ボラ協のオピニオン―V時評―

寄付する・会員になる

ボラ協を知る

ボランティアする・募る

学ぶ・深める

ボランティアって言うな

編集委員・日本ボランティアコーディネーター協会 代表筒井 のり子
■ボランティアで介護保険料軽減?
 改正介護保険制度の目玉の一つであった高齢者の介護予防事業がうまく進んでいない焦りが背景にあるのだろうか。

 厚生労働省は、“高齢者が行ったボランティア活動の実績をポイント化し、それを蓄積して介護保険料や介護サービス利用料に充てられる”制度を発表した(5月7日付通知「介護支援ボランティア活動への地域支援事業交付金の活用について」)。


 これは、あくまでも自治体が取り組む地域支援事業に対する例示であって、全国的に実施する制度ではない、とされている。しかし、実施のための費用に地域支援事業交付金を活用できることから、導入に関心を示す自治体は少なくないだろう。すでに東京都稲城市は08年度からの本格実施を決定しており、他の自治体でもこの件に関する検討会を設置したところもある。(もともと稲城市は千代田区と共同で05年度に「介護支援ボランティア控除」創設を厚労省に提案したが、保険料は所得に応じて決定されるもので控除はなじまないなどの理由で見送られ、市単独で「介護支援ボランティア特区」申請を行っていた。今回の案は、稲城市の提案を下敷きにしたものである。)


 この制度は、元気な高齢者が要介護状態にある高齢者の介護予防(現状の維持・改善)活動に参加することで、自らの心身の健康の保持や増進が図られ、介護予防(発生予防)に効果があるだろうという仮説に立っている。さらに、それは介護保険全体の支出を抑えることにもつながるという考え方である。そこで、この活動への誘い水としてポイント制を導入し、ポイント活用で介護保険料や介護サービス利用料の軽減という“おいしい”おまけをつけたのである。


 “元気高齢者の力を地域で発揮してもらいたい”という風潮の下、一見すると、なかなかユニークでよい施策だと思う人も多いだろう。しかし、実は多くの問題を孕んでいる。


■ボランティアという言葉を使うな

 まず理解できないのは、このような考え方のものをなぜ「ボランティア活動」と呼ぶのかということである。


 具体的に本人の「得」になる結果(保険料などの負担軽減)が用意され、さらに、その「得」を享受できるのは限られた人であり(社会的・肉体的に活動に参加できない人も多い)、さらに活動の対象も内容もはじめから限定されている取り組みは、我々がこれまで理解し実践し育んできたボランティアの概念とは相容れないものだ。


 あらゆる領域に市場原理が深く浸透している最近の社会では、「これをすれば何の役に立つのか、どんなお返しがあるのか」という基準で物事を考える人々が増えている。そういう人々に、具体的な「おまけ」を示すことは効果があるだろう。しかし、市場原理や交換原理だけで豊かな社会ができるわけではない。交換ではなく共感による行動や、予期しない出会いや学びを大切にする世界も必要だ。そしてボランティア活動は、まさに後者による社会づくりの代表格のはずだ。


 したがって、この制度を実施するとしたら、ボランティアという言葉を一切使わず、まったく別の仕組みとして進めるべきだ。ちなみに、京都光華女子大学の妻鹿ふみ子氏によると、アメリカの高齢者向け活動プログラムである「シニア・コー」のなかにこれとよく似たものがあるが、それは「シニアコンパニオンプログラム」(交通費・保険代の他に若干の税金免除の謝金が出る)と呼ばれており、明確にボランティア活動とは区別されているそうだ。


■本当に効果があるのか?

 さて、仮にボランティアという言葉を使わなければ問題ないかというと、そうではない。


 これは、そもそも介護予防を目的にしたものだが、果たして活動に参加することで要介護状態にならない(なるのが遅れる)という効果があるといえるのだろうか。もちろん、こうした効果を計るのはむずかしく、短期間で答えが出せるものではない。しかし、自治体の施策として交付金が使えるようにする以上、何らかの根拠を示すべきだろう。


 昨年の特区申請時、稲城市担当課長は「生きがいをもってボランティアに取り組むことで要介護者になることが1ヵ月遅れるだけでも、保険財政面でプラスになる」と述べている。しかし、制度全体から見て、活動者への換金額とその運営コストを上回る効果が本当にあるといえるだろうか。


 また、予想以上にポイントをためる人が増えた場合、果たして換金は保証されるのだろうか。時間貯蓄システムを取り入れていた団体で取りやめるところも増えているが、その理由として聞かれるのは、やはり保証しきれないということだ。


 これらの点があいまいだとしたら、施策としてもかなり問題があるといえるだろう。


■活動参加者を受け入れる施設・団体の負担は?
 あくまで稲城市の提案にあがっていたものだが、対象とされる活動内容は、介護保険施設等でのレクリエーション指導、配膳・下膳、散歩・外出・館内移動の補助、話し相手などとされている。現在、福祉施設では職員体制に余裕がないため、これらの活動をしてくれる人を歓迎する向きもあるだろう。

 しかし、実際に職員以外の人にこれらの活動をしてもらうには、活動プログラムづくり、オリエンテーション、面談、配置、研修、ふりかえりなどの支援が欠かせない。施設・団体でのこうした組織的な受け入れ態勢があってはじめて有意義な活動となる。今回の案では、この点にかかるコストにまったく触れていない。これでは、逆に受け入れ施設・団体の職員の負担が増えるばかりであり、結果的に施設を利用している高齢者へのサービス低下にもなりかねない。


 さらに、安易な導入によって、ますます「介護労働」の低報酬化につながるのではないかということも懸念される。


■管理機関として社会福祉協議会が期待されたら?

 厚生労働省通知には、活動参加者の登録、ポイント管理、ポイント相当額の換金などの実質的な運営は、市町村が決めた管理機関が行うとされているだけで、具体的な機関名はあげられていない。しかし、4月29日付の読売新聞記事には、「社会福祉協議会など」という例示も見られるし、稲城市では市社会福祉協議会を想定して進めているようである。


 自治体でこの制度導入が決まったとしても、これは「ボランティア活動」とは別の枠組みのものであることを明確にした上で、運営体制を検討する必要があるだろう。この点をあいまいにしたまま、もしボランティアセンターの担当ということにでもなれば、これまで進めてきた本来のボランティア支援との間でかなりのトラブル発生が予想される。


 以上のように、今回の提案は、ボランティア活動の本来の意義や介護保険の理念を揺るがす側面も持っている。市民参加という観点と施策としての妥当性という両面から冷静に議論する必要があるだろう。

【Volo(ウォロ)2007年6月号:掲載】

ボラ協のオピニオン―V時評―

  • 2022.04

    遊びと宗教とボランティア

    大阪ボランティア協会ボランタリズム研究所 所長 岡本 仁宏

  • 2022.04

    「参加の力」は心理的に安全な場づくりから

    編集委員 早瀬 昇