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地方分権がノーマライゼーションを阻害する!? ~障害者地域生活支援事業等補助金の一般財源化を受けて

編集委員長牧口 明

 障害者福祉の分野でこの四月から、「支援費制度」という新しい仕組みが導入されることは多くの人がご存知のことと思う。しかし、その支援費制度導入の陰に隠れた形で同じく四月から、障害児者福祉の分野で一つの見過ごしにできない改革がおこなわれた。国がノーマライゼーションの理念に則り、障害児者の地域での生活を支援するためにスタートさせた「障害児者地域療育等支援事業」と「市町村地域生活支援事業」への補助金が打ち切られ、その分を地方交付税に上乗せする形での一般財源化がおこなわれたのだ。と言っても、多くの人にとっては何のことかよくお分かりいただけないと思われるので、少し説明させていただきたい。
 一般的に、国から都道府県や市町村へのお金の流れとして、「補助金・負担金」という形と「地方交付税」という形がある。前者は、使途が特定された財源として各省庁から自治体に提供されるが、後者は、使途自由の一般財源として、総務省から一括して提供される。前者の補助金には、特定地域の特定施策についての補助金というものもあるが、一般的には、社会的に広く必要とされているにもかかわらず十分普及していない施策について、各自治体の積極的な取り組みを促す意味で制度化されることが多い。今回の「障害児者地域療育等支援事業」と「市町村地域生活支援事業」も、そのような意味での補助事業として一九九六年に始められたものだ。前者は知的障害児者、後者は身体障害者を対象とした事業である。
 このような補助金はその性格から言って、補助の対象となっている事業が全国的に普及し、補助金による誘導・促進策をとらなくても事業が継続されていく目途が立った時点で廃止(一般財源化)されることが多い。今回の場合問題なのは、先の両事業とも、まだまだ「全国的に普及した」とは言いがたい状況(前者は普及率六八%、後者は三八%)にあることだ。この四月から実施に移された支援費制度においても、今後より充実させていくべき事業として厚生労働省自身が説明していただけに、関係者にとっては正に「寝耳に水」のことであった。
 今さら述べるまでもないことだが、障害者福祉の分野はもとより社会福祉の世界では、ノーマライゼーションの考え方が今や基本的な考え方として定着し、「どんなに重い障害を抱えていても、可能な限りその人の地域、在宅での生活を支える」ということは、関係者共通の目標とされている。昨年十二月に策定された新障害者計画でも、「脱施設」「地域生活支援」は重要な柱とされている。二つの事業はこの目標達成に向け、福祉サービスに関する情報の提供やその効率的な利用を支援するために制度化され、各地で着実にその成果を上げつつあったと言える。
 しかし、今回の改革でせっかく育ち始めたその芽が花を開かせないでしぼんでしまう危険性が出てきたのだ。なぜならば、使い道自由ということは、この財政難の折から、本来の障害児者の地域生活支援事業以外の事業資金として使われる恐れが十分にあるからだ。
 今回の経緯について厚生労働省は、「国として補助金をつけて実施させるのではなく、市町村の事業として主体的に取り組んでほしい」「地方交付税自体は特例交付金という形で増額されており、国として財源の手当てはしている」との見解のようであるが、いま一つ説得力に乏しいように思われる。この背景には、地方分権改革推進会議等の議論の中での国と地方の役割分担についての見直し作業があり、地方分権の立て前で攻めてくる財務省に厚生労働省が押し切られた、というのがもっぱらの見方だ。
 確かに地方分権は大事なことであるし、市民自治は自治体が基盤となる。分権を進め、自治を促進するためには財源の自由度を高めることが必須の条件であることも事実である。しかしながら、国税と地方税の基本的な仕組みが変わっていない中で、地方交付税と補助金の関係だけを恣意的に操作してみても、それは分権・自治には結びつきにくいのでないかと思うのだが、どうだろうか。
 とは言え、すでに決まってしまったことを今さらとやかく言っても仕方がない。問題は、これからどうするかである。さすがに、いきなり今年度から事業(助成)を廃止もしくは縮小するという自治体はないようだが、来年度以後の対応については明言を避けるところが多いようだ。
 どの自治体も財政状況が厳しいなか、少しでも財政の縛りを少なくしたいという気持ちは分からなくもないが、財源そのものが無くなるわけではないのだから、これまで継続してきて、社会的にまだまだ必要とされる事業を簡単に廃止・縮小するようだと、今度は自治体の見識が問われることになるだろう。
 一方で、私たち自身もそろそろ、国の補助金を当てにした自治体施策の拡充という考え方を見直す時期に来ているのかも知れない。これからは、今まで以上に地元の自治体との関係を強くし、国の施策の方向がどう動こうとノーマライゼーションの町づくりを着実に進めていく自治体を自分たちの手で作っていかなければならないと思う。
 国際障害者年で障害者の社会への「完全参加と平等」がうたわれて二十年。かつては、家庭で家族の庇護の下で一生を送るか、施設生活を余儀なくされていたような障害者が続々と自らの独立した生活を営みはじめ、さまざまな形で社会への参加を果たすようになった。障害者(人間)の自立概念も大きく変化してきた。この流れを決して押しとどめてはならない。

市民活動情報誌『Volo(ウォロ)』2003年4月号   (通巻384号)

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