ボラ協のオピニオン―V時評―

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ボランティアと緑綬褒章

編集委員吐山 継彦

 文化の日の前日、二〇〇三年十一月二日(日)の朝刊各紙は、秋の褒章受章者についての記事を掲載した。各紙の論調の類似点は、授章年齢の制限(従来は五十歳以上)撤廃によって、柔道の“ヤワラちゃん”こと田村亮子さん(二十八歳)などが受章したことや、一九五四年以来途絶えていた緑綬褒章がボランティア活動に功績のあった人等に贈られることになり、五団体と二十九人が受章したことなどだった。
 これらの記事を読んで、「ちょっと違和感があるなあ」と思った。勲章や褒章と聞けば、どうしても“国からの高齢者へのご褒美”というようなイメージがあったし、国民栄誉賞を「まだ若いから」と断ったイチロー選手が思い出されたからだ。水泳の北島康介選手などは弱冠二十一歳だから、従来の受章者のイメージとはずいぶんかけ離れている。
 筆者の個人的な感覚では勲章や褒章とボランティア、市民活動とはまったく結びつかない。つまり、筆者にとってボランティア活動というのは、国や自治体とわざわざ敵対する必要もないが、ベッタリと行政と手を携えて活動するようなものではなく、むしろ市民セクターとしての独立性が重要だと思っている。ところが今回、永らく授章の途絶えていた緑綬褒章がボランティア(活動団体)に与えられることになったというのだ。
 内閣府賞勲局のホームページによると、もともと褒章制度は、一八八〇年に内閣府によって意見具申され、「自己ノ危難ヲ顧ミス他人ノ生命ヲ救助セシ者又ハ孝子節婦ノ類又ハ私財ヲ捐テ公益ヲ謀ル者等ヲ賞スルニ従来金円或ハ酒盃ヲ以テスルノ成規ヲ更メ褒章ノ制御新設相成可然」となったものだ。つまり、人命を救助した者や孝子など徳行のあった者、私財を投じて公益をなした者には、褒章の制度を定め、その栄誉を称えようというのが褒章制度制定の動機だった。そして、一八八一年十二月には、太政官布告第63号によって「褒章条例」が公布された。
 現在、褒章は、設立当初からある(1)紅綬褒章(対象は、自分の危険を顧みず、人命救助した者)、(2)緑綬褒章(孝子、順孫、節婦、義僕など、徳行卓絶な者)、(3)藍綬褒章(教育衛生慈善防疫事業や、学校病院の建設、道路河渠堤防橋梁の修築、田野の墾闢、森林の栽培、水産の繁殖、農商工業の発達に尽力した者など)の三つと、一九一八年に制定された(4)紺綬褒章(公益のために私財を寄付した者)、及び一九五五年一月制定の二つ、(5)黄綬褒章(業務によく務めて皆の模範になる者)と(6)紫綬褒章(学問や芸術上の発明・改良・創作について事績著明な者)の合計六つである。
 今回、ボランティアに授与されることになった緑綬褒章の、かつての対象者は、孝子・順孫・節婦・義僕である。よく父母に仕える孝行な子(孝子)、従順な子孫(順孫)、節操の堅固な婦人(節婦)、忠義なしもべ(義僕)、つまり緑綬褒章とは、封建社会における忠孝の行いに秀でた人たちを対象としていた褒章なのである。これが現代社会の“理想の人物像”と齟齬をきたすのは歴然としており、その結果、一九五四年以来五十年近く受章者がなかった。
 ここで、今年の秋の緑綬褒章受章者を日本経済新聞の特集面「秋の褒章受章者」より書き出してみよう。新聞では地域別、褒章別に、氏名・年齢・肩書の順番でリストアップされている。おもしろいと思ったのは、緑綬褒章以外の受章者の肩書が「保護司」「農業」「社長」「理事長」など、さまざまであるのに対して、この褒章の受章者(団体)は全て「何々奉仕者(奉仕団体)」となっていることだ。なにかとても時代錯誤で不思議な感じがしたので、日経新聞に電話で問い合せわてみた。答えは、「リストは内閣府の資料からつくったもの」ということだった。そこで、内閣府賞勲局にも電話をすると、「提出された書類から書き出したもの」というような意味の回答だった。
 奉仕者や奉仕団体という言葉を、ボランティア活動の当事者が使うことはあまり考えられないし、日経新聞が勝手に情報操作することもないだろうから、おそらく内閣府賞勲局の官僚がボランティア関連の肩書は全てそのようにしたとしか考えられない。リストを見てもらえば分かるが、これら“奉仕者”のうち、いちばん多いのが環境美化奉仕者と清掃奉仕者の十一人。社会福祉関連(社会福祉事業、社会福祉等、在宅福祉等、医療施設等の奉仕者)が七人、朗読・点訳・手話奉仕者が六人。街頭地理案内奉仕者、音楽指導奉仕者、民謡指導奉仕者、手芸指導奉仕者、学童保護立番奉仕者が各一名の計五人である。
 これらの受章者にはまったく何の落度もないが、ものすごく偏った、また非常に古い感覚の授章者選択ではないだろうか。その上、年齢制限を取り払ったはずなのに、緑綬褒章に関しては最低年齢が六十歳でしかも一人、八十歳以上は十二人(内九十歳以上が四人)もおられる。もし“高齢者”を六十五歳以上と考えるなら、今回の緑綬褒章の受章高齢者率は実に八九・六五%(二十九人中二十六人)にもなる。
 年齢のことで言うと、六褒章全ての受章者の中で三十歳代はゼロ、四十歳代もたった四人である。二十代の受章者が紫綬褒章のスポーツ選手ばかり、というのも釈然としない。
 なにはともあれ、今回の秋の褒章、栄典制度の見直しが行なわれた、というわりには旧態依然としたものだったと思う。「ボランティアにも褒章を」というなら、現在の社会的課題に果敢に取り組んでいる働き盛りの人々や団体に、ぜひ報奨金をタップリと“下賜”していただきたいものである。

