ボラ協のオピニオン―V時評―

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「市民活動市場」を作ろう!

(漫)

 「市場」という言葉が時代のキーワードとなってきた。政府の威信をかけた経済政策も、市場が信任しなければ効力を発揮しない。四大証券の一つと言われた山一證券も、かつては絶大な信頼を集めた日本長期信用銀行も、株式市場の厳しい評価の中で姿を消すこととなった。市場は、政府をも超える存在として成長してきたのだ。
 ところで、この市場を構成するのは実は私たちだ。私たち個人個人の思惑が市場を作り、市場を動かす。つまり近年の事態は、政府を構成する一部の「エリート」が社会を動かすのではなく、私たちの多様な思惑が社会を動かす力として前面に出てきた中で起こっていることになる。そこで破綻した金融機関の処理などでも、政府のエリート官僚との密室の調整ではなく、私たち自身が納得できる透明な取り組みでなければ、意味をなさなくなってきたのだ。
 このように考えると市場が社会を動かすということは、不安定さをもたらしやすいという問題はあるにせよ、本質的に民主的な仕組みだと言える。市場に参加する個々人がそれぞれ人生の主人公となり、自己責任の原則のもと、自由に選択し行動する仕組みだからだ。
 この「市場」の仕組みを応用して、市民活動を促進することはできないだろうか。自己責任や自由な選択とは、市民活動の核となる「自主性」そのものだし、それに以下のような点で市場の仕組みは市民活動の推進に都合の良いことが多いからだ。
 そもそも市場とは、人々が協同するための仕組みでもある。市場は売る人と買う人が出会う仕組みだが、それは交換を通して互いに不足するものを与え合う「助け合いの仕組み」という側面も持つ。
 市民活動の世界でも、応援を求める人と活動したい人、資金不足で悩む市民団体と助成財団といった形で、市民活動の「売り手」と「買い手」が存在する。この両者が出会う場が「市民活動市場」だ。
 現実には、活動を進める「売り手」に比べ支援者である「買い手」が大幅に不足している。しかし、この問題の克服に他ならぬ「市民活動市場」の創設が有効なのだ。
 というのも、支援者不足の原因の一つに、どんな支援先や支援方法があるのかという「活動メニュー」が見えにくいという問題がある。「市民活動市場」は、この潜在支援者の掘り起こしに有効だからだ。
 「何が買いたいか」、つまり自分が選びたい活動テーマが定かでない人も、活動の多様な広がりをながめる「ウィンドーショッピング」を楽しむことができる。気軽に市民活動に接する機会が作られるわけで、その結果、市民が活動に関わる敷居を大きく下げ、市民活動を支えるすそ野を大きく広げることができる。
 それに「市場」は多様な価値観が共存できる仕組みだ。豪華な装飾を施した商品を選ぶ人もいれば、実用本位の商品にしか目を向けない人もいる。様々な価値観をもつ人が受け入れられるのが市場だ。
 市民活動の世界にも実に多様な目標を持った活動があるわけで、その多a様な価値が共存できる仕組みが必要だ。市場という仕組みはそれを保障するし、そもそも「品揃え」が多彩なほど、市場としての魅力が高まる。多彩さ、多様性こそがセールス・ポイントとなる市民活動にとって、この点もとても重要だ。
 そして市場は、多様性を認める一方で、同種の商品やサービスの間で厳しい競争が起こる仕組みでもある。より支持者の多い商品が生き残る優勝劣敗の世界だということだが、それゆえに市場を通じて商品の質や効率性が高められることになる。別の言い方をすれば、市場には客観的な評価システムという機能がある。
 市民活動では、時に活動が独善的な形で暴走することや、変化するニーズについていけないマンネリ化をおこすことがある。これをただす上でも市場は有効なのだ。
 やや抽象的な議論を重ねてきたが、要は多様な市民活動の実状が一目で分かるような仕組みを築くことだ。それは、たとえばコンピュータで検索できる活動情報データベースを構築していくことや、多くの市民団体が活動実績を共通の様式で公開していくということから始めることができる。
 これまで市民活動の促進というと、行政による支援策の充実といった議論に終始しがちだったが、これは保護的な対応となりやすく、かえって市民活動の自立を損なう面もあった。そろそろ我々自身の努力によって支援者を得る態勢に転換するべきだろう。そして、自らの活動の魅力によって支援者を集める仕組みである「市民活動市場」こそは、その舞台となるものであろう。

市民活動情報誌『月刊ボランティア』1998年11月号  (通巻340号)

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