ボラ協のオピニオン―V時評―

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編集委員早瀬 昇

 「熱心な市民活動ほど、仲間割れしやすい」と言われる。その理由はまさに「私」を起点とする自発的活動と、集団としての活動の間の矛盾にある。
 一般に私たちは自発的に取り組もうという時ほど、「他ならぬ自分が取り組むのだから」という自負心が高まり、その行為に「こだわる」。そこには、それぞれの人生観や価値観、美意識が投影される。
 この場合、第三者から見ればささいなことで対立しやすい。「交換」という金銭的な価値に還元できる関係では、たとえば「○○円、安くなるのなら」と相対的にとらえることも可能だ。しかし人生観や美意識の世界は「こうあるべきだ」という「倫理」や「正義」の世界でもある。現実には多様な価値観が存在し、「正義」は多様にある。この違いは自分から遠い存在なら納得できるのだが、身近な仲間との間でのくい違いは、自らの「自分らしさ」を脅かす面があるため、かえって対立が激化してしまう。いわゆる「近親憎悪」だ。その上、「こだわり」は活動に熱心であるほど強くなる。そこで熱心に活動するグループほど「仲間割れ」が起こりやすくなる。
 これはグループ内だけの話ではない。団体間で連携を図る場合も同様の状況が生まれやすい。しかし個々の団体だけで解決できない大きな課題は多い。その際、この壁をどう乗り越えるかが問題となる。
 この九月七日、八日、東京で開かれた「市民セクター全国会議二〇〇二」(日本NPOセンターなどが主催)でも、この問題が取り上げられた。「市民セクター内での新しい連携の模索」と題する分科会だ。この分科会の初日の講師は一九九七年に京都で開かれたCOP3(気候変動枠組み条約第三回締約国会議)で活躍した「気候フォーラム-気候変動/地球温暖化を防ぐ市民会議」の事務局長・浅岡美恵さん。私は、その”聞き手“役を務めさせていただいた。
 「気候フォーラム」とは、市民団体サイドの意見をCOP3に反映させようと、二百五十の環境NGOや個人が結集して作られたネットワーク組織だ。
 ただし、一口に環境分野の活動といっても、そこには環境保護、自然観察、公害反対、リサイクル、環境教育、反原発、脱フロン…と、実に多様な活動がある。その上、たとえば環境保護という分野一つをとっても、その中には種々の生物を保護する多様な取り組みもあればダム建設反対の運動もあるわけで、それぞれに奥が深い。そのため、市民活動の中でも特に横断的な連携が難しかった分野でもある。
 そのような中、どうやって多様な団体の結集を得、共同行動を実現できたのか?
 第一のポイントは「明確な目標」を設定したこと。気候問題は実に総合的な問題だから「対応も総力戦」でなければならない。そこで目標を「温室効果ガス排出削減議定書の採択」という一点にしぼったのだ。そこで、普段は個々バラバラに活動している団体が、この一点に共感することで結集できた。
 そして第二のポイントは、この目標をゴールとする時限的な組織としたこと。目標が明確なだけに、その目標を達成した時点で使命は達成できるから、時限性は当然と言えば当然だ。しかし、このことによりCOP3後、「気候フォーラム」が参加団体に影響を与える存在となるのではないかといった疑念を抑え、より多くの参加団体を得ることに成功した。「無私」の姿勢が連帯の接着剤となったわけだ。
 さらに第三に、代表を置かず、事務局長がいるだけの組織としたこと。リーダーがぐいぐい引っ張るのではなく、参加団体の意見を集約し、政府を含む会議の関係者と交渉する立場に徹したことだ。ただし、交渉といっても密室での裏取引ではなく、情報は徹底して公開。この点では、公開性の高い国連主催の会議であったことも味方した。
 環境分野でかつてない規模の共同行動を生み出した「気候フォーラム」の成功の背景には、このような工夫があった。
 以上は、「気候フォーラム」という一ネットワーク組織の事例だが、同様の特徴は「べ平連」(「ベトナムに平和を!」市民連合。活動期間は一九六五年から七四年までの九年間)、「シーズ=市民活動を支える制度をつくる会」(約百二十団体の連合プロジェクト)などにも見られる。目標を明確に示すことで多様な人々が参加し、強い影響力を実現した。
 そして、多くの市民活動自体も、実はこのようなネットワーク性を持っている。
 というのも、教育も雇用も医療も福祉も…とあらゆる課題に網羅的に関わり、それぞれに対応策を示す政党のような組織では、参加する人は一定の価値観を共有する人に限られてしまう。しかし特定の問題解決に特化している一般の市民活動では、他の点では価値観が異なっている人々も、団体の取り組む目標に共感するということで結集できるからだ。
 テーマを限定し、他の課題への関わり方での違いを問わないことで、広がりを作る。「気候ネットワーク」の成功は、私たちの普段の活動にも応用できる知恵を示している。

市民活動情報誌『月刊ボランティア』2002年10月号  (通巻379号)

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