春、四月。新しい生命が芽吹く季節である。きびしい不況の折りとは言え、全国各地の企業や団体、学校、等々で新しい事業や活動が産声を上げているのではなかろうか。私たちの身近でも、この一日から新しい事業が一つスタートした。私たちの協会が他の在阪のボランティア団体、NPO、大阪府等と連携して開設した大阪NPOプラザである。
このプラザは、大阪府が二○○○年三月にまとめた「大阪府NPO活性化指針」で掲げられた四つの柱のうちの一つ、「支援施設の整備」事業の具体化である。大阪市内の元府税事務所の建物を府が改築・整備して民間のNPO支援組織に無償で貸与し、あとは自主管理に任せる、というもの。
三階建てのプラザの一階には二十のブースが用意され、NPOが机一つとロッカー、電話、といった最低限の事務所機能を維持できるようになっている(インキュベーション=孵化=フロアと呼ばれる)。また二階には、大阪ボランティア協会をはじめ六つのボランティア・NPO支援組織が入り、協働してNPOの支援に当たる(ボランティア協会のこれまでの事務所はそのまま。念のため)。さらに三階には会議室・研修室があり、プラザに事務所を置くNPOのみならず、他のボランティア組織、NPOも利用できる。
こうしたNPO活動支援のための取り組みは、現在日本の各地で行われている。中には、従来の社協ボランティアセンターを「ボランティア・市民活動センター」といった名称にし、看板は書き換えたものの実態は変わらず、といった所も無いではないが、行政や社会福祉協議会、民間組織が協働して成果を上げているところも出てきている。
ただ、それらの先行事例で、センターの管理・運営に民間組織を参加させているところでも、そのメリットが必ずしもうまく生かされているとは言い難い例も少なくない。それらの多くが行政による「委託方式」をとっているため、事業の内容についても行政のチェックが入り、委託を受けた民間組織の側から「こんなはずではなかった」とのぼやきも聞かれる。また、民間組織と行政との意思決定手続きの違いから、思わぬ齟齬が生じたりもしているようだ。
一方、地方の中小都市などの場合は、行政が民間組織への委託を望んでも、その受け皿となりうる適当な民間組織がない、というような悩みも聞かされる。
大阪NPOプラザは、それらの先駆的な事例に多くのことを学びながらも幾つかの点でそれら先行例には見られない特徴を持っている。
その一つは、このプラザは、先にも触れた公設民営の施設によくある「委託方式」をとらず、建物の改築という基本的な条件整備こそ大阪府が行ったものの、あとの管理運営は民間組織に委ね、運営経費は家賃や会議室の賃貸料等で民間組織自身が捻出する形を取っていることだ(これをPFI=プライベイト・ファイナンス・イニシアティブ=方式と言うらしい)。管理運営に当たる民間組織にはかなりの「経営」手腕が問われるが、民間組織としての自主性、独自性を発揮しやすい形態といえる。
二つ目は、一階にインキュベーションフロアを置き、文字通りNPOの活動拠点化を目指していることだ。ここを利用する組織のほとんどは、これまで個人の家を会の連絡先にしていたような団体、グループである。ごく僅かなスペースとは言え公的な拠点を持つことで、活動の一段の飛躍、孵化が期待できる。
このプラザのめざすイメージは、(1)多様な支援組織が集まるNPO支援の専門店街、(2)(シリコンバレーならぬ)NPOバレー、(3)さまざまなNPOが出会い、互いに切磋琢磨し合うNPO道場、(4)NPO支援のハブ(拠点)センター、(5)NPOと行政、企業、学術機関などの協働促進ステーション、といったところであろうか。そして、運営の原則として、(1)民間性重視の原則、(2)独立と連携の原則、(3)自治的運営の原則、(4)パートナーシップ活用の原則、(5)運営への市民参加の原則、といったことが、運営委員会を構成する各団体、大阪府、等との間で合意されている。
アフガン復興支援国際会議へのNGO参加問題にかかわる鈴木衆議院議員の発言にも見られるとおり、この国の為政者や行政は、NPOやNGOといった民間組織を自分たちの「下請け」か、さもなくば「敵対者」としてしか扱ってこなかった長い歴史がある。両者が、同一の目的に向かって異なったアプローチをする「パートナー」であるとの認識は最近になってようやく芽生えてきたものである。大阪NPOプラザが、そのパートナーシップに基づくNPO支援のよき雛形となることを関係者の一人として期待し、今後を見守りたい。
市民活動情報誌『月刊ボランティア』2002年4月号 (通巻374号)
2024.12
人口減少社会の災害復興―中越の被災地に学ぶこと
編集委員 磯辺 康子
2024.12
追悼 牧口一二さん 播磨靖夫さん
編集委員 早瀬 昇