ボラ協のオピニオン―V時評―

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「公共」とは「公開」の世界

編集委員早瀬 昇

 総理大臣が入院した事実が二十二時間にわたって隠され、しかもウソの発表がなされるという事件が起こった。脳死が云々されるほどの重態、首相の交代という重大事件が続き、問題の大きさが十分に問われぬまま「ウソ発表」事件の責任はうやむやになりつつある。しかし今回の事件は、もっと深刻にうけとめるべき問題だと思える。
 今回の事態については、まず「危機管理のずさんさ」という観点からの非難がある。それはそれで重大な問題だ。しかし今回の事件は、より深刻な事態が表面化したものだと思う。それは「パブリック」という観念が、この国の政治権力の中枢に座る人々の間に十分理解されていないのではないかという問題だ。
 総理大臣は、衆議院の解散権を有することをはじめ、私たちの暮らしを左右する大きな権力を持つ最高権力者だ。その影響力の大きさという意味で「パブリック」つまり「公共的」存在だし、しかもその権力は私たち国民から託されたものなのだから、その意味でも公共的な存在だ。
 そうである以上、権力者の急病という事態は、権力を託している国民に速やかに報告されなければならない。今回の事態に関して秦の始皇帝や戦国時代の武田信玄の死が長く隠された例を引き、「権力者の病気は、とかく秘されるものだ」という訳知り顔の解説がある。しかし専制君主や封建領主が社会を支配していた時代と現代を同列で論じることは、民主主義の理念を否定するものだ。その意味で私たちは、今回の経過に対して、もっと怒るべきだと思う。

 ただし、この「パブリック」という観念が日本人にとってなかなか理解しにくい面があるということも事実だろう。そもそも江戸時代末期にこの言葉が西欧から伝わるまで、日本語に「パブリック」に当たる言葉はなかったからだ。
 このあたりの事情は、たとえば『日本の財団』(林雄二郎、山岡義典著。中公新書)に詳しい。それによると、今、「パブリック」の訳語とされる「公」という言葉の語源は「大きな家」だったという。それはまず天皇の家という意味だったが、徐々に拡大し、領主・為政者の家の意に広がった。そこか ら、為政者のすることが公事となった。そして、これに対す私事(わたくしごと)は一種の後ろめたさが伴うことになる。
 これについて象徴的なのが、1860(万延元)年、福沢諭告が編纂した日本最初の英和辞典とされる『増訂華英通語』の中で「公」の語に「オモテムキ」とカナをふり、これに対応する英語をPUBLICとしていることだ。ここには当時の日本人の価値観が見事に反映している。つまり世間につながる「公事」とは表向きの世界であり、これに対して一般の人々の暮らしにつながる「私事」は内々の事、表に出して はならないことだ、という発想だ。
 現代社会に生きる私たちの考え方の中にも、確かにこの過去の文化につながる面がある。なにせ今回も、公的な大事件である総理大臣の入院という事実がまるで私事であるかのごとく秘され、まさに表向きには「自宅で書類を読む」などとされたのだ。しかも、その対応の異常さに対する世論の反発は、思いの外、少ない。多くの人には、どこかで「そういうものだ」と納得してしまう感覚があると思わざるをえない。

 ここで、この事態を嘆くだけでは状況は変わらない。私たちが進める市民活動を通じて、本来の「公共的取り組み」のあり方を示していくことが必要だ。  そこで私たち市民活動に関わるものが重視すべきことは、取り組みを徹底的に「公開」するという姿勢だ。そもそもPUBLICの原義は「誰でも近づくことができる。誰に対しても開かれていること」だと言う。活動に関わる情報を誰もが知りうるようにすることも、公共的な営みの重要な要素なのだ。
 今、大阪ボランティア協会・NPO堆進センターでは「情報公開と市民参加を進めるNPOネットワーク」(通称、NPO向上委員会、十八面参照)に参加する市民団体を募っている。オープンな運営、透明な活 動を基本とする市民活動団体がネットワークを作り、それぞれの信頼性を高めることで、支援者との協力関係を強め、活動をより良いものとしていこうというものだ。加入条件は運営状況や活動実績を詳しく公開すること。活動の規模や分野、法人格の種類や有無に関係なく参加可能だ。
 私たち自身が実例を示すことで、公共的活動の新たなスタンダードを作っていくことが必要だと思う。

市民活動情報誌『月刊ボランティア』2000年5月号   (通巻355号)

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