ボラ協のオピニオン―V時評―

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寄付とは参加である

編集委員早瀬 昇
●「寄付の文化」の差?
 「日本には『寄付の文化』がない」と、よく言われる。いろいろ努力しても、なかなか寄付や会費が集まらない。そこで、その理由を日本の「文化」に求めるわけだ。
 確かに日本人の寄付は少ない。寄付大国と言われる米国の個人寄付は、2077億ドル(04年)。この年の平均為替レートで換算すると、22兆4711億円に達する。一方、日本では所得税の寄付金控除を申告した寄付が252億円(03年度)。人口はアメリカが約2倍だから、一人当たりの寄付額には約450倍もの差があることになる。
 もっとも日本では、昨年まで1万円以下の寄付が申告対象とならなかったこともあり、実態はもっと多いとの見方もある。実際、「家計調査」による試算では2189億円(02年)という推計もある。ただし、この場合でも約50倍の差となる。
 これほどまでに差があると、確かに「文化」のせいにもしたくなる。
 そして寄付。特に特典がない点で、実質的に定期寄付者ともいえる会員を求めて努力しても、結局、十分な成果が得られない。それならば、サービスを提供して対価を得る「事業収入」中心で活動を組み立てよう。コミュニティビジネスといった言葉も普及する中、こうした形態で事業を拡大し成果をあげる団体も増えてきた。

●NPOの4財源
 山岡義典さん(日本NPOセンター・副代表理事)は、市民活動の財源を図のように整理した。政府の財源は税収、企業は売り上げと、比較的単純な構造だが、市民活動は、会費・寄付金、補助金・助成金、自主事業収入、受託事業収入など、実に多様な財源を持っている。これを山岡さんは、横軸を支援系か対価系か、縦軸を内発的か外発的かで分け、図の4形態に整理した。
 補助金や受託事業収入は比較的高額だが、相手の事情で変動する要素が大きい。これに対して会費や寄付金、事業収入は、一件一件は比較的少額な場合が多いが、活動を地道に続けていれば急に変動することは少ない。
 そして、活動の対価として収入を得る場合、その質の向上と安定的な遂行が重視されるのに対し、支援系の財源では取り組みへの共感が鍵。その共感は団体のスタッフに現状改善などへの思いが強いほど広がりやすい。
 もちろん、これは理念的な対比であり、現実には事業収入中心だが運動性も高い団体もある。しかし、「対価的なサービスはないが、活動に共感するから」と提供される寄付や会費が多いと、運動が進めやすいのは確かだろう。

●寄付者志向、その鍵は?
 このように寄付や会費は市民活動を支える大切な財源だが、この寄付について考えるシンポジウムが、3月20日、東京で開かれた。「シーズ=市民活動を支える制度をつくる会」が主催した「寄付者志向のNPOを目指して」と題する集会だ。
 寄付が増えないのを「文化」のせいにしても何も変わらない。実際、多額の寄付を得、多くの会員が支えている団体もある。では、なぜ寄付が集まらないのか。それは寄付をする側の問題ではなく、寄付を求める団体が寄付者の方を向いた取り組みをしていないからではないか。こんな問題意識から開かれたのが、このシンポジウムだ。
 私もシンポジストの一人となったため、大阪ボランティア協会は、なぜ寄付や会費を重視しているのか、あらためて考えた。
 寄付や会費は使途の制約が少ない。事業収入に依存しすぎると、対価を出せる相手を重視しがちになってしまう。しかし、それ以上に重要なこだわりがある。協会は市民に開かれ、市民が運営する、市民主体の組織でありたい。だから、その財源も市民の支えを基礎におきたい。
 そう考えていて気がついた。協会は市民主体という理念の具体化として、事業の企画や運営に多くの市民が参加する「参加システム」を導入している。要は本誌も含め、協会のあらゆる事業の推進に、多くのボランティアが参加している。ならば、「寄付や会費も参加」なのではないか、と。

●参加を実感できる寄付へ
 ボランティアとして時間や労力を提供するだけでなく、寄付や会費という形でも社会を良くする取り組みに参加できる。寄付とは参加だ。
 つまり、寄付を増やす鍵は、自らの寄付を通じて事態を変えられる、世の中を良くできる、という実感をもってもらえることだ。寄付の成果を示すのはもちろんのこと、寄付の使途を選べるようにして寄付者が意志を示せたり、寄付者からの提案を受け付けるなど、”寄付が寄付だけにとどまらない“工夫が必要だ。
 これから総会の季節が始まる。定期寄付者とも言える会員が、団体の運営に参加できる貴重な機会だ。大阪ボランティア協会では、従来から総会の際に会員が小グループに分かれ質問や意見を出しやすくしてきたが、今年から欠席される場合も意見書を出せるようにした。これは一例だが、多くの団体が「寄付という参加」を進め、寄付の付加価値を高めることができれば、結果として「寄付の文化」も広がるだろう。
 先のシンポジウムで、シーズの轟木洋子氏から「あなたは無力じゃない」と寄付者に伝えることが必要だとの指摘があった。寄付が社会で活かされるだけでなく、寄付者自身も、社会を変えられる自らの力に気づき、元気になる。そんな社会を作りたいと思う。

【Volo(ウォロ)2006年5月号:掲載】

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