この数ヶ月、多くのスポーツファンは釈然としない思いでいるに違いない。シドニー五輪の女子水泳や女子マラソンの代表選考に関する不透明さ、またサッカー日本代表の監督交代問題にまつわる不明朗さのゆえである。スポーツファンならずとも歯がゆい思いになる。問題はつまるところ、基準とプロセスが不明確だという ことだ。
一方、同じ時期に相次いで二つのNPOの「不正」が新聞紙上に登場した。一つは、「アフリカに学校建てた福岡のNGO、ウソの寄付金集め-帳簿、会計報告もなく」(四月十九日、毎日)というもので、既存の学校に寄付をしただけなのに「自分たちで建設をした」とホームページなどで宣伝し、数十万円から三百万円の寄付金を集めていたというのだ。しかも、帳簿すらないというずさんな運営だったという。
もう一つは、兵庫県に特定非営利活動法人(通称NPO法人)の設立申請をしていた団体が、申請書類の「社員名簿」に無断で複数の人の名前を載せ、それが二ヶ月間の一般公開中に発覚し不認証になつたというものである(五月三日、朝日)。
これらはあまりにも極端な例である。しかし、こうした落とし穴の入り口は、実はどんな団体にも潜んでいるのではないだろうか。故意や悪意ではなく、ちょっとした怠慢や知識、技術のなさから結果的に不明朗な会計になってしまうこともある。組織の体力以上の多額の助成金や寄付金を急激に得た団体は、特に大きな穴がロを開けて待っている。
その落とし穴に足を滑り込ませないためにはどうすればいいのか。
そこで気になるのは、とくに福岡の団体である。この団体は1997年に設立され、2年半がたっていた。その2年半の間に総会は開かれなかったのか。役員には元NHKアナウンサーや大学教授が就任していたとのことだが、会計報告がなされないことに対して何もアプローチはしなかったのだろうか。あるいは、再三注意を促していたにもかかわらず改善されなかったのかもしれない。記事に書かれている以上のことはわからないが、この例から私たちは多くを学ぶことができるだろう。
その一つは、理事や監事、あるいは運営委員といった組織の方針や経営に関わるボランティアの役割自覚の問題である。組織の規模や設立の経緯によって、役員構成や理事会と運営委員会との役割分担等にそれぞれ特色があるため、そのあり方を一律に論じることはできないが、共通して言えることは、“非常利組織の経営に参画するボランティア活動”がこれまで軽視されがちだったということだ。形だけ、名前だけの役員会や委員会も少なからずあり、経営に責任を負うという役割がボランティア自身も、また団体内においても十分に認識されていない場合も多かった。
経営に責任を負うということは、結果はもちろんだが、むしろそのプロセスに責任を持つということだ。資金の使い方にしても、事業の展開にしても、そのプロセスをしっかりと把握し確認することが経営に参画するボランティアの役割だろう。そうした確認を一つひとつしていけば、自ずと、不透明さや不明朗さの落とし穴 にはまる危険性は大幅に減少する。
そのためには認識や自覚だけでなく、トレーニングも必要だ。すなわち、理事や運営委員など“経営に参画するボランティア”向けの研修を今後工夫していくことが求められている。そしてなにより、それぞれの団体の中で、それら経営に関わるボランティアの位置づけや役割を再確認しあうことが重要だ。
さらに、このプロセスヘの関心は、会員や支援者にも求められることはいうまでもない。
おりしも、様々なボランティアグループや市民活動団体の「総会」の季節である。とくに、特定非営利活動促進法(1998年12月1日施行)後すぐに申請を行い、1999年度早々に法人格を取得した団体にとっては、いよいよ1年間の歩みを披露し点検するときがやってきたわけだ。しっかりとプロセスを確認しあい、透明な運営を目指したい。
市民活動情報誌『月刊ボランティア』2000年6月号 (通巻356号)
2024.10
「新しい生活困難層」の拡大と体験格差〜体験につなぐ支援を〜
編集委員 筒井 のり子
2024.10
再考「ポリコレ」の有用性
編集委員 増田 宏幸