ボラ協のオピニオン―V時評―

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「自治の拡充」こそ、中間支援の仕事

編集委員吐山 継彦
■軒並み財政難の地方自治体
 去る3月6日、約353億円という膨大な借金を返済するために夕張市が財政再建団体に移行した。同市は、最盛期には24箇所もの炭鉱を有し、人口も約12万人を数えたが、90年に最後の炭鉱が閉山して以来、約1万3千人にまで減少。人口流出は今も続いているようである。

 夕張市の現在の財政的な惨状の原因は、国策による炭鉱閉山のために歳入が激減したことに加え、産業構造を転換しようとして観光振興策などに多額の出費を続け、それらがことごとく功を奏さなかったためとされている。ところが、地方自治体は企業と異なり、どれだけ債務が重なっても、「債務免除」という解決策は認められていない。


 その理由は、もしある地方自治体が債務不履行となれば、「次はどこだろう」と金融機関も疑心暗鬼に陥り、地方債の利回りが急上昇して、困難な財政事情を抱える全国の自治体に打撃を与えたり、ひいては財政破綻を招きかねないからである。そればかりではなく、日本という経済大国の国債に対する信用さえも揺らぎ、日本国自体が財政破綻するかもしれないからだ。日本は国と地方を合わせると1千兆円とも1千200兆円とも言われる借金を抱えているらしいが、それでもまだ潰れていないのは、「官」に対する「信用」が未だに壊れていないからである。


 では、夕張市のように財政再建団体になると、どういうことが起こるのだろうか。端的に言えば、「提供されるサービスは最低レベル、住民負担は最高レベル」ということになる。財政再建団体になった自治体は、国の指導・監督下で「財政再建計画」を策定し、歳入・歳出の両面で厳しい見直しを求められる。たとえば夕張市の場合、読売新聞(3月7日朝刊15面)の記事によると、「…市民税、固定資産税は全国最高水準。下水道使用料や、各種手数料も上がり、小学生以上の子どもが2人いる4人家族では、年間4万8千480円の負担増になる試算だ」ということである。負担は金銭面だけではなく、集会施設や養護老人ホームの廃止といった、住民サービスの低下もはなはだしい。


 ところが、財政危機の状態にあるのはなにも夕張市だけではなく、借金まみれの自治体は数多い。高知県東洋町の町長が、原子力発電所から排出される高レベル放射性廃棄物の最終処分場の立地選定を巡って、住民に諮ることなく、調査対象地公募に名乗りを上げたのも、財政難のため、国の交付金が目当てだった。交付金の金額は、最初6年間の文献・概要調査の段階で年約2億1千万円ということだったが、新年度から10億円に跳ね上がった。財政破たん寸前で、年間の予算規模が約20億円という東洋町にとって、喉から手が出るほど欲しい金額であることは間違いない。


 ことほど左様に、日本の自治体のほとんどが財政難で四苦八苦している。その直接的な原因の多くはバブル経済の崩壊によるものと考えることもできるが、それ以上に、現在の中国やインドのような、年ごとに拡大する途上国型経済から、低成長の成熟経済への移行という現実に、人びとの頭の切り替えができていないためであろう。


■住民自治・市民自治の原点に立ち返る

 このような地方の財政状況の中で、自治基本条例を制定する自治体が増えているという。雑誌「都市問題研究」は、平成18年8月号で「分権時代の住民自治」と題する特集を行い、巻頭論文「自治基本条例と住民自治」で、(財)地方自治総合研究所主任研究員の辻山幸宣氏が「2006年5月現在、制定施行されている自治基本条例は50を超えている。検討中の自治体が急増している現状を考えると、遅からぬうちに自治基本条例が基礎自治体(市町村←筆者注)の標準装備となるに違いない」と書いている。そしてその理由として、二つの考え方を提示している。


 一つは、地方分権化にともない市町村が国や道府県と同格の「自治体政府」になったため、「政府」の基本法としての基本条例の制定が当然の課題とされるに至ったこと。二つ目の理由としては、90年代以降の市民活動の隆盛によって、人びとが地域の社会運営のあり方に関心を持つに至ったことを挙げている。


 つまり、自治基本条例の策定には行政的ニーズと市民的ニーズがあるということだ。分権主義(団体自治=地方の経営は自治権を持った地方政府が行うべし、との考え方)と民主主義(住民自治)が地方自治のクルマの両輪であることは言うまでもないが、そのことは地方自治体の財政的危機への対処という課題であっても変わらない。


 前述した読売新聞の記事によると、このような「厳しい現状の中でも、市民の間には、自立の動きが出てきた」という。具体的には、「ゆうばり応援映画祭」において、できるかぎり経費を抑えた歓迎方法を考えた夕張市民たちの間から、「これまでは市に言われたことをやっていたが、主体的にやれた。これをつぎの活動につなげたい」という声が出てきているという。また記者は、「もともと、炭鉱街だった夕張市は、炭鉱会社が風呂や住宅などすべてを提供してきた歴史がある。ここにきて、必要な施設、行事は自分たちで守るとの意識が芽生え始めている」と書く。


 要するに、住民自治・市民自治というコンセプトをエネルギーとして、地域の課題解決のためのアクションを住民自身が起す以外に方法はないのである。つまり、地域社会運営の原点に立ち返る、ということだ。


 このような時代に、ますます重要となってくるのが、当協会のようなインターミディアリー(中間支援組織)の果たす役割である。なぜなら、その役割とは、「自治の拡充」だからである。一般的には、中間支援の仕事は、ボランティアと市民団体、またセクター間の需給調整をしたり、情報を発信したりする仕事だと考えられている。だが、その根底に、「自治の担い手を支援し、市民自治を拡充する」という気概が必要なのではないかと思う。


 民間のインターミディアリーはもちろん、自治体が設立・運営する市民活動支援センターやNPOサポートセンターなどの仲介組織の役割も重要である。公営の「支援センター」にはぜひとも、現在全国で進行中の自治基本条例制定の気運と精神に則り、行政ではなく市民セクターのほうに顔を向けていて欲しいと思う。


 神奈川県大和市の「新しい公共を創造する市民活動推進条例」が、前文において述べているように、従来「行政により担われていた『公共』に、市民や市民団体、そして事業者も参加する時代が来て」いるのだから。

【Volo(ウォロ)2007年4月号:掲載】

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