ボラ協のオピニオン―V時評―

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危うさ伴う「有償ボランティア」

編集委員早瀬 昇
■宿直の「ボランティア」募集!
 「宿直のボランティアを募集(夜間はスタッフが1名勤務/泊まりの方謝礼若干)しています。就寝可能ですが、緊急時(入居者がけがをしたときなど)の対応はしていただくことになります。…中略…お気軽にご連絡ください。」

 「障害者のグループホームを手伝ってくれるボランティア募集しています。…中略…交通費等の費用弁償として、宿直業務は1回3千円、世話人補助業務は1回2千円をお支払いします。」


 「有償ボランティア募集。高齢者を救うボランティアを始めましょう。…中略…ボランティアしながら『介助士資格』がとれます。」


 これらは、大阪ボランティア協会でボランティアコーディネーターとして活躍し、現在は短大教員の南多恵子さんが、全国各地のホームページから探し出した「ボランティア募集」の例である。「謝礼」「費用弁償」「資格取得」などの”メリット“を示すことで、重い責任が伴う活動への関心を誘っている。


 一方、行政でも「協働」「市民参加」をスローガンに似たような動きが広がっている。たとえば、教育委員会の主導で進められている「学校支援ボランティア」を実施するある高校では、障害のある生徒のために週に1、2日、休憩時間や下校時などにあたる「介助ボランティア」を募集している。拘束時間は8時半から15時半頃だが、授業時間中は別室で読書などをしてすごして良い。夏休みなどを除く毎週活動することが条件で、1日3千円の謝金(交通費を含む)が支給される。こうした活動が行政の様々な部門で増えている。


■「有償ボランティア」が広がる理由
 これらの事例に共通するのは、その活動が「有償ボランティア」として位置づけられていることだ。

 この言葉が使われだした80年代当時、用語をめぐる議論が活発になされた。「無償の活動を意味するボランティアに”有償“という言葉を組み合わせるのはおかしい。活動の内実が違ってくる」と反発する人たちと、「助け合いなどの理念に共感して相場に比べれば随分と低い謝礼を受け取っている。『ボランティア精神』でやっているのだから、適切な言葉だ」とする人たちが激しく対立したのだ。


 もっとも、当時、議論の焦点はその呼び方であって、有償活動そのものの是非が問題とされることは少なかった。そして、この議論は「市民活動」や「非営利活動」のように、無償・有償の両方の取り組み方を包み込む表現が普及する中で、徐々に低調になっていた。


 しかし、現実には「有償ボランティア」という表現は、かえって多用されだしている。依頼する側にとって便利な用語であり、活動する側にも一定のメリットがあるからだ。


 実態は「アルバイト」と変わらなくても「有償ボランティア」と呼ぶと、能動的イメージをこめられる。そこで「アルバイト募集」とするよりも、その活動に共感性の高い人たちを得られやすい。しかも、最低賃金よりも低い条件であっても「ボランティアなんだから」と説明でき、人件費を圧縮しやすい。その上、わずかでも謝礼を払うことで、気楽に活動を頼みやすい。そんな思惑が伺われる。


 一方、活動する側も「お小遣い」的な謝礼を得られる。賃金のために働くイメージが伴うアルバイトに比べて、社会的に評価されていると感じられる。中には「無償のボランティアよりも重要な活動を任させているから有償なんだ」と受け止める人さえいる。


 依頼する側にも活動する側にも便利な呼称、それが「有償ボランティア」だ。そこで福祉関係の歳出圧縮政策に苦しむ施設や財政危機に陥った自治体なども、積極的に「有償ボランティア」の活用を進めているわけだ。


■あいまいな立場ゆえに、事故の危険が伴うことも

 しかし、その現実を見ると「ボランティア」という言葉を利用した体のいい低賃金労働、場合によって最低賃金法などに反する不当労働の正当化ともなりかねない。


 この活動に対する研究を進めている独立行政法人 労働政策研修・研究機構の小野晶子氏によると、同機構が05年に実施した調査では、「有償ボランティア」の謝礼金は平均時給775円、中央値では650円。平均では最低賃金以上の謝礼を得ながら「ボランティア」と呼ばれる一方、約半数の人は最低賃金以下の謝礼となっている。「有償ボランティア」という存在のあいまいさが如実に現れている。


 さらに問題は「ボランティア」という言葉が加わることで対価を超えた危険を背負う場合があることだ。先の調査で「有償ボランティア」に活動上のデメリットを聞いたところ、「怪我や事故などの危険が伴う」の回答が20・1%。同様の質問をパートタイムなどの非正規雇用職員に聞いた結果は19・4%であった。つまり、調査では、怪我などの危険への不安を感じている「有償ボランティア」は労働基準法の保護を受けている非正規雇用者よりも多いことになる。


■あいまいさを避け、保障制度の充実を

 ”便利な呼称“と見える「有償ボランティア」には、問題をあいまいにし、隠してしまう面がある。冒頭の「宿直ボランティア」にしてもケアの質が落ちる懸念があり、そのしわ寄せは利用者がこうむることになる。その背景には、社会保障費の過度の圧縮があるが、その問題の深刻さは「有償ボランティア」の活動によって、表に現れにくくなっている。


 その上、現に怪我や事故の危険を感じている人が2割以上もいる。不測の事態に備える「有償活動保険」などもあるが、第三者への賠償責任への対応は手厚い一方、本人の怪我などへの保障は労災保険などに比べて、はるかに低水準だ。


 この状況をふまえると、二つの対応が求められるだろう。一つは、「有償ボランティア」という呼称の功罪をふまえ、最低賃金を下回る有償活動を避ける努力をすることだ。


 そしてもう一つは、ボランティアを含めた非営利活動従事者への労災適用などについて検討を始めることだ。実際、ドイツやフランスなどでは、一定の条件はあるが、無償のボランティアにも労災を適用する仕組みがある。


 「有償ボランティア」には、その言葉によって問題の所在があいまいになり、またその人自体の保障もあいまいな点で二重の危うさが伴っているといえる。

【Volo(ウォロ)2007年5月号:掲載】

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