ボラ協のオピニオン―V時評―

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自治の担い手を育てる体験活動へ

編集委員早瀬 昇

 「まさに、あの手この手だな!」。そう感じたのが四月十八日に提出された中央教育審議会の中間答申「青少年の奉仕活動・体験活動の推進方策等について」だ。青少年の体験活動を進めようと、入試での評価や「学校サポート委員会」の設置、教職員対象のコーディネーター養成講座などを提言。教育委員会に対し、支援センターの整備や活動実績を記録する「ヤングボランティアパスポート」などの作成も求めている。さらに「ボランティア活動体験を単位認定する」など、具体的にどうするの? と戸惑う提案も少なくない。
 中でも気になるのは、奉仕活動かボランティア活動かという議論を、「用語の厳密な定義やその相違などに拘泥することの意義は乏しい」と、一切放棄してしまったことだ。
 この用語問題は、昨年、国会で学校教育法などの「改正」が審議される際に焦点となった論点の一つ。「奉仕という古色蒼然とした言葉ではなく、ボランティア活動に表現を変えるべきだ」との野党の主張に対し、遠山文相は「奉仕活動には、自発的なボランティア活動だけでなく、強制をともなう社会活動も含む」と譲らなかった。結局、学校教育法などに盛り込まれた新たな教育目標は「ボランティア活動など社会奉仕体験活動」の充実となり、「足して二で割る」形での決着となった。
 そして、中教審。国会での論戦を知ってか知らずか、この議論は不毛だと、議論自体を避けてしまったわけだ。
 確かに用語の問題が語源などに遡った議論ばかりに終始するなら、歴史的な文脈を無視して切り取った過去の概念や用語を強引に現在に当てはめて議論することにもなり、意義は乏しいだろう。しかし、それが活動の背後にある理念を軽視することになっては、本末転倒だ。
 企業活動には、利益という数値化できる客観的評価指標があるが、そのような指標を明確化しにくいのが教育の世界。それゆえ、方向性を示す理念に関する議論が重要になる。そして、今回の用語問題は、この理念に深く関わるものだ。
 もっとも筆者がここで問題としたいのは、昨年の義務化論議で問題となった「自発性」の扱いではない。一般のボランティア活動体験とは異なり、今の学校教育の中に位置づける以上、そもそも「自発性」の重視には限界があると感じるからだ。義務化構想が話題になった頃、テレビのインタビューに答えた高校生の大半が、この構想に賛成だった。なぜなら彼らにとっては、学校教育そのものが義務だからだ。ならば、よく分からない教室の授業よりも、学外の取り組みの方が面白そうだ、という受け止め方だった。主体的な学びの場からほど遠い学校教育の現実を知ると、活動体験を通じて、子どもたちが自ら気付き、問題意識を育くむ機会を提供することも必要だと思う。
 それよりも問題だと感じるのは、「奉仕活動」と言ってしまうと、「ボランティア活動」という言葉に含まれる豊かな社会活動への広がりが閉ざされ、結果として陳腐な善行体験に堕しかねない、ということだ。
 というのも、ボランティア活動には、俗に「サービス型」(奉仕型)と呼ばれる「お手伝い」型の活動もあるが、これとともに「アクション型」(運動型)と呼ばれる活動形態もある。これは、「問題の発見・確認」に始まり、「問題提起」、改革・改善の「提案」(代案提示)、そして実現のための「交渉」(話し合い)などの形で展開されるものだ。
 ボランティア活動とは、この「アクション型」と「サービス型」という二つのスタイルを組み合わせながら、社会問題を解決していく市民の自主的活動だ。
 ところが、「奉仕活動」としてしまうと、この活動の広がりが断たれてしまう。
 確かに社会問題に向き合い、その解決に直接汗を流すという「サービス型」の活動も大切だ。しかし社会問題とは、まさに社会の問題である以上、社会の仕組みを見直し、改善しなければならないものが大半だ。そしてその解決の担い手である主権者の卵が、他ならぬ子どもたちだ。
 ボランティア活動は時に「民主主義の学校」と言われるが、そのためには「サービス型」と「アクション型」の両方を含むものとして、広く活動をとらえなければならない。「(奉仕活動とボランティア活動の)相違などに拘泥することの意義は乏しい」としてしまうと、このような発展は閉ざされてしまう。
 もちろん学校教育の中で、社会運動を展開するべきだというのではない。他者に感謝される体験だけにとどまらず、社会的な課題の存在を実感し、その問題と自らとの関係を考え、そして解決に向けての方策を考える、という発展が必要だ、ということだ。
 中間報告では英国の「シチズンシップ教育」にも言及している。社会を構成する主体、主権者となるための教育として位置づけられているわけだ。日本の「体験活動推進方策」でも、「自治の担い手を育てる」という視点を持つ必要がある。

市民活動情報誌『月刊ボランティア』2002年6月号   (通巻376号)

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