市民活動を組織的に進める上で大きな制約となっていた法人格の取得規制は、昨年十二月に施行された「特定非営利活動促進法」(通称、NPO法)で大幅に緩和された。五月十四日現在、全国で五百七十六団体が特定非営利活動法人の認証を申請し、既に百九十団体が法人格を取得している。従来の公益法人制度では門前払いを受けたであろう団体が大半で、NPO法が市民活動団体法人化の扉を大きく開いた感がある。
しかし、法の施行から半年が経ち、この法律の運用に関する問題もかなり見受けられるようになってきた。
一つは、行政の認証担当者が新しい制度を十分に理解せず、認証権限をたてに、市民活動団体に窮屈な定款(団体の規則)を押し付けているという事例だ。
たとえば、定款に活動内容を列挙した上で「その他」と書いたら、活動内容が不明確になるからと削除を求められた(法律で「その他」を挙げることは禁止していない)とか、総会の定足数は過半数にせよ(会の性格に応じて自由に設定可能。たとえば国会の定足数は三分の一だ)とか…。
中には、事務所の表記は町名や地番まで定款に書き込まないといけないといった指導をする例もある。本来は最小行政単位まで、つまり市町村名(東京の特別区では区名)まで書き込めばよく、さらに町名や地番まで記入するかどうかは各団体の自由に任されている。指導に従って定款に地番までの詳しい住所を書き込むと、事務所を移転するたびに臨時総会を開いて定款を改正しないといけなくなり、随分、活動を窮屈にしてしまうことになりかねない。
このような問題が起こるのは、行政担当者の勉強不足に加えて、旧来の公益法人では行政が作ったモデルどおりの定款を作るよう指導するのが常だったため、それと同じ姿勢でNPO法を運用しようという担当者がいることがある。
しかも、対する市民活動団体の側も法律についての正確な知識がなく「言われるがまま」になっていたり、また早く法人格を得たいため、安易に定款を変更するということがあるようだ。
NPO法は、行政が市民団体の上に立つのではなく、市民団体と行政が対等なパートナーとなる関係を築く法律でもあったはずだ。しかし現在、地域によっては、行政担当者の顔色をうかがって認証を求めるという関係が残る自治体もある。これでは、法律の目標とする行政と市 民団体の新しい関係が生まれるとは思えない。
以上は申請書類受理前の問題だが、これに加えて、最近、「縦覧」(法人認証を申請した団体の申請書類の内容が適正かどうかをチェックするため一般に公開する作業)の期間を終えた団体に対して、「誤記が見つかったから…」と定款の訂正を指導し、認証していくという事例も出てきた。
不正な点があれば「不認証」にすれば良いのだが、なぜわざわざ「誤記」(つまりケアレスミス)があったと認定して、「縦覧」済みの書類を訂正させるのだろうか?
それは、実は行政側にも「不認証」の裁定を出したくない理由があるからだ。
まず「不認証」にする場合、都道府県は不認証理由を文書で明示しないといけないという作業上の面倒さがある。それに「不認証」を出すことで「市民活動に厳しい都道府県だ」という悪いイメージを持たれやすいということもある。そして、もう一つ。行政担当者が「不認証」とした団体の再申請の手間をおもんぱかり、いわば親切心から、「誤記」の扱いをしてまで「認証」に持っていこうとする面もあるようだ。
各地で認証が進む中で起こっている事態には、このように複雑な背景がある。
しかし、こんな形で認証団体が増えることは、本当に良いことなのだろうか?
この事態にも、書類受理前の事前指導と同種の問題がある。それは手続きが不透明になりやすいことに加え、行政の指導が本当に正当かどうかはっきりしないまま、行政担当者が正しいと思う定款が既定事実化していくからだ。つまり、ますます行政主導のNPO法運用となってしまうのだ。
では、どうあれば良いのか。それは、行政が認証に適しないと考えるなら、どんどん不認証にすることだ。そして、市民団体が行政の判断に納得できないなら、どんどん訴訟を起こしていくべきだ。法的に有効なNPO法の解釈は、行政担当者の判断ではなく、裁判で確定するものだからだ。
高名な法学者イェーリングの著書『権利のための闘争』は、次の書き出しで始まる。「法の目的は平安であり、その方法は闘争である」。権利とは、争うことでしか生みだされないものだと思う。
市民活動情報誌『月刊ボランティア』1999年6月号 (通巻346号)
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