ボラ協のオピニオン―V時評―

寄付する・会員になる

ボラ協を知る

ボランティアする・募る

学ぶ・深める

「CSR」が支えるCSR

編集委員早瀬 昇
■世論は猛反発…のはずだったが
 「60キロ道路を67キロで走って捕まったようなものだ」「しゃべり続けて疲れたんで、休憩とっていいっすか?」
 「謝罪会見」のはずが反省の色がまったく見えず、「史上最悪」とさえ言われた東横イン社長の記者会見があったのは、5カ月前の1月27日。ハートビル法や建築基準法などに違反する不正改造が、約120の傘下ホテルの6割以上で行われていた。
 「見事な悪役ぶり」とさえ言えるこの会見はマスコミで繰り返し報じられた。その際、「低価格、朝食無料サービス、高速ブロードバンド完備などで急速に業績を伸ばし、国内有数の稼働率を誇る同ホテルチェーンでしたが…」といった前置きが付されたが、今回の事態に対する反発が広がり、利用客が激減するかと思われた。しかし…。
 事件発覚直後の2月に開店した神戸三宮のホテルはほぼ満室。事件発覚後2カ月の実績を含む今年3月までの1年間の同ホテルの財務状況は、経常利益が4千万円減ったものの、売上高は前年度を60億円上回っている。ここ数年、毎年ほぼ10億円ずつ経常利益が増加してきた同社だけに、昨年度の減益には事件の影響も考えられる。しかし、売上高が大幅に伸びていることを考えると、この減益は利用者の減少よりも、その後の再改修工事などの経費増の影響が大きいようにも見える。「報道の際に繰り返された前置きが、かえってPRになっている」と揶揄する意見があったが、現実にそうした”効果“があったのかもしれない。

■本気さが伝わりにくい背景
 もちろん、過ちを犯しても、これを反省し、今後への教訓として対応を改めるならば、その努力を応援することも大切だ。今、同社では障害者団体の関係者などを招いた「ユニバーサルデザイン対応化委員会」を設置して検討を進めている。当初は「施設法令監視委員会」と「ハートビル法遵守委員会」が設置されたが、両者を統合して障害のある人にもない人にもプラスとなる「ユニバーサルデザイン」をテーマにすることとなったという。一部の障害者や高齢者のため、という視点を超えた発想を得たことは一歩前進で、その成果に期待したい。
 ただ、こうした取り組みが始まったと聞いても、どこか釈然としないものが残る読者も少なくないのではないだろうか。当初の”衝撃的“な記者会見ゆえに、「結局、形だけ取り繕うだけで済ませてしまうのではないか」といった不信感が残ってしまうからだろう。
 4年前、ハム会社が輸入肉を国産牛と偽って業界団体に買い取らせた牛肉偽装事件が発覚した際には全国のスーパーなどから製品の一斉引き上げが行われ、その影響でハム会社の発行株式の時価総額が1600億円も減少する事態となった。「正直さが企業の隅々まで行き渡っていないと、企業の突然死もある時代だ」。当時、こんなことがよく語られた。
 ハム会社のような厳しい結果が伴うと、企業の本気度も高まり、その後の企業の対応に対する信頼感もかえって向上する。しかし、消費者などからの具体的な反応が目に見える形で起こらないままだと、企業内で適当に取り繕っているように見えがちだ。
 消費者の積極的な反応のいかんによって、企業の社会的な取り組みの信頼性が左右されることもあると言える。

■組織の責任と社員のかかわり
 5月16日、「これからの『CSR購入』について考える~組織の『社会的責任』と個人(社員)の関わりを考える」と題するシンポジウムが大阪NPOプラザで開かれた。主催は「CSRを応援するNPOネット」。当協会の他、環境、子どもの権利擁護、多文化共生などにかかわる市民活動団体が参加している。
 なお、「CSR購入」「CSRを応援する…」というCSRとは Corporate Social Responsibilityの頭文字。「企業の社会貢献」を指す言葉として急速に普及してきた。このCSRの国際規格が2008年に作られることもあり、ここ数年、産業界では広く注目を集めているキーワードだ。
 シンポジウムは、先の不正改造事件もふまえ、これだけCSRが注目されてきた中、一般に社員の意思に委ねられている出張時の宿舎選択がCSRとどうかかわるか、という問題を起点に、社員の判断と企業の責任の接点について話し合われた。
 その内容については、先月号(06年6月号)の本紙ニュース欄で報告しているが、社員という個人が出張時に使う宿舎の選択に企業が一々口を出す…という状況には全般的に消極的な反応が強く、個人の良識に期待するべきだとの意見が多かった。しかしその一方で、「本社を中心にCSR向上を進めているが、社内の意識には格差があり、問題が起こるのは本社から離れたところである場合も多い」との意見もあった。
 ここでも、社員という個人が問われることとなった。

■もう一つの「CSR」
 消費者であれ勤労者であれ、Corporate(元来の意味は「法人」)の社会的責任の基盤を築くのは個人の意識や行動だということになるが、この点について「CSRを応援するNPOネット」のメンバーでもある尾崎力さん(関西マガジンセンター社長)がこんな主張をされている。
 いわく、CSRを支えるのは「もう一つのCSR」。つまり、consumer(消費者)あるいはcitizen(市民)の社会的責任としての「CSR」があってこそ、企業のCSRが発展する、というのだ。
 確かに利便性や安さよりも、まずきちんと社会的責任をまっとうする企業の商品を買おう、という消費者が増えなければ、一定のコストを負担しながら積極的にバリアフリー化を進めるホテルなどの利用が減ることになり、「正直者が馬鹿を見る」状況を生み出す。これでは、CSR向上の意欲を削いでしまいかねない。
 もちろん、企業の社会的努力が見えないと社会的な意識で商品を選ぶことは難しいから、その情報提供の仕組みも必要だ。それは今後の課題として、企業の倫理を高めるのも低めるのも、消費者次第、市民次第。私たちの力で企業の社会性を高めることも弱めることもできると言えよう。

【Volo(ウォロ)2006年7・8月号:掲載】

ボラ協のオピニオン―V時評―

  • 2022.04

    遊びと宗教とボランティア

    大阪ボランティア協会ボランタリズム研究所 所長 岡本 仁宏

  • 2022.04

    「参加の力」は心理的に安全な場づくりから

    編集委員 早瀬 昇