ボラ協のオピニオン―V時評―

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「怪しいお金」は寄付で活かそう

編集委員早瀬 昇
■景気対策より選挙対策の「定額給付金」
 いろんな理屈がつけられてはいるが、実際上、究極の選挙対策であったはずの「定額給付金」の準備が、迷走しながら進んでいる。
 すぐに解散・総選挙となった時の目玉公約という位置づけだったからだろうが、細部がまったく詰められておらず、所得制限をするかしないか、給付方法はどうするのか…など、閣内でも意見がバラバラ。総選挙先送りで、そのいい加減さが明白になってしまった。
 それに、非課税世帯でも実は間接的に消費税を納めていることを考えれば、これは「給付金」ではなく「還付金」と呼ぶべきものだ。それをわざわざ「給付」と名付けるのは、政府の施策をありがたがってもらおうという意図からではないか? そんな疑念も膨らんでくる。
 さらに、給付のための費用も馬鹿にならない。急速に進む不景気で困窮が進む人々への生活支援効果は多少あるにせよ、消費の喚起・底上げといった効果は本当に生まれるのか? その効果は「給付」のコストより大きいのか? その関係も不透明なままだ。
 このためマスコミの世論調査でも批判的な意見も少なくない。こんな「怪しいお金」を喜んで受け取って良いものかと首をかしげる読者も多いだろう。

■税に託した役割は果たされるのか?
 この施策は、もともと「定額減税」として提案されものだったが、それでは非課税世帯に恩恵が及ばないことから、「給付金」という形をとることになった。つまり、元は減税策だったわけだが、この施策の意味は十分に吟味する必要がある。
 元来、税の機能、つまり私たちが税に託す役割は、以下の4つだと言われる。つまり、①公共サービスの費用調達、②所得の再分配、③景気の調整、④各種の政策誘導の4つだ。①は政府が責任をもつ公共課題解決のための費用確保、②は持てる者から持たざる者への富の移転を通じた平等な社会の実現、③は景気過熱時に増税し減退期には減税して景気を調整することであり、寄付金控除制度による寄付の促進などは④の一例だ。
 今回の施策は「定額給付」だから、高額所得者にも給付されて意味が弱まるとはいえ、所得再分配の機能は、ある程度、果たすことになるだろう。しかし、貯蓄に回す人が多いと③の効果は弱まるし、何にでも使える現金が「給付」される点で④の政策誘導の方向性もない。
 その上、2兆円の公共サービス資金を失うことになる。まとまった資金があれば出来ることも多いのに、それをばら撒いてしまうのだ。産科医療の問題など公共サービスの破綻が問題となる中、2兆円あれば、あれもできる、これもできるはずなのに…と、頭をひねらざるを得ない。
 とはいえ、1人1万2千円。子どもや高齢者は8千円が加算されて総額2兆円という大盤振る舞いだけに、これを中止させようという動きは極めて弱い。結局、実行される公算は、かなり高い。

■ホリエモン、久々の注目
 この「定額給付金」について、ホリエモンこと堀江貴文ライブドア元社長が、自身が綴る「六本木で働いていた元社長のアメプロ」なるプログの中の「頭の体操」というコラムで、「こんかいの定額給付金が無駄だと思っている人たち、定額給付金運用NPOをつくって、そこに寄付しませんか?」と呼びかけ、話題になっている。
 つまり、定額給付金でNPO支援の基金を作り、出資者の投票で融資を希望するNPO/NGOを支援したり、運用方法を決めようというアイデアだ。
 いわく、「(この基金に)NPOやNGOが出資の依頼を出来ます。また金融機関は運用のオファーもできるようにします。出資のプレゼンは、動画やプレゼンテーションツールを使って作成します」「寄付した人たちが、そのオファーをみて、PCや携帯ネットで投票をします。1/2以上の得票があり、かつ、1/2以上の賛成があった出資のオファーや運用のオファーにのみ、お金を出金することができるようになります」という構想。
 「壮大な直接民主主義の実験」「くだらない政策しか提示できない政府に代わって、自分たちでお金の使い道を決めればよい」「もともともらえるはずのないお金ですから、気前良く寄付してみませんか? 無駄で非効率になりがちな役所仕事をスルーできますから、1000億が数千億の価値を持つかもしれません。その数千億が、人々の役に立つことに直接使われるのです。しかも私たちが、ダイレクトに投票できます」と呼びかけている。
 11月12日の書き込みから、わずか2日で435件のコメントが寄せられ、大半が賛同の意見だという。本当に実現すれば、今回の施策に不信感を抱く人々の思いを受け止める社会的装置となる可能性もある。

■実はいろいろある寄付の受け皿
 ただし、この構想の最大のネックは、寄付を託してもらう受け皿を、どうするかだ。
 この「基金」に限らず、既に「あそこならば!」というNPOなどが思い当たる人はそこに寄付すれば良いのだが、特にこれという寄付先が思いつけない人が困ることになる。そこで「ホリエモン基金」の出番になるかもしれないが、企画書だけでNPOの真贋を見分けることは容易ではなく、多額の資金が託されるためには信用力も不可欠。今回限りの定額給付金のために、そうした体制を整備することは、かなり難しいように思う。
 しかし、実は広く資金を募りつつ、適切な団体に支援する市民活動ファンドは、すでにたくさん生まれている。たとえば「大阪コミュニティ財団」や「しみん基金KOBE」、「ゆめ風基金」…。さらに最近は大阪市や横浜市のように自治体が市民活動を支援する基金を創設する例も増えているし、ボランティア活動をサポートする基金を設ける社会福祉協議会も多い。共同募金なども有力な受け皿だ。
 千人に一人が賛同しても、全国で20億円の寄付が生まれる計算になる。社会の課題解決のために集めた税金が、バラマキで方向性を失った使われ方をしてしまうのを防ぐため、市民が取り組む公共活動に、再度、集め直す運動を各地で広げようではありませんか。

【Volo(ウォロ)2008年12月号:掲載】

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