会(新進党の参議院での会派名)が準備しているという本法案の対抗法案が一向に国会に提案されないことだ。平成会議員を中心とする「NPO法人法を考える議員の会」は、新進党が先の国会に提案した法案とはまったく構成の異なる法案を提案しようとしている。新提案ゆえの遅れもあろうが、十一月十六日の読売新聞は「平成会内に『今国会では廃案にし、改めてじっくりと検討を』との声もある」と報道。この報道から、会期末の十二月十二日を前に時間切れでの廃案をねらって提案を遅らせているのではないかとの見方も出ている。いわば「法案提出における牛歩戦術」だ。
ことの真偽はともかく、新進党や平成会が「市民活動促進法案」を強く批判していることは確かだ。この法案はNPOへの行政の監督を強め、かえって市民活動の促進を阻害するものだというのだ。
確かに「市民活動促進法案」は理想の法律ではない。市民活動の定義を十二の活動目的に限定しているし、税の優遇制度創設への道筋も明確ではない。 そこで問題は、この法案を「理想に遠く市民活動推進にマイナス」と見て反対するのか、逆に「現状では精一杯の法案であり、これを成立させないと市民社会への展望も開けない」と見るかということだ。
では、どう考えれば良いのだろうか。ポイントは「市民活動促進法案」の問題点が致命的かどうかという点と、仮にこの法案が今国会で成立しない場合、今後の見通しが立つのかという点だろう。
まず「市民活動促進法案」の問題点だが、初期に出された草案からすれば大幅な改善が図られ、この法案でも多くの市民団体の法的立場が高まると思われる。政策提言活動が自由になり、諫早湾問題など地域の環境問題に取り組む活動にも法人格取得の道が開かれた。また市民活動を活動目的で定義したことから、目的に合う多様な活動形態が認められることになり、たとえば保健福祉を推進するために、その一環としてオンブズマン活動をするといった活動も法的認知が得られるようになった。また行政の立入調査も「相当な理由がある時」「書面を交付し」と従来の公益法人に比べ格段にハードルを高め、市民団体の独立が守られやすい規定となっている。
一方、もし今国会で成立しない場合、「次」の見通しは暗い。仮に継続審議となっても、次の通常国会は「予算先議」の原則から予算関連法案が優先審議されるため、本法案の審議入りは早くて四月以降。しかしこの時期は参院選の前で、今の与党の枠組が維持される保証はない。今回、法案に多くの修正を盛り込む上で「連立」という態勢が果たした役割は大きいが、この態勢が崩れる可能性があるのだ。こうなると、次に出てくる成立可能な(「理想の法案」かどうかはともかく、実際に多数の議員が賛成する)法案は大幅に後退した内容となる危険性が高い。
そもそも法案に行政検査などの項目が持ち込まれた背景には、オウム事件で広がった「法人性悪説」的な見方がある。要は、法人格取得の自由化を求める声の一方で、それに反対する声もあるのだ。
政治とは、異なる意見の並立を認めつつ、暴力ではなく交渉で、現実的で有効な協調点を見出していく作業だ。実現性の薄い理想論を掲げて、かえって次善策を失うのではなく、まず現実の問題を着実に減らす戦略が必要だ。それにNPOの強化は行革推進上も重要だし(先月の本欄)、そもそもこれは大震災の反省から生まれてきた法案なのだ。ともかく時間がない。NPO法案は一日も早い審議入りの上、是非、今国会で成立させるべきだと考える。
市民活動情報誌『月刊ボランティア』1997年12月号 (通巻331号)
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