ボラ協のオピニオン―V時評―

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NPO法の「功罪」

編集委員早瀬 昇

 特定非営利活動促進法、いわゆるNPO法が成立して、この十二月で五年になる。この法律は、それまで非営利団体が法人格を取得する際にあった極めて厳しい規制を、大幅に緩和した。なにせ特定非営利活動法人(NPO法人)の認証率は九九・六%。申請した団体のほぼすべてが、法人格を得ていることになる。
 この規制緩和の効果は劇的だった。NPO法人の数は八月末で一万二千七百八十。次第に増加ペースが高まっており、ここ数カ月は一カ月間に四~五百団体のNPO法人が誕生している。
 それに特定非営利活動促進法という法律名の長さを嫌って略称であるNPO法が普及したが、これにより「NPO」という概念が急速に日本社会に広がった。「利益追求ではなく何らかの使命実現を目的とする団体」がNPO。ただし事業を継続的・専門的に進めるため、有料事業を行ったり有償の専従スタッフを確保する活動スタイルも含む。そこで無償のボランティア活動だけの形態ではなく、仕事として収入を得ながら社会問題の解決に関わりたいと考える人々の注目を集め、また雇用創出や産業活性化の担い手としても注目され始めた。
 また、行政に対する「もう一つの公共活動の担い手」としての注目などから、多くの自治体がNPOを支援する部局を立ち上げた。さらに「市民との協働」といったスローガンのもと、行政の担ってきた事業をNPOへ積極的に委託する動きも活発化してきた。安易な下請けと見える事例もあるから手放しで評価できるわけではないが、NPOが社会を構成する一員としての存在感を増しつつあることは確かだ。
 このようにNPO法の成立が社会に与えたインパクトは、大変、大きいと言える。

 しかし、一方でNPO法は、その成立時の経過から、一種の混乱をもたらしつつあるようにも思う。それは、「非営利」という観念の曖昧さのため、実際上、営利企業との区別が難しい団体が、多数、NPO法人として誕生していることだ。
 元来、「非営利」、つまり「利益追求を目的としない」姿勢を明確にチェックすることは難しい。「利益追求を目的とするつもりはない」と言っても、この「つもり」とは”心“の中のことであり、この”心“が他者に見えるわけではないからだ。
 それに、寄付や補助金など支援者からの財源だけでなく、日々、取り組む事業収入で経営成立させようとする団体も少なくない。対価を抑えた事業ばかりだと、やればやるほど赤字が増えることになり、よほどうまく支援が得られないと継続できない。逆に事業収入で必要経費をまかなえる構造を作れると、安定した事業展開ができる。事実、介護保険に関わる分野などでは、事業収入中心で活発に活動を進める団体も増えてきた。
 問題は、このような団体と一般の企業との区別が明確につけにくいことだ。つまり、「非営利」の”肩書き“をつけて「金もうけではなく、社会のため、対象者(=お客様?)のために事業をします」と謳いつつ、実際の事業内容は営利企業と変わらないのではないかという団体も少なからず登場しているように思う。

 このような状況を生み出した原因の一つに、この法律が当初構想された「市民活動促進法」から「特定非営利活動促進法」に名称が変わったことがある。
 一九九七年六月、衆議院は与党三党と民主党が共同提案した「市民活動促進法案」を可決し、参議院に審議の場が移った。ところが、参議院のある与党の幹部が「市民」という言葉は市民運動を連想すると反発し、法案名を変えなければ否決すると主張。その結果、法の目的の部分で「ボランティア活動をはじめとする市民が行う自由な社会貢献活動」の文言で一カ所だけ「市民」という言葉を残した以外、市民活動促進法案に百七カ所あった「市民」の言葉を法案から削除。名称も「特定非営利活動促進法」の名称に変更することとし、一九九八年三月に衆参両院で可決、成立した。
 この結果、「非営利」という言葉が前面に出ることになり、「NPO」の概念普及には役立った。しかし反面、広く市民が参加して展開する活動というイメージは弱まり、非営利だけれど企業のような、つまり「非営利会社」とでも呼べるような団体もNPO法人の中に加わることになってしまった。

 では、このような現状を、どう考えれば良いのだろうか。
 ここまでのNPO法人の広がりを今さら否定することは難しいし、そもそも「非営利会社」的存在が悪いとも言いきれない。企業的な効率を重視する体制を持ちつつ、営利追求を第一義としない組織は、今後の企業のあるべき姿の一つかもしれないからだ。
 しかし、本来の市民活動団体、つまり多くの市民が共感し、ボランティアや寄付者、会員として関わる団体。あるいはそうした支援は少ないが、市民活動の活性化を至上命題として活動する団体が、NPOの中核に位置づけられる仕組みも必要だ。
 なぜなら、多くの市民が社会活動に参画する受け皿となっている団体は、市民の自治活動を活性化する役割も果たしているわけだし、組織運営に多くの市民が関わることは運営の透明性も増すからだ。
 特に行政の事業委託などでは、行政直営事業に比べ、この市民参加度が高かったり、市民の社会参加を活性化しようとする団体を特に評価することが必要だ。行政からNPOへの事業委託は、安上がりといった効果よりも、市民の自治的な社会問題解決を促進する観点から進められるべきだし、こうした市民参加性の低い団体は一般企業と同等に扱う方が公平だからだ。
 また市民の参加度によって評価することは、参加する市民一人ひとりの視点に基づくという点で、特定の個人や機関の視点で評価する手法よりも、より民主的だ。
 NPO法五年の節目を前に、「市民活動促進法」という原点の意味を考え直したい。

市民活動情報誌『Volo(ウォロ)』2003年10月号  (通巻389号)

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