ボラ協のオピニオン―V時評―

寄付する・会員になる

ボラ協を知る

ボランティアする・募る

学ぶ・深める

法人化を考えることの意味

(漫)

 NPO法(特定非営利活動促進法)の施行日を今年十二月一日とすることが、ほぼ確実になった。正式には総理府令が官報に告示されるのを待たねばならないが、すでに各都道府県の担当部局ではNPO法の運用に関する条例案作りなどの準備を進めている。条例案は遅くとも今年九月の都道府県議会で審議しなければならないから、申請手続きの詳細は夏頃には明らかになってこよう。
 ともあれ十二月には法人認証の申請受付が始まる。申請後、申請書類を二ヶ月間、縦覧した後、二ヶ月間以内の審査で認証・不認証が決定されるが、認証申請が集中しそうな法の施行後半年間に受け付けたものは審査期間を十ヶ月以内の決定となる。もっとも中にはスムーズに認証作業が進む団体もあるだろうから、来春には晴れて「特定非営利活動法人」の肩書きを掲げた団体が登場しそうだ。
 この「特定非営利活動法人」の認証審査にあたっては、活動内容などの事前審査はなされず、法律が求める体裁が整っているかどうかという書類審査だけで法人格の認証が行われる。十人以上の正会員がいてNPO法人の定義に当てはまる活動目的をかかげるならば、特に資産は不要だから、結局、大半の申請団体が法人格を取得できるだろう。NPO法が法人格取得の規制緩和といわれるゆえんだ。
 ただし法律が規定しているのは法人格付与に関する点だけであり、税制上の優遇策などの特典が得られるわけではない。活動内容が審査されるわけではないから、認証されたからといって行政の信用保証(つまり、お墨付き)が得られるわけでなく、逆に任意団体であった時には存在が目立たず、お目こぼしとなりやすかった法人住民税の均等割が課税されるなど、一定の経費負担は不可避だ。
 結局、NPO法が道を開いたのは、法人格を得ることだけ。つまり「団体として」契約ができ、「団体として」資産を持つことができるだけなのだ。
 「それじゃ、何の実利もないじゃないか。規約を作ったり活動報告や会計報告をしなければならないなど、かえって手間もかかるなら、法人化しない方が楽だな」 そんな声も聞こえてくる。
 しかし、だ。「税制優遇があるから法人格を取得する」というのは、法人化の意味から考えれば、本来、筋違いの話だ。法人化することには、それだけで重要な意味がある。「団体としての」成長が必然化するということだ。
 そもそも、なぜ「法人」という擬制 つまり、本来、実質の異なる団体と個人を法的に同一の権能があるものとみなす仕組みがあるのか? それは団体に個人のような一つの意志があると見なすことで、団体の事業活動をスムーズにするためだ。
 もし法人制度がなければ、団体といっても単なる個人の集合でしかない。そこでは人それぞれの個性があり、意見も異なる。いつ起こるか分からない意見の食い違いを考えると、集団の組織性はきわめて不安定だと言えよう。
 「そういう多様な人々との交流を楽しみたい」という「仲良し集団」を志向するのならば、もちろんそれはそれで良い。しかしそうした、内向きの交流がメインの集団に寄付金を託す人はいないだろう。
 法人化するということは、そうした個人個人の思いよりも、団体としての目標や方向性を前に出す組織を目指すということだ。つまり、団体を作る目的を明確に意識し、その実現のためにメンバーの努力を集中させる組織になる、ということだ。そこで、その手続きを明確にするため、規約を作り、意思決定の責任を負う役員や日々の活動の基準となる事業計画を決めるといった作業が必要になってくる。
 こうしてみると、今回のNPO法が法人格にしか触れていないことは、現段階ではかえって良かったのかもしれない。法人化の検討を通して団体としてのビジョンを冷静に考えることができるからだ。
 NPO法は、たとえ資産が一円もないボランティアグループであっても、法人格を取得する道を開くものだ。その気にさえなれば、大半のボランティアグループは法人格を得ることができる。
 そこで、一度、自分たちのグループに「法人格」が必要かどうかを話し合ってみてはどうだろうか?ひょっとしたら今は気付かないグループのビジョンや可能性が見えてくる…、かもしれない。

市民活動情報誌『月刊ボランティア』1998年6月号   (通巻336号)

ボラ協のオピニオン―V時評―

  • 2024.02

    新聞報道を「市民目線」で再構築しよう

    編集委員 神野 武美

  • 2024.02

    万博ボランティア、わたしたちはどう向き合い生かすか

    編集委員 永井 美佳