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「高齢当事者運動」の大きなうねりを!

編集委員吐山 継彦
■“チョー超高齢社会”の当事者は若者たち
 65歳以上の高齢者の占める割合が全人口の7%を超えた社会を高齢化社会、14%を超えると高齢社会、そして21%を超えると超高齢社会と呼ぶ。

 高齢社会白書によると、日本の総人口は1億2、777万人(06年10月1日現在)で、前年比はほぼ横ばい状態である。65歳以上の高齢者人口は過去最高の2、660万人となり、総人口に占める割合(高齢化率)も20・8%となっている。おそらく日本は07年に超高齢社会に突入したと思われる。

 07年の出生数は前年比約3千人減の推計109万人、死亡数は前年比2万2千人増の推計110万6千人だった。1万6千人も出世数より死亡数のほうが多かったわけで、同省では「出生数は当面減少または横ばいが予想される一方、死亡数は増加が見込まれる。このため長期的には人口減少の傾向が続く」としており、日本の総人口の長期低減傾向は避けられない、ということである。

 因みに、団塊世代が生まれた3年間(1947年~49年)の合計出生数は806万人。年平均270万人弱の子どもが生まれたことになる。現在の出生数の2倍以上である。今後、団塊世代が65歳になる2012年には、高齢者人口は3千万人を超え、2042年には3千863万人でピークを迎える。当然、高齢化率も上昇を続け、2055年には40・5%に達する。また、後期高齢者(75歳以上)の割合も26・5%となり、“チョー超高齢社会”を迎えると予測。

 ところで、今から47年後の2055年に65歳になるのは現在18歳の若者、75歳になるのは28歳の青年である。つまり、彼ら若者世代が“チョー超高齢社会”の当事者となるのだ。彼らは、自分が“チョー超高齢社会”の真っ只中に生きなければならない、ということを考えもしない。ほとんどの若者たちには、高齢社会は団塊世代のオジサンたちの問題で、自分には「そんなの関係ない」と思っている。しかしそれは、「チョー甘い!」と言わざるを得ない。

※文中の数値は平成19年版『高齢社会白書』より。

■大きなうねりになっていない高齢者運動
 少子高齢化と人口減少が続くとき、問題視されるのは高齢者の存在であり、彼らの社会的な処遇である。仕事を辞めた高齢者の生きがいの問題、健康維持や介護の課題などにともなう社会的コストの問題である。しかし、高騰する社会的コストがペイできているうちはよいが、ペイできなくなると高齢者は社会の“厄介者”扱いされるかもしれない。今の若者たちはそこのところを重々認識しておく必要がある。

 実は、何々問題と呼ばれるもの、障害者問題、女性問題、青少年問題、環境問題、野良猫問題などは、すべて当事者(物)自体の問題というより、人間社会の考え方やライフスタイル、仕組みなどの問題なのである。そして、当事者の問題は、社会によって解決されるべきことと見なされるが、真の解決のためには当事者自身が問題にコミットする必要がある。

 そこで出てくるのが「当事者主権」という考え方である。岩波新書『当事者主権』(中西正司・上野千鶴子著)によると、次のような状況が見られる。

 「いま、障害者、女性、高齢者、患者、不登校者、そしてひきこもりや精神障害の当事者などが元気である。能率、効率がもっとも尊ばれる社会のなかにあって、もっとも適応しなかった人たちの集団、庇護と管理の下に置かれたマイノリティと言われる人たちである。そこから、自立生活運動、フェミニズム、レズビアン&ゲイ解放運動など、当事者を担い手としたユニークな活力あふれる活動が生まれ、社会に大きな影響を与えつつある」(「序章 当事者宣言」)。

 当然ながら、高齢社会の当事者は高齢者自身である。しかし今、日本の高齢者の中から社会に大きな影響を与えるような当事者運動が生まれているとはとても思えない。確かに、日本高齢者運動連絡会という組織は存在するが、例えば、本年2月1日に行われた「後期高齢者医療制度の中止・撤回!安心できる医療の充実を求める2・1中央決起集会」のために全国から駆けつけたのはわずか250人だった。

 日本の運動にくらべると、全米退職者協会(American Association of Retired Persons)の規模と質はケタ違いである。同協会は、会員資格を50歳以上に限定しており、高齢者運動とは言えないかもしれないが、シニア(中高年)層全体のための組織であり、「世界最大のNPO」とか「最強の圧力団体」と言われている。会員数は、アメリカのシニア層の半数、3、600万人(!)である。ホームページを見ると、「社会変革ための勢力(A Force for Social Change)」とか「会員の皆さんはAARPの社会行動主義を高く評価しています(Our members highly value AARP's social activism.)」といった変革志向の文言が見出せる。

■団塊世代による社会行動主義の再現が必要
 翻って、日本の高齢者の動向を見ると、積極的な政策提言などを行っている「(特活)高齢社会をよくする女性の会(樋口恵子理事長)」など、女性を中心に、この課題に真剣に取り組んでいる団体もあるが、まだまだ大きなうねりにはなりえていないようだ。

 とりわけ歯痒いのが、すでに還暦を迎え、数年後に高齢者の仲間入りをする団塊世代の動向である。彼らのもっぱらの関心事は、極めて個人的な老後の健康と生活資金、そして高齢期をいかに快適に暮らすかという課題に収斂(しゅうれん)しているように見える。苦労をかけた妻を労(ねぎら)う海外旅行もいいし、趣味の蕎麦打ちにのめりこむのもいいだろう。しかし、もう少し社会行動的な面があってもよいのではないか。

 少子高齢・人口減少社会は、団塊世代が支えた経済成長社会とは全く別物である。約50年後に総人口が3割も減り、それに伴って勤労人口も大幅に減る社会では、財政難・人材難がどの分野にも出現するだろう。だから、高齢だからといって社会の最前線から退くのではなく、むしろ当事者として積極的に発言し、社会に関わっていく必要がある。60年代後半の“政治の季節”に青春期を過ごした団塊世代だからこそ、昔の政治的関心と社会行動主義を思い起こすべきである。有権者・納税者・消費者としての立場を武器に、地方分権と市民自治の時代の最前線に立ち、やがて高齢者となる若者たちを先導し、高齢当事者運動の大きなうねりを形成してもらいたいものである。

【Volo(ウォロ)2008年4月号:掲載】

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