ボラ協のオピニオン―V時評―

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「気軽に、楽しく」を超えて

編集委員早瀬 昇

 「定期的なニーズや長期の関わりが必要なニーズにボランティアが集らず困っています」。二月二十五、二十六日に東京で開かれた「全国ボランティアコーディネーター研究集会」の参加申込書に、こんなメッセージが切々と綴られていた。
 よく耳にする話だ。「単発のイベントに応募するボランティアは多いのに、在宅のケースなどにはなかなかボランティアが見つからない」。コーディネーターから、こんな嘆きをよく聞く。依頼者の切実な状況を知るだけに悔しくてならない。依頼者の心情に同化して被害者意識にも似た憤りをぶつけられることさえある。
 「いつでも、どこでも、誰でも、気軽に、楽しく」。ボランティア活動の世界にこんなキャッチフレーズが登場して久しい。この標語のもと、それまで禁欲的で犠牲的な取り組みだと思われがちだったボランティア活動のイメージを変えることが目指された。同時に夏期を中心に様々な短期体験プログラムが企画され、イベントなどのボランティア募集情報がインターネットなどで簡単に検索できるシステムも整備された。
 一種の「決意」が必要なものとさえ考えられてきたイメージの障壁(バリア)を崩す「バリアフリー」タイプの活動促進策の推進で、以前に比べてずっと「気軽に」ボランティア活動に参加する人たちが増えてきた。それが活動への敷居を下げ、参加者のすそ野を広げることに大きく貢献したことは間違いない。
 しかしその流れの中で、気軽にできる活動が広がる一方、かなり覚悟しないとできない活動が敬遠される傾向が広がっているのではないか。冒頭のコーディネーターの嘆きの背後に、そんな戸惑いが感じられる。
 そしてこんな戸惑いが高まる「事件」が、昨年、あるボランティアセンターであった。センターで「パソコンを使ったボランティア活動を考える」という講座を開催したところ、定員の二倍を超える応募者が集った。主催者は「インターネットの普及が進む時代の風をとらえた企画が当たった」と思ったが、応募者と話すうちに様子が違うことに気付いたという。というのも、障害のある人にパソコンの使い方などを教えるという活動内容を説明すると、「パソコンでボランティアをするんだったら、人と話をしなくても良いと思ったのに…」と戸惑いをもらす参加者が少なからずいたというのだ。
 活動希望者の中に他者との関わりを避けたがる人が少なくないとはややショッキングだが、しかしこれは見方を変えれば、人付き合いの苦手な人たちにもボランティア活動のすそ野が広がってきたことを示す事例だとも言える。ただし、ここでも活動希望者に見えているのは自分の特技だけで、社会問題はほとんど視野に入っていない。
 二つの事例は、現実の社会問題と活動希望者の意識の間に、大きなギャップがあることを示している。
 ボランティア活動に参加する人たちのすそ野は確実に広がってきたが、「気軽」に参加した人たちの中から深みのある活動を志向する人たちをどう引き出し、支えるか。社会の切実な問題とボランティアとをつなぐコーディネーターにとって、重要な課題になってきている。
 ここで、昔から説かれているのが「問題意識」の深まりを促す問いかけだろう。たとえば、活動の依頼者がかかえる問題を語り、その問題に私たちがどうつながっているかを説明する。そうしてボランティアの自覚や認識を高めていく。
 しかしそうした努力は、ここで紹介したような事例ではあまり有効ではない。「少し難しい話をしたら白けられる」「『問題意識』なんて言葉は死語じゃないですか?」 そう返されるコーディネーターが少なくないのだ。まさにそれが「現実」だろう。
 では「気軽に、楽しく」の時代は、深い関わりを求められるニーズに関わるボランティアは見つけられないのだろうか。
 ここで思い起こしたいのは、楽しさとは深い関わりの方が、より大きくなるということだ。気軽な関係での楽しさは浅いものでしかない。苦労を重ね合った関わりの中でこそ得られる楽しさがある。「気軽に」志向の人たちに、この深い活動ならではの醍醐味を伝えることが、今、求められているように思う。
 そしてここで大切なのは、他ならぬコーディネーター自身が深く関わる活動の楽しさを実感として知っていることだ。
 「気軽に楽しく」から「深く楽しく」へ。その橋渡しも、コーディネーターの大きな役割となってきた。

市民活動情報誌『月刊ボランティア』2000年3月号   (通巻353号)

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