ボラ協のオピニオン―V時評―

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「結局、何も変わらない」を変えるには

編集委員筒井 のり子

 十月下旬から十一月にかけて、いくつもの重要な選挙があった。しかし、その多くは驚くべき低投票率だった。 
 十月二十七日の衆参統一補選では、七選挙区すべてで投票率最低を記録した。また、十一月の沖縄知事選の投票率も、過去最低の五七・二二%だった。兵庫県尼崎市では全国で六人目、しかも四十二歳という若さの女性市長が誕生した。これは、五党相乗りの現職を破っての当選だっただけに、「無党派層」の新たなうねりを感じたものの、その投票率の実態は、過去最低の三二・二五%だった。
 これらの投票率の低さは、何を物語っているのだろう。
 投票はそもそも自発的な行為である。投票権、すなわち政治家を選ぶ権利を行使するか否かは、市民一人ひとりに委ねられている。もちろん、市民としての本質的な”義務“とも考えられるが、投票しなければ罰則があるわけではない。(罰則のある国もある)。
 この間の選挙結果は、投票率が前回より高かった熊本・新潟市長選で無党派が当選したこともあわせて、徹底的な既成政党離れが進んでいることがあきらかになった。既成政党に対する不信、失望、あきらめが、ひいては政治そのものへのあきらめ、投票行動への徒労感へとつながっているのだろう。
 人間は、どういう時に「やる気」をなくすのだろうか。それは、「何をやっているのかわからない」「自分が何か言っても、どんな行動をしても、結局は何も変わらない」ということを痛感した瞬間ではないだろうか。あるいは、じわじわとその懸念に浸蝕されていった結果かもしれない。
 いくつもの学校を経験してきた元小学校教員から、「教師になって一年目には、会議でいろいろな提案をしていた先生も、反対にあったり協力が得られないことが続くと、だいたい三年目には何も言わず、何も新しいことに取り組まなくなってしまう」と聞いたことがある。また、ある公務員は、「一年目で思い切った反対意見を言ったり新しいことに取り組めない人は、その後は何も変革できない」と彼の後輩を叱咤激励していた。人にはいろいろなタイプがあるので、一概にそうとも決めつけられないが、確かに、人間はいとも簡単に「やる気」を奪われていく生き物である。
 市民活動団体は元気だとよく言われる。活気があり、エネルギーに満ちているところが多いと言われる。もしそうだとしたら、それは、上記と反対の状況があるからだろう。すなわち、「目指していること、やっていることが具体的によくわかる」「自分の発言や行動が活かされる」「自分の存在(またはその行為)の意味が組織の中で感じられる」状態があるからではないだろうか。「結局、何も変わらない」の反対のことを個々のメンバーが感じているところに、市民活動団体のパワーの源があるのだろう。
 しかし、市民活動団体だからといって、その状態がいつも続くとは限らない。市民活動をしているから、ボランタリーに集っているからといって、組織の状態が常に良好と考えるのは大いなる幻想である。
 組織である以上、不断の努力が必要なのである。組織が取り組んでいることや運営状況をメンバーに見えるようにするにはどうしたらいいのか。メンバー一人ひとりの意見が活かされるようにするにはどうしたらいいのか。
 これらは、組織を立ち上げる前後の熱気あふれる頃や、まだ少人数で和気あいあいと活動している頃にはあまり問題にならない。注意を要するのは、むしろ、メンバーが増え組織が大きくなった時、また事業活動が軌道に乗り拡大していく時である。
 すなわち、組織が順調、あるいは拡大していく時こそ、意思決定システムを見直すということが、市民活動団体の運営の重要なポイントだろう。理事会・運営委員会のあり方、事務局のあり方、また個々の会議の形態、連絡や情報共有のしくみなど、組織の状況に応じていかにシステムを変えていくことができるか、その柔軟性が問われる。市民活動団体において、三年以上何も変わっていないとしたら、おそらくメンバーの「やる気」を奪う土壌ができつつあると思っていいだろう。
 このように常に意思決定のシステムをその時の組織の状態に応じて変化させていくことで、メンバー一人ひとりが「自分の意見・行動」と「自分が所属する団体のあり方・事業」とのつながりを直接的に確認できるということを目指すことが重要だ。
 しかし、市民活動団体の意味はそこだけでとどまるものではない。自分と団体の”見えやすい“つながりがしっかり感じられることによって、もっと“見えにくい”「自分と社会」の関係をも実感できるようになることも目指したい。たとえば、自分の一票が、どのように社会を変えていくのかということを。

市民活動情報誌『月刊ボランティア』2002年12月号  (通巻381号)

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