ボラ協のオピニオン―V時評―

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「市民セクター」再考 ~みんなでソリューションを模索しよう!

編集委員吐山 継彦

●協会のミッションは「市民セクターの拡充」
 去る11月12日(土)、大阪ボランティア協会は5日遅れの40周年記念日(11月7日)を祝い、日本全国から200人ほどの参列者があった。お隣の国のボランティア団体「韓国自願奉仕聯合会」からも李鍾均理事長が出席された。
 当日の配布資料に、『市民としてのスタイル~大阪ボランティア協会40年史』と『2006年度-2010年度「中期戦略」策定委員会・答申』があった。答申の中には、協会の新しいミッション案が掲げられている。要約すると、「市民セクターの拡充」というものである。
 市民セクターとは、第一の行政セクター、第二の営利セクターにつぐ、第三のセクターとしての、非営利・非政府(非行政)の公益セクターのことである。   
 「大阪ボランティア協会は、より公正で多様性を認めあう市民主体の社会をつくるために、多彩な市民活動を支援するとともに、他セクターとも協働して、市民セクターの拡充をめざします」と、新ミッション案にあるとおり、ボランティア、市民活動、NPO・NGOなど、行政や企業の活動の埒外にあるものを拡大・充実させていくことをミッションとしているのだが、その目的は「市民主体の社会をつくるため」である。
 ここで、それぞれのセクターの特徴を要約しておこう。第一の行政セクターの特徴は、税金を原資として公益活動を行うことである。第二の営利セクターの場合は、利益を求めてビジネス活動を行うことだ。そして、第三の市民セクターの特徴は、第一と第二のセクターの埒外にある公益活動を非営利で行うことである。つまり、市民セクターは、ほかのセクターにはできにくい活動を、営利を目的としない(Not for Profit)で行うのだが、活動の原資は何かというと、行政からの補助金や助成金であり、個人や企業からの善意の寄付であり、その団体独自の会費であり事業収入である。
 NPOは、一般的に「非営利組織」と訳される場合が多いが、実は利益を伴う事業を行うことも多い。しかし、その利益は仲間内で分配するのではなく、次の公益的な活動に使うのだから、「営利のためではない組織」なのである。つまり、NPOはNon-Profit Organizationではなくて、Not for Profit Organizationであるとも言われる。その伝で行けば、営利企業は、FPO、つまりFor Profit Organizationであり、両者の間の違いは”月とスッポン“のようにも感じられる。
 また、行政とNPOは、目的は公益だから同じことだが、前者が税金によってまかなわれている、という違いがあると思われている。しかしながら、最近はNPOも数多くの行政がらみの仕事をしているので、結局、税金を原資として仕事をしていることも多い。
 NPOには税金が迂回してやってくることも多いし、企業市民活動によってビジネスの利益が迂回してやってくる場合も多い。結局のところ、NPOの活動の原資は税金か企業の利益、もしくは自主事業による利益や会費に還元される。
 NPOという言葉は、90年代に入って日本で一挙に市民権を得たが、世界的にはNGOという言葉も同じような意味で使われている。また、CSO(Civil Society Organization=市民社会組織)という言葉も、最近はけっこう見かけるようになった。NPO・NGOという言葉はやがてCSOに置き換わっていくのだろうか?
 日本では、NGOという言葉は、国際協力など海外とのかかわりのある市民活動団体によく使われるようだが、NPOもNGOも同じことで、要は“非営利”に力点を置くか、”非政府“に力点を置くかの違いだけである。どちらにしても、「営利ではない」「政府ではない」と、他のセクターを意識した言葉であるのに対し、CSOは、自らの拠って立つ基盤である市民社会・市民セクターを命名の根拠としているので、いかにもスッキリしている。

●「非営利」の倫理的優位性を主張するのは笑止
 最近やっと日本ではNPOという言葉が定着しだしたのに、いまさら新しい頭文字語でもあるまい……と考える人も多いだろう。その危惧も当然のことで、筆者も「NPO推進センターをCSO推進センターに変えるべきだ」などと主張しているわけではないが、NPOという言葉が持つ危険性については十分留意しておく必要があると考える。
 最大の危険性は、NPOの活動に携わる人たちの中で、「非営利」を倫理的に正しいことのように考える傾向があることである。その傾向の根底には、「営利」をあたかも「いけないこと」のように見る考え方があるようだ。暴利や私欲だけの私利はいけないのかもしれないが、創意工夫をして顧客のために真っ当な商品やサービスを正当な価格で提供して利益を上げることについては全く何の問題もないし、それどころか営業利益を上げないと企業活動は維持、推進、発展できない。
 「営利」を敵視する傾向に根拠がないわけではない。18~19世紀の資本主義勃興期における苛烈な労働者搾取による暴利を持ち出すまでもなく、20世紀の公害垂れ流しや近年の欠陥商品販売による企業の利益第一主義などの記憶が生々しいからであろう。
 しかし、営利セクターも大きく変わりつつあるようだ。『ネクスト・マーケット』(C.K.プラハラード著 英治出版)によると、1日2ドル未満で生活する経済ピラミッドの底辺層(BOP=ボトム・オブ・ザ・ピラミッド=40~50億人)を福祉や慈善や援助の対象としてではなく、真っ当なビジネスの顧客・市場として捉え、貧困層の生活を改善・向上させる商品やサービスを提供することにより、また創造力と効率化と他セクターとの協働によって、多大の利益を生み出している大企業・多国籍企業などの例が取り上げられている。
 『ネクスト・マーケット』は、営利を汚れたもの、非営利を高潔なものと考える視点に対して革命的な転換をもたらす。つまり、広大な底辺層を巨大でまともな市場、まともな消費者・顧客として捉え、企業と貧困層の人びと双方にとってWIN―WINのビジネスモデルを創出することによって、営利セクターが貧困克服という社会的課題と格闘しているのである。
 11月号のこの欄で、当協会の岡本榮一理事長は、「課題の海に船を漕ぎ出そう」と呼びかけ、協会がさらに進化・発展していくためには「それしか道はない」と断言された。しかし、課題の海へと漕ぎ出さなければならないのは何もボラ協だけではない。行政も企業も、課題の海へ漕ぎ出してこそ、新しい展開が望めるのである。
 大阪ボランティア協会40年史は、『市民としてのスタイル』と題されている。行政マンのスタイルでも企業人のスタイルでもない、市民セクター独自のスタイルを創り出し、他セクターとも協働しつつ、時には競争もして、みんなで一丸となって課題の海に漕ぎ出し、ソリューション(解決策)を模索する。次の40年は、ぜひともそういう時代にしたいものである。


市民活動情報誌『Volo(ウォロ)』2005年12月号  (通巻411号)

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