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「教育改革」とボランティア活動 - 生きる力の教育への参加 -

大阪ボランティア協会理事長岡本 榮一

 「我々は、子どもたちが、学校や地域社会での活動を通して、介護や福祉などのボランティア活動を経験することを通じて、将来、ボランティア活動を自然に行うようになってほしいと願っていることを改めて訴え、結びとしたい」。これは、社会福祉審議会答申の文章ではない。中央教育審議会の結びの言葉である。いわゆる21世紀を見据えた「教育改革」の中に、ボランティア活動の導入が決定的になったことを象徴している。
 個人的には、イリイチが言っている「学校化」や「道徳化」の中にボランティア活動が巻き込まれて しまうことを強く恐れるものである。
 しかし、何はともあれ1998年を迎えた。世紀末だからというわけではないが、ここ数年前から21世紀に向けての社会のパラグラム(枠組み)の転換が叫ばれるようになった。その具体化として「行政改革」「金融システム改革」や「福祉改革」などと並んで「教育改革」も求められてきているわけである。このような状況をふまえて、中央教育審議会は「21世紀を展望したわが国の教育のあり方について」と題し、96年7月の第一次答申を公表し、昨年の6月には第二次答申をまとめた。

 中教審の主な検討事項は、
  ①教育のあり方及び学校・家庭・地域社会の役割と連携のあり方、
  ②一人一人の能力・適正に応じた教育と学校間の接続の改善、
  ③国際化、情報化、科学技術の発展等社会の変化に対応する教育の在り方
の三つである。

 答申の中身を、特にボランティア活動とのつながりで言えば、個性を尊重する教育を目指すなかで、「ゆとり」を確保しつつ子どもたちに「生きる力」を育むことを基本とし、そしてこの「生きる力」を育む場としてボランティア活動を導入すべきとする具体案がいろいろな所で提示されている。
 たとえば、
  ①高校・大学入試でのボランティア活動経験を評価すること、
  ②ボランティア体験などを教科や日常の指導全体に取り入れること、
  ③教員にボランティア体験の研修を導入すること、
  ④「学校支援ボランティア」として高齢者の知識と経験を生かすこと
等である。答申の結論はボランティア活動を、21世紀には教育行政に積極的に学校内外の場に導入し、単位認定しようということにほかならない。
 このような動向は、教育サイドからの、福祉やボランティア活動への参入の時代の始まりだとも言えるし、逆に、福祉やボランティア活動の教育への参加の時代の始まりだと言えなくもない。しかし、いずれにしても教育行政あげての参入だけに、十分な備えがないと「生きる力」を育むどころか、逆の効果を生むことにさえなりかねない。
 感受性の強い世代だけに、体験学習のプロセスには細心の配慮が必要である。「生きる力」とは、答申では「自分で課題を見つけ、主体的に判断し、行動し、よりよく問題を解決する資質や能力であり、また自らを律しつつ、他人とともに協調し、他人を思いやる心や感動する心など豊かな人間性を意味する」(要約)とあるが、このようなことが現状を見ると果たして可能であろうか。失敗や疑問や感動を受け止めるような個別的な指導がどれほど出来るかも大きな課題である。その意味では、福祉施設などにボランティア・コーディネーターの設置が急がれる。責任を持つという意味で、場合によっては断わる勇気のある施設像も必要となる。
 さらに、取り組みの中心となる先生方の「福祉観」も大変重要である。福祉は「あわれみ」ではない。人権擁護の具体的な仕事である。福祉観や社会福祉の営みの正しい理解を進めることも課題となる。中には、ボランティア活動というのは、施設訪問である、などといった短絡した理解者も多い。画一化しない多様な、感動できる、わくわくするような活動プログラムなども開発し、学校や地域で利用できるようにする必要も出てくる。しかし、福祉教育の原理と展開の原則を提示することが重要になる。
 そして、何よりも社会福祉協議会やボランティアセンターの「教育界」との連携の輪を大きく、強くする必要がある。

市民活動情報誌『月刊ボランティア』1998年1・2月号 (通巻332号)

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