ボラ協のオピニオン―V時評―

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修正主義的活動の勧め

編集委員早瀬 昇

 「一歩進んで、二歩下がる」。こんな評価をせざるを得ない事態が、時々発生する。たとえば、昨年十二月十四日に与党税制調査会が発表した「NPO支援税制」がそうだ。 「市民活動に関わる者にとって長年の悲願であった税制上の優遇措置が、ついに実現する! それも行政担当者の見方次第で評価が変わりかねない不透明さが伴ったこれまでの仕組みと違い、客観的な認定基準が導入され、とても透明なものになったようだ」。 一旦は、そう受け止め「前進」を喜んだ人も多かったようだ。確かに、一定の条件を満たすNPO法人に寄付をした場合、寄付額に応じて所得税や法人税が減額される制度が、今年十月から始まろうとしている。しかし、この優遇制度を適用される団体として認定されるための条件を精査してみると、まさにとんでもない。 大口の民間助成金を受けると駄目、三千円未満の寄付金を多くの人々から受けている場合も駄目、正会員の会費や寄付が多くても駄目、財政自立のため事業収入の確保に努力すると駄目、一つの市や町や村で地道に活動している団体も駄目。その一方で、行政の補助金に多くを依存する民間性の弱い団体や、会員の多くを議決権のない賛助会員にするというあまり民主的でない運営をする団体の方が、税制優遇の認定を受けやすい条件になっている。 その上、認定を受けた団体は、全寄付者の住所・氏名・寄付額、役職員全員の給与、市町村別の会員数など膨大な事務作業の伴う書類を、毎年、作らなければならない。 これでは大半の市民活動団体が排除される「支援税制」でしかない。しかも、これで「市民活動に対する支援税制の論議は打ち止め」などということになれば、「一歩進んで二歩下がる」どころか「五歩下がる」とさえ言わねばならないだろう。 このような事態は、他にもある。たとえば、例の「奉仕活動の義務化」も、学校教育の世界でも社会参加体験の重要性が認識されたという意味で、前進と言えなくもない面もある。しかし、それが本人の自発的意欲からの参加かどうかが重視されず、「まず、全員が参加するべし」という形で展開されることになると、まったく意味が違ってくる。しかも、そこでの教育目標は「我慢すること」「団体行動に従えること」(教育改革国民会議報告)など。これでは社会問題に主体的に参加する市民を育てるのではなく、「長いものには巻かれよ」式の価値観を身に付けさせてしまうことにもなりかねない。

 では、こうした事態を前に、どう対処していけば良いのだろうか? ここで二通りの道があると思う。一つは事態を全面的に否定し、抜本改革を求める道。そしてもう一つは提案を受け止めた上で、対案を示すという形で修正・改善を得ようとする「修正主義」の道だ。 具体的には、与党のNPO支援税制案に対して「NPO/NGO税法制度改革連絡会」(連絡会)が税優遇の認定を受けるNPOを格段に増やすための提案をまとめた際に、「それは理念や哲学の曖昧な与党案を結果的に支えることになる」との批判があった。 「奉仕活動の義務化」についても、筆者が昨秋、教育改革国民会議の中間報告に対する五項目の批判と、十項目の逆提案をまとめて賛同者を募った際、「批判部分は賛同するが、逆提案は相手の土俵に乗り義務化提案を認知することになりかねない」との批判を頂戴した。 このような活動の方針・展開方法にはさまざまなバリエーションがあり、どのような道を選ぶべきかを決めるのは状況次第。一概にどの方法が良いと決め付けることはできない。 その「状況次第」とは、相手の提案の中身、提案が実行に移される可能性、修正の余地など、様々な要因で決まる。 そして、このような外的な要因とともに重要なのが、提案を批判する側の能力だ。つまり、「対案を出す」という場合は、その提案の細部にわたって緻密に設計し、実現性や効果を論理的に説明できるだけの能力が必要になる。それがないならば、とにかく警鐘をならすという意味で、全面否定なりボイコットなりの対応をせざるをえない。

 当協会も参加する「連絡会」では、修正提案を要望書にまとめ、各党に提出することになった。今、あげた能力を我々が有しているかどうかわからないが、この機に具体的な修正案を示さないと、かえって現行制度が当面維持されてしまうと判断したからだ。 同様に「義務化」についても、学校教育法の改正案作成など、実施に向けた準備はどんどん進んでいる。その意味で、もう批判するだけで済む状況ではない。子ども達が社会参加活動の楽しさを実感できるプログラム作りが必要だ。学校現場との対話など、「対案」を具体化することが求められている。

市民活動情報誌『月刊ボランティア』2001年3月号   (通巻363号)

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