今年は統一地方選挙の年。特に四月には多くの自治体で議員や首長の選挙が行われる。そして、ここ数年少しずつ活発化してきたことだが、特に今年は、市民活動に関わってきた人が多数立候補するようで、「政治」の世界と市民活動の距離も随分と近づきそうだ。
この政治と市民活動との距離を近づける上で大きな役割を果たした人物の一人に、辻元清美さんがいる。長く市民活動に取り組んだ後、請われて国政の場に参画。特定非営利活動促進法の成立などに大きな役割を果たしたが、昨年、国から支給される秘書給与の処理が不適切だったのではないかとの疑惑が指摘されたことの責任をとり議員辞職。その後、数人の支援者に資金を借りて、利息分も含め秘書給与の全額を国に返還したが、司法上のけじめがつくまで、公の場に出ることを差し控えたままだ。
先日、その辻元さんの近況を聞こうとお会いした際のことだ。「励ましてくれる人が多くて嬉しい」と話された後で、少し声の調子が落ちた。
「『できることがあったら何でもするから、言って下さい』とは言われるのよね。それはもちろんありがたいんだけれども、でもそう言われるだけでは、やはり辛いんよね」
ポロッともらされた一言に、ドキッとしてしまった。
数年前、ボランティア活動の裾野を広げるキャンペーンの一環として「いつでも、どこでも、誰でも、気軽に、楽しく」というキャッチフレーズが使われた。
確かにボランティア活動は、本来、どのようなペースで取り組むかが自由な活動。かつてはどうも禁欲的、犠牲的な世界だと思われがちだったのだが、実際はこのキャッチフレーズが示すような軽さも包み込んだ活動だ。だから「無理をせずにできることで良いから、何か取り組んでみて」と言ってボランティア活動につきまといがちだった”重さ“を取り払うことは、大切なことだ。
しかし、「気軽な活動」にはそれなりの限界があることも確かだ。継続的な関わりや蓄積・経験が求められるケースには対応できない。「気軽」つまり「軽い気持ち」で関わる活動では、その行為も軽さをまぬがれない。
実際には、軽い気持ちで始めた活動がもう一段の飛躍をする時がある。それは「責任」を感じた時だ。一定の責任が求められた時、この責任を負うのか負わずに済ますのか。ここで「自分がせずして誰がする」と責任の伴う行為を引き受けた時、ボランティアの活動には、一定の重みと強さが伴ってくる。
ところが、ここでやっかいなことが起こりやすい。やむにやまれず責任を負おうと頑張る人が、まわりの「気軽な人」との間にギャップを感じ、時に孤立感や消耗感を抱いてしまうことだ。
「自分がこんなに頑張っているのに、みんな分かってくれない」。それは下手をすると一種の被害者意識に発展し、気持ちを閉ざし、時には周囲の応援の声が受け止められない、といったことになることさえある。
このようなことは、関わり方の基準がなく、それぞれが自由に活動できる自発的な活動では、よくあることだ。
たとえば、「高みの見物」的な助言がそうだ。「○○すれば良いのに…」。まさに軽い気持ちで、かつ善意からのアドバイス。しかし、言われた側がその助言で新しい視点が開かれることは、実はそう多くない。常に「どうしたら良いか」と考え詰めている立場からは、「理屈は分かっている。問題はそれを実行できる条件なのだ」と、その助言に空しさを感じ、意欲がなえてしまうことさえある。
「できることはするから」「こうすれば良いのに」、さらに「頑張って」などといった言葉は、それを言った側は楽になることもあるが、実は相手には冷たさを感じさせてしまうこともあるのだ。
では、どうすればよいのだろうか?
「物言えば唇寒し」と黙り込まざるをえないようでは、市民活動が重たい世界に戻ってしまう。確かに「今のまま放っておいては駄目だ」と活動するのだから、現状維持を変えるエネルギーは不可欠。改革的な活動ほど重さも伴うが、その取り組みは明るいものでありたい。それにはどうするか?
この状況を打開するのは、結局、「できることを実際にする」ことだろう。まさに、できることでよいから、ともかく行動を起こす。その際、言われるまで待つのではなく、言われなくても、思いついたことはやってみる。腰の軽さ、フットワークの良さを発揮することだ。
「もう少し良い社会にしたい」との思いで一線を越え、選挙に、あるいは様々な活動に挑戦する人たちがいる。それを言葉に加え、行動でも支える活動を勝手連的に「できる範囲で」起こす。では何をするかなのだが、この時に大切なのが、まさに「何もしないよりはまし」という”軽さ“だ。ともかく行動を積み重ねることでしか、物事は前に進まないのだから。
市民活動情報誌『Volo(ウォロ)』2003年3月号 (通巻383号)
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