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全国ボランティアコーディネーター研究集会2001の開催に際して

大阪ボランティア協会理事長岡本 榮一

 この一月二十六日と二十七日に大阪で「全国ボランティアコーディネーター研究集会・二〇〇一」が開催される。全国的な規模でのボランティアコーディネーターの研究集会は今年で七回目である。
 ボランティアコーディネーターについては、日本では七〇年代に入って、福祉施設や病院などボランティアを受け入れる施設や団体の中からその設置が課題となり始めた。その啓発と学習を目的に日本で最初に開かれた講座は、七六年に大阪ボランティア協会が開いた「ボランティアコーディネーター養成講座」である。
 その後、紆余曲折を経ながらも、ボランティアコーディネーターの社会的必要性が広く一般的に認識されたのは、九五年の阪神淡路大震災であり、全国から押し寄せた百三十万ともいわれるボランティアとニーディ(必要とする人や団体)を結びつける仲介組織の存在とコーディネーターの大活躍が注目されたわけである。
 これを機に、近年、急速にボランティアコーディネーターの社会的な必要性が高まっているが、新たな社会的背景や理由を見ておくことが大事になる。特にそれは市民参加型の社会づくり、そのための人づくりの流れと深い関わりがある。具体的な施策としては九八年の「NPO法」の施行があるし、福祉の世界ではこの四月に改正された「福祉法」による住民参加の強調もある。また「地方分権一括法」も住民自治・住民参加とつながりがあり、さらに「奉仕活動の義務化」の問題に象徴される教育改革との関係もある。
 意識の面からすると、九五年の大震災後、「ボランティア革命」などと言われたりすることも無関係ではない。この言葉の背景には、市民が行政主導や行政依存のシステムから自立し、責任ある市民として行政とのよきパートナーとなるような市民原理、民主主義原理が含まれており、また近年このような新しいボランティア活動への脱皮がおこりつつあることを示唆している。
 しかし、実態からすると、全国的に住民参加、市民参加が高まっているとはいえ、言われるほどその象徴としてのボランティア人口は多くはない。全国社会福祉協議会(以下、全社協と記す)の調査では、五百万人程度であるということであるが、それにしてもせいぜい実動人口の五~六%にすぎない。NHKの調査ではボランティア参加希望者が成人の六〇%ということであるから、鍵を握るのはコーディネーターだということもできる。このような状況に囲まれた中での「ボランティアコーディネーター研究集会」なのである。
 ボランティアコーディネーターは、団体とか病院とか福祉施設などに所属し、ボランティアを求めるニーディとボランティアとをアセスメント(調査)し、結びつけ、そして支援する専門職である。全社協調べでは、ボランティアセンターに所属しているコーディネーターは全国で千六百八十人といわれるから、教育関係その他を入れて総数は千九百人から二千人程度であろう。
 このコーディネーターと言われる人たちは、社会福祉やソーシャルワークなどの専門的な履修をしている人もあればそうでない人もいてさまざまである。いずれにしても、身分や資格や働く条件など、コーディネーター側だけでも課題をたくさん抱えているといわなければならないが、ここでは課題としてボランティア観、専門性の二つを取り上げて述べることにしたい。
 課題の第一はコーディネーターの持つボランティア観である。ボランティアの役割や社会的位置付けをどのように見るかということである。このことは大変難しい課題であるが、たとえば、ボランティアは、参加によって相手との共感する世界を広げつつ、現在よりも人間性豊かな社会へと緩やかに変革していく人であり、一方、そのことによって自己実現の喜びや自己の主体性を確立しようとする人である。
 なぜコーディネーターをするのかといえば、現在の社会よりもさらに人間性豊かな社会を目指し、同時に自己も成長しようとするボランティアへの共感からであり、差別や非人間的な状況があるならば、それを改善・克服してよりよい社会へと共に改革しようとするからにほかならない。そうでなければ、コーディネーターをわざわざする必要はない。したがって、ただ単にボランティアを奇特な人としてみたり、便利な人としてみることがあってはなるまい。
 第二は専門性である。コーディネーターに問われることは、まず持ち込まれたニーズの問題性を的確に判断できる能力である。社会問題としてのニーズを含んでいることも忘れてはならない。そして、よりよい形でマッチングすることが大事である。究極的にはソーシャルワークの技法や倫理性が問われることになろうが、解決すべき社会的な課題を隠蔽したり、単なる体制温存のための「手配師」になることがあってはなるまい。場合によっては、権利擁護の動きや、新しい課題解決への組織化といったことがあることも忘れてはならない点である。
 ボランティア国際年でもある二十一世紀初頭の意味深い今年、大阪で開かれるこの研究集会が実り多いものになることを祈りたい。

市民活動情報誌『月刊ボランティア』2001年1・2月号 (通巻362号)

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