ボラ協のオピニオン―V時評―

寄付する・会員になる

ボラ協を知る

ボランティアする・募る

学ぶ・深める

日本でも「サードセクター」の結集を

編集委員早瀬 昇
■ドラマ「篤姫」のもう一つの注目点
 NHKの大河ドラマ「篤姫」が好評だ。8月17日と9月7日の放送分では、木村拓哉さんが首相を演じたドラマ「CHANGE」の最終回を超える27.7%の平均視聴率を得、今年のテレビドラマの最高視聴率となっている。宮崎あおいさんらの好演を通して激動の時代に凛として生きた女性たちへの共感が広がっているようだが、このドラマを別の点で注目する見方がある。それはドラマが、腐敗に満ちた幕府が改革派・薩長連合によって倒されたとする「薩長史観」に偏らず、幕府側の「進歩性」もふまえた展開となっている点だ(注)。
 従来は「封建的幕藩体制下にあった日本社会が明治維新で近代化された」という勝者(薩長)側の史観で説明されがちだったが、日本に近代的殖産興業を進めたのは幕臣・小栗上野介(忠順)らであったし、そもそも江戸時代は前近代的社会ではなかった。たとえば早い時期から寺子屋や私塾など地方ごとに質の高い教育活動が取り組まれ、江戸後期の就学率は同時代の他国に比べ飛びぬけて高い約8割に達していた。しかし明治5年(1872年)の学制公布で、こうした民衆主導の教育活動は帝国大学を頂点とする教育管理体制に組み込まれ、寺子屋は次第に消滅していった。
 明治期の改革の中には現代にまで禍根を残すものもあるが、薩長史観では、その事情が見えなくなってしまう。この点、薩摩と幕府の間に立った(ゆえに薩長史観では顧みられることのなかった)篤姫にスポットライトがあたった今回のドラマでは、新たな歴史観が垣間見られるのでは…と期待する人びともいる。

■存在感示すイギリスの「サードセクター」
 明治期改革の負の側面に思い至ったのは、先日、イギリスの非営利セクター(以下では「サードセクター」と呼ぶ)の現状を視察する機会を得たからだ。
 大和日英基金とチャリティ・プラットフォームの助成を得、9月15日から19日まで、イギリスにあるACEVO(アキーボ。Association of Chief Executives of Voluntary Organization。「非営利団体事務局長協会」とでも訳せるか?)の取り組みを詳しく調査することができた。この調査は名古屋にある市民フォーラム21・NPOセンターの後房雄代表理事の呼びかけで、せんだい・みやぎNPOセンターの加藤哲夫代表理事らとともに行ったもの。ACEVOだけに焦点をあて、内外の関係者12人の取材を通じて、かなり深くこの団体の取り組みに迫ることができた。
 21年前、1987年に誕生したACEVOには、現在、福祉団体や国際協力団体、環境保護団体などはもとより、私立学校、病院、教会なども含む多様な非営利団体の事務局長ら2千人以上が個人で参加。相互のネットワーク作り、能力開発、それに彼らの立場を代表した政府や政党への働きかけなどを進めている。
 特に近年は行政が独占してきた公共サービスを民間、特にサードセクターに置き換えようとのキャンペーンを進め、政府からの事業委託の際に直接経費だけでなく人件費や間接費などすべての必要経費を保障する「フルコスト・リカバリー」を契約上の評準とさせた。
 日本で行政からの事業受託というと間接費はもとより人件費も計上されないダンピング状態も少なくないが、ACEVOは実務をふまえたキャンペーンを政府や政党などに行い、イギリスのサードセクターを成長させることに成功している。

■「サードセクターの声」がある英国、ない日本
 こうした制度化が実現できた背景には、先に紹介したようにサードセクターの実務に関わる人びとが分野を超えてACEVOに結集していることがあった。政府でも企業でもない立場に立つ人びとが、力を合わせて、その役割の大切さを訴える基盤があったのだ。
 しかし、日本ではどうか。ここで冒頭の「篤姫」につながるのだが、日本では明治31年(1898年)に個々の官庁が非営利公益法人を監督する体制(主務官庁制度)が始まり、さらに戦後は社会福祉法人や学校法人など事業ごとの法人制度までできた。その結果、行政の縦割り状況が相似的にサードセクターにも持ち込まれる事態となってしまった。今、社会福祉法人は厚生労働省を、学校法人は文部科学省を見ているが、本来、みんな同じ非営利活動に取り組む「NPO法人」だ。しかし、そのような連帯感はなく「NPOとは特定非営利活動法人のこと」と思われてしまっている。
 このため、社会福祉法人や学校法人、市民活動に関わる人びとが「サードセクター」として一堂に会して話し合う場もない。英国には(実は米国にも)広くサードセクター全体の声を代表する全国組織があるが、日本にはないのだ。

■「人の連携」を通じて「サードセクター」へ
 もっとも、日本にも徐々に変化の兆しがある。
 たとえば日本ボランティアコーディネーター協会は、ボランティアの参画を支援する専門職の養成・支援活動を通じて、上記のサードセクターを構成する多様な団体に幅広く関わる事業を進めている。また寄付金や会費・助成金の確保策は、このセクター全体に共通する悩みだが、この課題に取り組む人びとが連携しようという動きも始まっている。
 このボランティアとの協働や寄付金の確保はサードセクターに共通の悩みだ。そこで、こうした点を起点に、明治以来、分断されてきた「多様なNPO」ごとの壁を越え、サードセクターとしての結集を図っていくことも必要だろう。
 ただし組織単位で連携を進めるのは、そう容易ではない。そこで可能性を感じるのがACEVO流の「個人有志の連携」だ。分野や法人形態が異なろうとも、個人ならば、同じセクターに関わる者としてつながりあうことは、より容易だ。
 法律の枠内だけに留まらず、儲けだけに走るのでもなく、より良い社会の実現をめざすことを第一義として生きる人びとは、往々にして孤軍奮闘となりやすい。それゆえに、連携し、能力を磨き、きちんと発信する拠点を日本にも作る必要があると思う。

(注)詳しくは「AERA」8月11日号掲載の長谷川煕(ひろし)氏の論考を参照下さい。

【Volo(ウォロ)2008年10月号:掲載】

ボラ協のオピニオン―V時評―

  • 2024.02

    新聞報道を「市民目線」で再構築しよう

    編集委員 神野 武美

  • 2024.02

    万博ボランティア、わたしたちはどう向き合い生かすか

    編集委員 永井 美佳