ボラ協のオピニオン―V時評―

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「免罪符として社会奉仕活動」の功罪

NPO推進センター川口 謙造

 プロ野球、西武ライオンズの松坂大輔投手が無免許運転により、道路交通法違反で書類送検された事件は、プロ野球ファンのみならず多くの市民にとって残念な出来事だ。
 十月十四日付けマスコミ報道によると、西武、堤義明オーナーは、球団社長、そして身代わり出頭した広報課長の二人に即刻辞表提出を厳命した。当の松坂投手に対しては、オーナー処分として、今季の登録抹消と以後の野球活動の一切の停止、自宅謹慎、そして「社会奉仕活動など社会的信用回復の方法を球団と協議、努力する」と公表している。
 この記事を読んで、どうもひっかかるのは、堤オーナーの処分の内容である。彼が、社会奉仕活動とボランティア活動の意味の違いを厳密に捉えて発言したかは分からないが、言わば「免罪符」としてボランティア活動が強制されたり、行われることをどう捉えたらよいのだろう。
 このケースは、一企業の社員への処置でしかないのだが、著名なプロ野球選手であり、マスコミ報道を含め市民に対する影響力は少なくない。自発性を原則とするボランティア活動への、市民の理解を阻害する要因となるのではと危惧するのである。
 社会的、法的なペナルティを回復する措置として、ボランティア活動(奉仕、社会参加、ボランティア活動と表現は曖昧だが)が取り上げられる例はある。たとえば、違反や犯罪に対する刑の軽減、免除等である。
 判例は四年前の神戸地裁のもので、被告人は、無免許運転などの前科が複数あり、かつ執行猶予中にも関わらず再び無免許運転をした。状況的に実刑が確実と見込まれるケースだが、一審判決においては、被告人がボランティア活動をしたことなどを有利な情状と見て執行猶予に付したのだ。被告人は、公判中に、手話講習に通い、イベントボランティアへの参加、震災被災地の仮設住宅訪問等のボランティア活動に携わったという。そして、「ボランティア活動に参加して、これまでの自分の考え方のいいかげんさや身勝手さを思い知らされた」と供述している。
 しかし、これに対して、大阪高裁は、原判決を取り消し、被告人を懲役三月の実刑に処した。そして、原審がボランティア活動を量刑上考慮した点について厳しく批判している。そもそも「交通の危険性の除去ないし減少とは何ら関係のないボランティア活動をしたことをもって、被告人に対する社会的非難が減弱したと評価することは、無免許運転罪の罪質にそぐわず失当というべきである」と。あきれたことに、被告人はボランティア活動に行く時にも無免許で運転をしていたらしい。
 もし、原判決がまかり通るならば、極端な話、ボランティアはすべて、無免許運転をしても情状酌量が認められることになる。そんな馬鹿な話はない。
 しかし、道路交通法においては、「軽微な違反を犯した者に対する講習の義務づけ」があり、この講習には、「一定の社会参加活動を選択することができるようにする」とある。「社会参加活動を含む講習」が用意されているのだ。あくまで選択制ではあるが、「社会参加活動」体験を含むコースを受講すれば運転免許の効力の停止処分が課せられず、処分前歴にもならない。この件については、法律の施行時、マスコミ等でも話題となったので、ご存知の読者も多いだろう。
 これらの問題点として、いくつか指摘をしておきたい。
 ひとつに、施策の動機はどうあれ、結果的に活動を「強要」する力が働くこと。  前号のV時評(「奉仕活動の義務化」について)、「罰をちらつかせて参加を強要する義務化」の表現を借りれば、「社会的不信の回復、法的な刑の軽減、免除をちらつかせて参加を強要する義務化」であり、そのつもりがなくとも結果的に参加を「強要」してしまうしくみとなれば、ボランティア活動の特性(自発性)を歪めてしまう。
 次に、ボランティア活動=善行の図式だ。社会的なペナルティ、すなわちマイナス点を埋め合わせする社会への「善行」=「プラス点」として、ボランティア活動が捉えられていること。
 ボランティア活動にある個々の価値観を、誰も公平に「社会のプラス点」として評価などできない。被告者のボランティア活動の実績を評価する裁判官は、現在行われているすべての活動をプラスとして評価するのか。結局、「多数者にとって、あるいは一般的に善いこと」を前提とせざるを得ず、それではボランティア活動の多様性を認めることにはならない。
 最後に用語の混乱である。今回あげた事例でも、社会奉仕活動、社会参加活動、ボランティア活動とある。
 もし、どうしても必要ならば、もっと目的を明確にした言葉を使ってみたらどうだろうか。松坂の例ならば「著名人、信用回復活動」、道路交通法ならば「社会的モラル獲得活動」…。センスはないと自覚するが、紛らわしさが幾分軽減されると思うのだが。

市民活動情報誌『月刊ボランティア』2000年11月号  (通巻360号)

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