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大阪ボランティア協会常務理事太田 昌也

 超高齢化が叫ばれて久しいが、あと数年後には団塊の世代が定年退職期を迎え、その多くは十年足らずの間に年金生活者の仲間入りをする。高齢者人口が急速度で膨らんでいくというわけだ。
 また、同時進行の少子化も顕著になっており、いびつな年齢分布は当然社会の担い手不足を招き、わが国の将来に大きな影を落としている。
 こうした時代背景を受けて、高齢者の就労を支援する政策がいくつか立てられている。しかし、そのいずれもが大きな成果を上げているとは言い難い。長引く不況の影響は深刻なのだ。
 ハローワークをのぞいてみると、まだまだ働く意欲は強いのに、勤め先が見つからないという中・高年層であふれており、不本意な形で職を奪われた人々の悲痛な叫びが聞こえてくるようだ。リストラという言葉は日本では本来の意味を失い、「解雇」と同意語になってしまった。
 こんな状態の下では、「痛みを分かち合う改革」という掛け声に、見切りをつける人が多くなるのは当然の成り行きだ。多くの国民が痛みを押し付けられているのである。「失政のつけを国民にまわすな」という怒りの声が高まるのも、もっともではなかろうか。
 一方、勤労者マルチライフ支援、コミュニティ・ビジネス支援など、近年、行政から相次いで打ち出された事業には、リストラで失職した人々の再雇用の受け皿にNPOを意図しているものも多い。
 しかし、NPO側では、「ボランティアとして参加する人々は大歓迎だが、雇用などとても」という声が圧倒的である。つまり、NPOのマーケットはまだまだ未成熟で、この期待に応えるだけのものになりえていないというのが実状なのだ。
 このような時代の中で、高齢者はいったい今後の人生をどのように設計し、生き抜いていけばよいのだろうか?
 高齢者というと、「身体のどこかに病を抱え、それをいたわりながら細々椀湧∽?桧tと年金生活をしている人」というイメージを持つ人も多いが、決してそんな人ばかりではなく、積極的な社会参加を望んでいる人も多いのだ。
 また、長い経験に裏打ちされた技術やスキルを持っており、社会に還元できる能力の水準はかなり高いと考えられる。いわば、さまざまの分野でのマスター(達人)なのだ。
 そういう視点で見ると、この貴重な人的資源を埋もれさせておくことは大きな社会的損失だということが出来る。竹中ナミさんは、「障害者を納税者に」をプロップステーションの合言葉にしたが、まさに「高齢者を納税者に」という発想が求められているのではなかろうか。
 そのために、まずは彼らの就労を促すための積極的な「場作り」が望まれる。多くの高齢者は子育てを終了し、いくばくかの蓄えも持っている。つまり、それほど多くの収入を必要としない人たちも多いのだ。少々賃金が安くても時間的にゆとりを持って働ける職場、あるいは、収入のためだけではなく、もっと社会に役立っていると実感できる仕事など、その「場」を生み出す工夫が必要である。
 そのひとつは、「仕事を分かち合う」という考え方に基づいた場作りだ。近年、ワークシェアリングの論議が盛んになってきたが、積極的に導入しようという企業はまだまだ少ない。社会保険料の負担などを考えると、経営的なメリットがほとんど無いからだ。しかし、長坂寿久さんの著書『オランダモデル~制度疲労なき成熟社会~』には、分かち合うことで成功したオランダの例が生き生きと紹介されている。「少々賃金が安くても時間的にゆとりを持って働きたい」というニーズに応える工夫がもっと必要ではないだろうか。
 いまひとつは「企業に就職する」という形ではない働き方を増やしていくことだ。スモール・オフィスやホームオフィスなど、新しい就労形態が芽生えつつあるが、自宅や、あるいは自宅の近辺に仕事場を確保して、その人なりのペースで仕事をする。そして、その成果に応じた収入を得るという働き方は、もっとあってもよい。
 リサイクルやユニバーサル・デザイン商品の開発などの分野では、NPOは企業と協働することによって、新しい就労の場を開発するポテンシャルを秘めている。「もっと社会に役立っていると実感できる仕事」は得意分野のはずである。積極的に場作りへ参加することを期待されているのではなかろうか。
 高齢者の増加という社会構造の変化は、私達の前に大きな課題を突きつけている。もはや、現役世代に大きな負担を強いて、安穏と楽隠居の生活など夢のまた夢なのだ。マスターズが鍛え上げた技を社会に還元し、応分の負担をすることが出来る社会、掛け声だけではなく、本当に「生涯現役」を貫ける社会が求められている。
 期待したい。人生のマスターズの新たなる社会への挑戦を。

市民活動情報誌『Volo(ウォロ)』2003年6月号   (通巻386号)

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