ボラ協のオピニオン―V時評―

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抵抗勢力

編集委員増田 宏幸

 小泉政権が誕生して以来、「抵抗勢力」という言葉が目につく。もっぱら構造改革に反対する霞ヶ関の官僚や利益誘導型の族議員らを指す用語だが、参院選をはじめ最近の報道では、「労働組合」が同じ文脈で語られるようになってきている。
 「リストラ」がかつてのように「悪」だけのイメージでなくなっているとはいえ、労組は労働者の権利を守り、生活と福祉の向上を目指す組織だったはずだ。それが「抵抗勢力」と呼ばれ、そのことにさほど疑問を持たれない状況に陥っている。労組、特に企業内組合の「衰弱」が言われて久しいが、社会とのギャップの大きさや、そのギャップを生んだ背景には、市民活動組織にとっても示唆に富む要素が含まれているのではないだろうか。

 厚生労働省の「労働組合基礎調査」によると、一九七〇年(昭和四十五年)に三五・四%だった推定組織率は、三十年後の昨年、二一・五%に低下している。いわゆる「組合離れ」だ。しかし、この事実をもって「労組が社会的役割を終えつつある」と言えるかといえば、決してそうではない。
 むしろ、本来の意味での重要性は増している側面もある。企業では中高年層や管理職を主な対象とするリストラが進行し、正社員の代わりに、人件費を抑制できるパート・契約社員の雇用を増やす傾向にあるからだ。個人としての立場の弱さをみれば、両者とも労組が対象とすべき層であるのは明らかだが、どちらも企業内では加盟資格そのものがない例が多い。代わって、九三年に登場した個人加盟型の「管理職ユニオン」などがニーズをすくい取っている。
 企業内組合が衰弱した大きな理由に、ニーズに対するこうした鈍感さがある。そして鈍感さの原因は、組織の維持・存続自体が目的化した、内向きの前例踏襲型運営にあると思われるのである。

 もっとも、人々が多様な形で関わる市民活動では、この事務作業をメンバー全員で分担することは難しい。そこで市民活動では、一般に「事務局」と呼ばれる作業チームを作ることが多い。
 強力な事務局態勢を確立できれば、先にあげた事務作業をスムーズに遂行できる。そこで、市民活動が成長してくると、非常勤のボランティアだけで事務局を構成するのではなく、事務局に専従スタッフを確保し、日常的に事務に取り組める態勢を整えるようになる。こうなると専従化によって専門化も進めやすくなり、活動は大きくレベルアップする。
 ただし、強力な事務局には隘路もある。事務局主導で活動が進み、一般の会員やボランティアの立場が相対的に低下してしまいやすいことだ。
 その上、事務局が日々の活動に追われ、新たな事業に挑戦する意欲が低下すると、かえって活動を停滞させてしまう場合さえないわけではない。
 こうした事態を防ぐには、活動への市民の共感を信じ、ボランティアとして活動や組織運営に参加できるよう組織を開き、事務局自身はファシリテーター役になるといった工夫も必要だろう。この場合、事務局に集まる情報をボランティアに詳しく伝えることも新たな役割となる。

 組織の維持・存続とは「既得権の永続」、前例踏襲とは「新たな価値の創出を放棄すること」と言い換えてもいい。
 構造改革の槍玉に挙げられている特殊法人にしても、ある時期には社会的ニーズと合致する目的で活動していた組織がある。それが改革の対象になるのは、当初の役割を果たした後、単なる官僚の天下り先になったり、利権の分配機関としてしか機能しなくなっているからだ。
 当初の目的を果たした組織が取る道は、消滅するか、別の社会的意義を見出し、活動の成果=新たな価値を創出していくかのどちらかだろう。どちらでもないとすれば、その組織は社会のためでなく構成員のために存在していることになり、その活動の多くは前例踏襲型にならざるを得ない。
 NPOなどでも、一定の役割を終えた事業を漫然と続けていたり、気づかぬまま社会的ニーズから外れていったりすることがあるかもしれない。自らの役割に対する敏感な意識を失えば、その存在は社会にとって無用という以上に、既得権にしがみつく有害な「抵抗勢力」となりかねないのである。特殊法人がそのことを明瞭に示しているし、労組も新たな方向性を示さなければ同じ運命をたどることになりかねない。
 では、そうならないためにはどうしたらいいのだろうか。
 一つは、活動に対する不断のチェックと、理念の共有を怠らないことだろう。七・八月号の本欄で「運動とは事務なり」という言葉が紹介されたが、言うまでもなくその「事務」とは、理念によって方向付けされたものを指している。理念を忘れた事務は「処理」されがちで、容易に前例に引きずられる。有給スタッフ同士はもちろん、有給スタッフとボランティアが理念について普段から十分に語り合うことが重要だ。それが組織の目的意識を高め、事務が「処理」に堕すことを防いでくれる。
 さらに、目的を達成し、役割を終えたと自覚した時は、組織を解散する勇気も必要だろう。組織が長く存続し、拡大すればするほど構成員の「生活保障」の側面が生ずる。難しい問題を含むが、生活保障は既得権の一部であり、最も「維持・存続の目的化」を生みやすい要因でもある。

 国連ボランティアを経験した人から、「高校時代の恩師に教わった」という印象的な言葉を聞いたことがある。
 「成長とは、壊すこと」。
 その人は「成長とは積み重ねていくことだと思っていたから、目からウロコが落ちた思いがした」と話してくれた。
 現状に自足せず、厳しく自らを見つめ、不断の努力を続ける。日々、社会に還元し得る価値を創り出しているか問い直し、そのためには成功体験すら否定する勇気を持つ。
 この言葉は個々の人間だけでなく、NPOをはじめあらゆる社会的存在に当てはまるのではないだろうか。

市民活動情報誌『月刊ボランティア』2001年9月号   (通巻368号)

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