■緑綬褒章受章者29人と5団体のリスト(団体は●)

北海道:    ●(北海道)点訳奉仕団体
東 北:    (青森)72歳・社会福祉事業等奉仕者
:    (岩手)65歳・朗読奉仕者 
:    (宮城)75歳・点訳奉仕者
:    ●(宮城)環境美化奉仕団体
信 越:    (新潟)82歳・環境美化奉仕者
関 東:    (茨城)80歳・環境美化奉仕者
:    (茨城)81歳・在宅福祉等奉仕者
:    (茨城)64歳・清掃奉仕者
:    (茨城)74歳・医療施設等奉仕者
:    ●(栃木)環境美化奉仕団体
:    ●(栃木)在宅福祉奉仕団体
:    (群馬)90歳・点訳奉仕者
:    (東京)84歳・街頭地理案内奉仕者
:    (神奈川)66歳・音楽指導奉仕者
:    (神奈川)84歳・環境美化奉仕者
中 部:    (愛知)72歳・手話奉仕者
:    (愛知)78歳・民謡指導奉仕者
:    (愛知)90歳・社会福祉施設等奉仕者
:    (岐阜)60歳・手芸指導奉仕者
北 陸:    (富山)64歳・社会福祉施設等奉仕者
:    (石川)78歳・点訳奉仕者
近 畿:    ●(滋賀)在宅福祉奉仕団体
:    (大阪)91歳・環境美化奉仕者
:    (兵庫)76歳・学童保護立番奉仕者
:    (兵庫)84歳・環境美化奉仕者
:    (和歌山)69歳・社会福祉施設等奉仕者 
中 国:    (島根)83歳・在宅福祉等奉仕者
:    (広島)74歳・朗読奉仕者
:    (広島)69歳・環境美化奉仕者
四 国:    (徳島)93歳・清掃奉仕者
:    (香川)67歳・環境美化奉仕者
:    (愛媛)80歳・環境美化奉仕者
九 州:    (長崎)76歳・清掃奉仕者

市民活動情報誌『Volo(ウォロ)』2003年12月号  (通巻391号)

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