ボラ協のオピニオン―V時評―

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編集委員早瀬 昇
■政治に近づくのはタブー?
 所信表明演説をした首相が、その翌々日に辞任を表明する前代未聞の事態が起こった。政治の混迷、ここに極まるという状況だ。さまざまな思惑が渦巻く中、袋小路に落ち込んでしまった状況に前首相の心身が対応できなくなったというのが真相のようだが、新首相に交代しても衆参のねじれ状態が変わらない以上、先行き不透明な状況に変わりはない。

 今回の事態に限らず、政治の世界はいかにもややこしい。「政治は数の世界」とばかりに多数派工作が進められ、「敵の敵は味方」といった遠謀術策が繰り返されてきた。実際、広辞苑で「政治的」を引くと、「事務的でなく、かけひきの多いさま」とあるほどだ。


 また、政治とは対立の世界でもある。選挙運動は、勝ち負けが明確に分かれる活動だ。特に首長選挙や衆議院の小選挙区などでは、誰かを応援することは、他の候補者の落選を進めることでもある。


 その上、首長や政党は福祉や環境、教育など総合的な政策体系で他と競うが、市民活動は特定のテーマに特化し、その課題解決のために人々が立場の違いを超えて連携するスタイルが多い。それだけに特定の候補や政党だけを支持することが難しい場合が多い。


 こうしたことから、市民活動は政治の世界には近づかない方が良いと考える人たちも少なくない。


■NPO法の規定

 こうした事情に加えて市民活動を政治の世界から遠ざける一因となりがちなのが、特定非営利活動促進法(NPO法)の規定だ。


 NPO法の第二条(定義)の第二項のロで、特定非営利活動法人は「政治上の主義を推進し、支持し、又はこれに反対することを主たる目的とするものでないこと」とされ、またハで「特定の公職(公職選挙法…略…第三条に規定する公職をいう…略…)の候補者(…略…)若しくは公職にある者又は政党を推薦し、支持し、又はこれらに反対することを目的とするものでないこと」と規定している。


 このうちロは「主たる目的」だから、「従たる目的」として政治上の主義を推進・支持・反対することは認められるが、ハの規定から法人として選挙運動に関わることは禁じられている。


 もとよりこの規定は、法人の活動を規制するものであって、法人に関わる個人が自主的に取り組む政治活動を規制するものではない。しかし、この規定に過敏に反応して選挙運動には関われないと思い込む人もいるし、中にはこの規定を利用して、面倒な政治との関わりを断とうとする場合もある。


 さらに、「政治の話よりも、目の前で苦しむ人々を手助けすることが大切だ」と考える人たちも多い。そこには、社会制度に対する関心の低さだけでなく、政治の現状への不信感もあるわけだが、こうして政治に関わる市民活動は低調になりがちだ。そこで、「NPOはノン・ポリティカル・オーガニゼーションのこと?」と揶揄されることもあった。


■数多い政治と市民活動の接点

 しかし、およそ社会問題の中で政治と関わりのない問題はない。個人やコミュニティの自発的な努力だけでは解決し得ない問題は多く、それらは社会制度の改善によって解決しなければならない。また個人の主体的な活動自体も、たとえばNPOへの寄付金控除制度の拡充問題のように、制度によって影響を受けるものがほとんどだ。


 いや、受身的な関係だけではない。元来、今ある社会制度の多くは、市民活動によって生み出され、政府などへの働きかけを通じて全国的に整備されてきたものだ。


 それに、市民と政治との大きな接点である選挙はボランティア活動の重要なフィールドの一つでもある。というのも、公職選挙法では選挙運動をボランティアが担うことを基本としているからだ。


 公選法は、選挙が公正になされるよう選挙運動にさまざまな規制を設けているが、中でも強く規制しているのが資金力にものを言わせる「金権選挙」の防止。そのため公選法では、選挙運動に携わる有給スタッフの数や提供する食事代、茶菓子類の数や金額などを制限している。また、選挙運動に参加してくれた人に慰労のつもりでごちそうすることも「投票依頼のための供応」として処罰の対象になる。


 こうした制限を知ると、「下手に選挙に関わると変な嫌疑をかけられかねない」と不安になるかもしれないが、これは「選挙はボランティアで関わるもの」と考えたら良いということだ。ボランティアとして関わる場合も、未成年者の関与が禁止されている他、戸別訪問や証紙の無いビラの配布、Eメールで特定候補への投票を勧誘することも規制されている。しかし、これらを除けば、とても自由に活動できる。


 政治と金の不透明な関係が問題となっているが、ボランティアが支え参加する選挙や政治が当たり前になれば、この状況を改善する道も開けてくる。


■政策を積極的に提案する関わりも

 もっとも、冒頭で触れたように、政治、特に選挙と市民活動の接点を深めるには難しい問題も多い。


 そこで、相互に敵対しあう候補者との間に中立的な関係を保ちつつ、有権者が候補者の主張を十分に吟味して投票できるよう、立候補予定者による公開討論会や立候補者の合同・個人演説会を開催する市民活動がある。1996年に設立された「リンカーン・フォーラム」はその代表的な団体で、詳細なマニュアルによって立候補者間の活発な議論が公平になされる仕組みを整備している。


 この他、棄権防止を呼びかける「投票に行こう!」運動もさまざまな団体が進めているが、市民団体はこうした中立的な関わりしかできないわけではない。


 活動の理念と一致する候補が絞れる場合、その候補を応援するのは当然のことだが、より能動的に候補者に政策を提案していくことも必要だろう。それぞれの活動で取り組む課題に関しては、候補者よりも私たちの方が詳しい場合が一般的だからだ。


 健全な民主主義社会を築くには、市民(活動)が今以上に政治との接点を広げることが必要だ。市民活動には、自らが暮らす社会の問題に向き合う「自治」という政治的仕組みを現実のものとする役割もあるからだ。

【Volo(ウォロ)2007年10月号:掲載】

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