ボラ協のオピニオン―V時評―

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個人情報保護で萎縮する市民活動

編集委員筒井 のり子
■個人情報の保護という障壁
 のびやかなはずのボランティア・市民活動に“萎縮”が起こっている。
 このように感じる場面が、この1年で極端に増えた。とくに地域を基盤とした活動を行っている人たちの間にその傾向が強く、悩みも深い。
 例を挙げると、「参加している一人暮らし高齢者に暑中見舞いを出して喜ばれていたが、今年からやめた」(地域で高齢者の昼食交流会を開いているボランティアグループ)、「災害時に介助等が必要な住民を把握し、支援システムを作りたいが、取り組めないでいる」(小学校区単位の住民自治組織)、「認知症高齢者や精神障害者を地域で支える活動を展開しようとしていたが、中断している」(福祉コミュニティづくりをめざすNPO)、など。
 こうした傾向は、一部の地域や団体だけのものではなく、全国的に共通したものだ。「個人情報だから教えられない・聞けない」という風潮が広がり、名前や住所などの個人情報を把握しないと展開できない地域活動の多くは、停滞を余儀なくされているのだ。実際になんらかの苦情を受けて取りやめたものもあれば、取り組む前から苦情を懸念して始められないでいる場合もある。明らかに活動が萎縮してしまっている状態だ。

■過剰反応による弊害

 こうした活動萎縮の背景にあるのは、言うまでもなく個人情報保護への過剰反応である。05年4月に全面施行された「個人の情報に関する法律(以下、個人情報保護法)」は、もともとIT社会の進展で個人情報の利用が拡大していることから、個人情報を活用する企業に一定の取り扱い安全義務を負わせ、ITで産業の振興を図ろうとする目的で立法化された。事業者による個人情報取り扱いのルールづくりという点で、確かに必要な法律であり、一定の成果をあげているといえるだろう。

 しかし、法律が施行されてすぐに、問題点が噴出した。依然として個人情報漏えい事件が絶えないことや、いわゆる法への「過剰反応」による弊害が多数指摘されたのだ。
 上記の地域活動での例以外には、「官公庁や企業が不祥事を起こした職員の情報開示を拒否する」、「病院が入院患者の家族に情報を開示しない」、「小学校でのクラスの緊急連絡網や保育園での卒園アルバム作成ができない」、といった事例が各地で発生した。
 法施行から半年を過ぎた11月には、国民生活センターが、センターに寄せられた個人情報相談事例から、「法への過剰反応」も含めた問題点を公表した。そして、いったん中断していた内閣府の国民生活審議会・個人情報保護部会も同月末に再開され、法の施行状況の評価と制度見直しに向けた検討を開始している。

■新しいつながりへのチャレンジ

 さて、このように個人情報保護法をめぐる課題は多岐に渡るが、ここでは地域活動との関係に焦点を当てて考えてみたい。

 自治会加入者の減少や、自治会そのものができないマンション、子ども会の解散など、近隣関係の希薄化が叫ばれて久しい。それと呼応するかのように、孤独死や、孤立した家族による介護殺人事件や児童虐待事件は増え続けている。2015年には、高齢世帯の3割以上(約570万世帯)が一人暮らし世帯になると予測されていることや、外国籍住民が今後ますます増えていくことなどを考えあわせても、今、地域の中で、住民同士が新しいつながりづくりを模索する時期にあるといえる。
 匿名社会のある種の居心地の良さを知っている私たちにとっては、それは「チャレンジ」とも言えるだろう。元来、プライバシーとは他者とのかかわりを拒否する概念であり、必然的に“共生・協働”という考え方との間には摩擦が生じるものである。地域づくりをするという事は、この摩擦の渦中で活動するという事である。昔ありがちだった排他的・閉鎖的・過干渉な地域活動ではなく、かといって匿名・覆面に逃げ込むのでもない関係性をどう作るのか。

■地域活動を萎縮させないために

 そこで、期待されるのが、ボランティアのもつ他者との共感力、のびやかで自由な発想と企画力、行動力なのである。それを萎縮させてしまってはいけない。

 個人情報保護部会は、来年夏の提言をめざして、10月から個人情報保護法の見直しに入る。検討項目の中には、もちろん過剰反応への対応策も盛り込まれている。しかし、この提言を待つまでもなく、地域を基盤とした市民活動の支援を行っている組織(社会福祉協議会やその他のボランティアセンター等)は、この問題について、早急に具体的な支援策を講じる必要があるのではないだろうか。
 一つには、「個人情報」と「プライバシー」は必ずしもイコールではないということを改め確認、周知することだ。一般には、この両者が混同されてしまっている。プライバシーの定義は難しく、人によって受け取り方が違う。そこでプライバシー侵害につながるような対応は避けたい、つまり個人情報にかかわることにはタッチしたくないという心理が働いてしまう。
 個人情報とは、「生存する個人に関する情報であって、当該情報に含まれる氏名、生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの」(法第2条)とされており、大変広い概念だ。一方、プライバシーとは、私生活上の秘密と名誉を第三者からおかされない法的権利ということができる。氏名を伝えただけでプライバシー侵害となるかどうかは、状況によって異なる。
 プライバシー侵害とは、私的領域の情報と個人を識別する情報とを、本人の意思に反して結びつけることだとする見解がある。むしろ、地域活動において反省し、より注意を払うべきは、こちらではないだろうか。
 第二に、より具体的な対処方法を示すことだ。たとえば、「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難なとき」(法第23条第1項第2号)には、本人の同意なしで第三者へ情報提供できる。このことが地域活動の中で確認できていれば、災害時や悪徳業者の被害があったときに、躊躇せずに活動できる。
 また、名簿等の作成において、「オプトアウト」(※)という例外規定(法第23条第2項)があることは、ほとんど知られていない。同意方式以外にもこうしたものを活用すれば名簿を作れるということを、地域活動に携わっている人たちにアドバイスしていくことは力強い支援となる。
 地域でのボランティア・市民活動を萎縮させないために、今できることは何かを考えたい。

※ オプトアウト

(あらかじめ、本人から求めがあった場合には、個人情報を削除することを明らかにしたうえで、名簿等を作成・配布すること)

【Volo(ウォロ)2006年10月号:掲載】

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