ボラ協のオピニオン―V時評―

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編集委員早瀬 昇

 昨春から放送が始まったNHKのドキュメンタリー番組『プロジェクトX―挑戦者たち』が、一年間の放送予定を延長し、今年度も番組が継続されることになった。
 この番組の主役は大半が無名の市民。しかも多くは何らかの形で挫折を体験している人たちだ。そんな人々が、それぞれの人生をかけたプロジェクトに挑戦した姿を克明に追う。
 その中には社会問題に関わるものも少なくない。中国残留孤児の肉親探しは我が子を中国に残してきた親達が数々の障壁を乗り越えて実現した大事業だ。国家的事業は、市民の懸命の努力で始まったのだった。荒れに荒れた高校に赴任し子ども達にトコトン向き合う中で子ども達の心に誇りを育て、ついにラグビーで全国制覇を果たした伏見工業高校の山口監督。番組の後半、京都一の不良とさえ言われた教え子が教師となったと紹介する場面は圧巻だった。
 こうした社会的なテーマもあるが、番組には今や私たちの暮らしに密着した身近なモノに関するものも多い。それらは「この製品が開発された背後に、あの事件の背景に、こんなドラマがあったのか!」という話ばかりだ。
 たとえば戦時中、特攻機の設計に取り組み、「二度と兵器は作るまい」と誓った技術者は、自らの技術を平和な社会のために活かそうと流線型の新幹線開発を進めた。女性を家事から解放し社会参加を進めるテコとなった電気炊飯器は、倒産寸前の町工場を営む家族達によって開発された。冬の寒い朝、北側の狭い台所で朝食の準備をする妻の苦労を思いやった夫の思いからダイニングキッチンという住宅構造が開発された。戦後、「航空禁止」の占領政策で封印された日本の航空機技術を後進に残そうと、かつての名技術者達がYS一一の開発に集まった時、みな五十代を過ぎていた…。コンビニ、ロータリーエンジン、コシヒカリ、胃カメラ、液晶ディスプレイなどを素材に、こうしたドラマが語られる。
 この番組が深い感動を呼ぶのは、いずれも「人生をかけた挑戦」の物語だからだろう。
 番組の進行役・国井雅比古アナウンサーの報告では、挑戦者達は総じて「成功報酬や名声などについて関心が淡白」だという。もっともそれは「無欲というのではなく、プロジェクトの達成以外のことを気にかける暇もゆとりもなかったというのが実情のようだ」という。打算の余地もないほど懸命にプロジェクトの実現に取り組む姿の純粋さが、視聴者の胸を打つ。
 ただし実現へのハードルは高い。当初「何を馬鹿なことを」と言われるプロジェクトばかり。夢が大きく斬新なものほど挫折も多い。
 この点は市民活動でも同様だ。企業のように利益を生み出すわけではなく、行政のように法律や議会に縛られているわけではない中で、自主的に取り組むのが市民活動。「なんでそんなことに頑張るの?」などと言われながら、孤軍奮闘ということも少なくない。
 そもそも心理学者のカール・ロジャースによると、革新的なアイデアを思いつく「イノベーター」(革新者)は全体の三%ほどだと言う。その突飛な提案に「面白そう」とすぐに乗ってくる「アーリーアダプター」(早い受容者)がおよそ一四%。すると「見殺しにするわけにもいかない」などと言って支持する人たちも出てくる。ロジャースは、それが全体の過半数に達した段階を「アーリーマジョリティ」(早い多数派)、人々の半数が支持しだして「乗り遅れてはいけない」と参加する人たちを「レイトマジョリティ」(遅れてきた多数派)、そしてまったく無関心な人たちを「ラガード」と名づけた。
 世の中とはそういうものだ、というわけだが、この話が教えるのは、私達が何か開拓的なことに挑戦しようとする時、それにすぐに賛同するのは「イノベーター」と「アーリーアダプター」の一七%だということだ。八三%の人々は反対したり無視したりする。つまり「みんな分かってくれない」と嘆くことはない。挑戦において、これは普通のことだ。
 では、その挑戦を支えるのは何か? 番組は、それが挑戦者たちのプロジェクトに対する深い思いであることを語る。身近な存在への思いやり、過去の苦い体験、夢や怒り…。
 そして、その思いが共感されると、共に実現をめざす同志が生まれてくる。さらにプロジェクト実現の意味を自覚した人々の自負と連帯で困難な壁が乗り越えられていく。
 実際、『プロジェクトX』が取り上げる挑戦の多くは、一人のヒーローではなく、何人もの無名の挑戦者たちの協働によって実現する。
 こうした状況は市民活動でも同様だ。私たちの活動も、数は少ないが志を同じくする仲間との協働で広がっていく。誰か一人だけが主役という活動はもろい。現に取り組まれた挑戦者たちの物語は、私達を励ますとともに市民活動を進める上での教訓を、数多く教えてくれる。

市民活動情報誌『月刊ボランティア』2001年5月号   (通巻365号)

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