読者の皆さんは「障害者欠格条項」という言葉をご存知だろうか?例えば「目が見えない者、耳が聞こえない者又は口がきけない者には、○○の資格(免許)を与えない」といった表現により、本人の能力、資質とは関係なく、なんらかの障害を理由にある資格を「一律に与えない」とか、「業務から排除する」、さらには「施設などの利用を拒否する」といった法律や条例、各種契約書などの規定のことであり、国レベルでは現行の約三百余りの法律にそのような規定が置かれている。そして、この欠格条項の存在が、これまで多くの障害者の進路選択の幅を狭め、社会参加の機会を奪ってきた(これは制度的バリアと呼ばれる)。
しかし、ろう者ながらも薬剤師試験に合格した早瀬久美さんや、中途失聴ながらも優れた医療活動を続けている藤田保医師の存在などを見てもわかるとおり、なんらかの障害を理由にある資格を「一律に与えない」というのは基本的に間違っている。資格を与える基準はあくまでも、その資格に必要とされる知識・技能を持ち、それを適正に行使できるかどうかということなのだから、たとえなんらかの障害を持っていても、本人の努力と周囲の理解によってその基準をクリアすることができれば資格は与えられるべきだ、とする考え方が世界的にも近年強まってきている。
この問題に取り組んできた「障害者欠格条項をなくす会」(以下「なくす会」)の調査によると、アメリカ、オーストラリアをはじめ、イギリス、オランダ、カナダ、スウェーデンなど欧米諸国においては、障害や病気を理由とした免許制限は全くないか、極めて限定的にしか実施されていない。このことは、一九九三年の国連総会で採択された「障害者の機会均等化に関する基準規則」がめざす方向でもある。
また、このことと関連して、障害者差別を禁止する法律を持つ国は、アジア、アフリカ諸国を含めて既に四十カ国を越えており、日本は世界の動きから立ち後れている。
さすがに日本政府も、「なくす会」など当事者団体からの強い働きかけを受けて六七三制度について見直しを進め、昨年六月には医師法や道路交通法など約三十の法律の一部改正をおこなった。しかし、それは対象となる法律全体から見れば十分の一の量であり、改正の内容も、多くの法律においては、これまでの「免許を与えない」との表現が「免許を与えないことができる」との表現に変わっただけで、欠格条項そのものが全廃されたわけではない。
現在、「なくす会」をはじめ障害当事者の団体と関係行政機関との間で継続的な協議がおこなわれているが、この問題に関する市民の関心はそれほど高いとは言えないようだ。
そうした折りもおり、先の通常国会で「身体障害者補助犬法」という法律が制定され、この十月一日から施行された。
この法律は、従来からよく知られている盲導犬に加えて、肢体不自由(児)者の日常生活をサポートする「介助犬」、聴覚障害者の耳替わりをする「聴導犬」を身体障害者補助犬と総称し、その育成、利用、受け入れについて、関係者それぞれの責任や義務について定めた法律である。
この補助犬法制定のねらいは二つあったと言われている。一つは、既に長年の実績を持つ盲導犬を含めて、良質の補助犬を少しでも多く育て、必要とする人に、必要とされるときに提供できる体制を作り上げることである。二つ目は、補助犬利用者がさまざまな社会施設や交通機関を自由に利用でき、その社会参加の幅を広げることを支援することである。
今日ではかなり社会的認知が進んだと見られる盲導犬ではあるが、それでも、飲食店をはじめ、旅館、劇場、スーパー、その他の商業施設などで入店を断られるケースは後を絶たない。まして、まだまだ認知度の低い介助犬や聴導犬などの場合にはなおさらである。
そのような現状に対し、?法第九条では、「不特定かつ多数の者が利用する施設を管理する者は、当該施設を身体障害者が利用する場合において身体障害者補助犬を同伴することを拒んではならない」とし、広く一般の施設にも補助犬の受け入れを義務付けた(但し、罰則規定はない)。
少子・高齢化の進展と相まって「バリアフリー」という言葉が完全に市民権を得たかのように思われる。最近では「ユニバーサルデザイン」という言葉もよく聞かれるようになってきた。しかし、社会的マイノリティである障害者の人権保障という視点から見たとき、現在の日本社会はまだまだバリアフルな社会のようだ。
一般に、障害者の社会参加を阻むバリアには、「物理的バリア」「心理的バリア」「制度的バリア」「情報バリア」の四つがあるとされている。補助犬法の制定・施行を機に、いま一度バリアフリー社会実現のためのさらなる取り組みを呼びかけたい。
市民活動情報誌『月刊ボランティア』2002年11月号 (通巻380号)
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