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「社長の道楽」の勧め ~中小企業の社会貢献活動への期待~

編集委員早瀬 昇

 深刻な不況が続いている。「リストラ」の名のもと雇用の保障も危うい現在、企業の社会貢献活動を取り巻く状況は極めて厳しい。そんな中で社会貢献活動を推進しようとすると、様々な形で「経営上の意味」を示さなければならなくなっている。
 特に大企業の場合、この傾向は著しい。株式市場で資金を調達する以上、株主への配慮は不可避。当然、株式会社は適正利潤の追求をめざす組織でもある。そのため、いくら社会的に有用でも、経営の負担となり配当が減るほどの取り組みは難しい。
 この「経営上の意味」の重視は、経営体制の変化でさらに強まる。創業者やオーナー経営者の場合、ワンマン経営も珍しくないが、社員の中から昇進したサラリーマン社長による経営に移ると、社長が人情味を発揮して社会活動に取り組むことがさらに難しくなるからだ。創業者の場合、会社の業績は自らのリーダーシップで築いたものだが、サラリーマン社長の場合、いわば駅伝の選手のように過去の経営者からタスキをつないで今の業績があることになる。いきおい経営者個人の関心や正義感で社会活動に熱を入れることは難しくなる。
 そこで、各社の社会貢献担当者たちは社会貢献活動の経営合理性を説明する「理論武装」に努力してきた。たとえばグリーンコンシューマーの台頭など社会貢献度に敏感な消費者が増えると、社会貢献活動が消費者の支持を得るテコになる。社会性をもった社員の存在が不祥事を生まない企業風土を作る…。さまざまな論理を積み上げ、社会貢献活動は投資に見合う経営効果があるとの議論が展開されてきた。
 昨年十二月に経団連が発表した調査によると、二〇〇〇年度の一社あたりの社会貢献活動支出総額は四億千六百万円(回答のあった三百二十三社の平均)。一九九九年度を底に二年連続で支出総額が増えていることが報告された。社会貢献活動が経営に与えるプラス面を示せなかったら、今の時代にこのような実績を生み出すことは難しかっただろう。

 一方、このような「経営合理性のある社会貢献活動」が語られる中で、少し小馬鹿にされがちだったのが、「社長の道楽」と言われる傾向にある中小企業の社会貢献活動だ。
 志を持った中小企業の社長さんが、その強い思い入れで障害者の雇用に努力し、あるいは地域の祭りや子ども会をサポートするなどの活動に取り組む例は少なくない。しかも、大企業よりも中小企業の方が障害者の雇用率が高いことに示されるように、絶対量としての規模は小さくとも、企業活動全体に占める社会貢献活動の比重は、中小企業の方が高いと言える。
 中小企業の多くは、大企業のような経営者をしばる制約が相対的に少ない。大組織でない分、個人の存在感も大きくなる。そこで社長の個人的な思い入れで頑張る余地も生まれやすい。「経営合理性」よりも「信念」が優先されているのだ。
 それにそもそも中小企業では、先の「経営上の合理性」で説明される論理が通用しにくい。下請企業などの場合、直接、消費者と接点を持つことが少なく、「意識ある消費者の支持」が経営を支えるといった理屈が立てにくいからだ。
 とはいえ、社長の個人的思いが先行しているだけに、社長が交代すると、活動が一挙に低迷してしまうという場合も少なくない。「社長の道楽」という少し揶揄した表現には、そんな不安定さへの批判もこめられているように思う。
 しかし、企業の行為だから組織的でなければならない、企業の行為だから経営上の合理性がなければならない…といったハードルが、本当に必要なのだろうか。大企業の場合、これらは止むを得ない条件であろうが、中小企業では少し事情が異なってくるようにも思える。
 「企業である以上、営利を追求しなければならない」とされる。しかし、「金儲け」だけに終始したくはない。そんなジレンマを抱いた経営者が「道楽だ」と居直ることで「人間の顔をした企業」であろうとする結果が、「社長の道楽」だとも言えるからだ。
 最近、社会貢献活動にこだわって赤字すれすれの状態にある企業と、事業収入を財政の柱にして華々しく活動しているNPOには、相対的な違いしかないという指摘がよくなされる。この企業ともNPOともつかぬ経営形態は、中小企業の一つのあり方かもしれない。つまり「営利企業だから」という考え方を超越する発想法の種が「社長の道楽」にはある。「社長の道楽」と周囲を煙に巻きながら、次代の経営、次代の働き方を探る可能性があるからだ。
 それに「道楽」だと考えることで、変に肩に力の入った構えからも解放される。
 中小企業の社長の皆さん。是非、「社長の道楽」にも励んでみましょう。きっと、新しい世界が見えてきますよ。          

市民活動情報誌『月刊ボランティア』2002年9月号   (通巻378号)

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