■110年ぶりに公益法人制度改革
公益法人協会は、10月16、18日の両日、東京と大阪で日英シンポジウム「民間公益活動の新時代を迎えて」を開催した。これは来年12月から始まる「公益法人制度改革」で焦点となる「公益等認定委員会」のあり方について、そのモデルとなった英国の「チャリティ委員会」の仕組みを150年にわたって運営してきた英国の関係者を招き、日本でのあり方を検討しようと開かれたものだ。
そもそも「公益法人制度改革」とは、明治39年(1898年)に作られた従来の公益法人制度を110年ぶりに改革するものだ。これまでは、主務官庁の許可制、つまり社団法人や財団法人の設立に際して、その活動分野を所管する官庁(官僚)が、個々に活動内容を評価し、法人設立を認めるかどうかを、その裁量で決めてきた。
この仕組みを抜本的に改革し、来年12月からは法務局に届け出るだけで法人格(一般社団法人、一般財団法人)が取得できるとともに、民間人で構成する公益等認定委員会が「公益性がある」と認定すれば、公益社団法人、公益財団法人になり、税制上の優遇策も得られる。
そこで、この公益性の判定を担う「公益等認定委員会」のあり方が制度改革の成否を決めるものとなる。シンポジウムも、この点を焦点に展開された。
■NPO・政府間の信頼感が厚い英国
英国で市民公益活動に関する最初の法律ができたのは1601年。日本では関が原の戦いがあった翌年だから、その歴史の厚みに圧倒されるが、その英国側参加者の報告の中で日本と大きく異なると感じたのが、政府・自治体とNPOの間の信頼感だ。
英国では政権交代でブレア政権となった後、地方政府や多くの自治体とNPOとの間で「コンパクト」(協約)と呼ばれる協働のルール集がまとめられるようになった。これは「パートナーシップ」をキーワードに、両者が対等に協働するために取り交わされた覚書だ。
そのルールの一つに「フルコスト・リカバリー」、つまり協働事業でNPOが要する経費を、全額、政府が負担するという約束がある。NPOが不十分な経費で協働事業を担わされることがないよう、英国の多くのNPOを支援するNCVO(ボランタリー団体全国協議会)では「コンパクト・アドボカシー・プログラム」なる政策提言事業に取り組み、協働時にフルコストが支払われなかったり、契約期間が不当に短かったりした場合、政府に改善を求めるキャンペーンを進めている。
一方、英国の内閣府には、NPO、社会企業、協同組合などの活性化を推進する総合対策部局「第3セクター局」が昨年5月に開設された。この部局が、NCVOなどと連携して、非営利活動全体の活性化を進めている。
また、NPOの公益性を判定する「チャリティ委員会」は所管大臣を持たない独立行政機関だが、理事は公募で選ばれ事務局長も民間人。政府が運営経費を負担しつつ、その運営は民間に委ねられている。
税控除などの影響を伴う公益性の認定を独立した機関に委ねる。この仕組みから伺えるのは、NPOが政府から独立して活動することの重要性を当の政府も認識し、そうした政府の姿勢をNPO側も信頼している姿だ。
■寄付努力で評価する米国方式
実は公益性の認定方法には、この英国方式とはまったく異なる方式がある。米国の「パブリック・サポートテスト」(公衆支援度審査)だ。
その審査形態はやや複雑だが、思い切って単純化すれば、公益性があると判定する基準は「公益事業による収入を除いた経常的な収入総額」に対する「他の寄付者の寄付を大きく超える寄付を除いた寄付金収入総額」が3分の1以上であること。要は、多くの人々や企業などが寄付を寄せている団体は「パブリック・サポート」、つまり公衆の支援を広く受けているから公益性があるとみなす仕組みだ。
高い見識をもつ人々で構成するチャリティ委員会が公益性を判定する英国が「賢者の裁定」方式だとすれば、米国は幅広い人々が寄付を寄せる団体は公益性があるとする「寄付者の努力評価」方式ということになる。
どちらが優れているかは一概には言えないが、両国はともにそれぞれの方式を通じて数十万の団体が公益認定を受けており、その規模は日本をはるかに上回っている。それぞれの国で有効に機能していると言える。
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