ボラ協のオピニオン―V時評―

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ソーシャルメディアと民主主義

編集委員吐山 継彦
■社会的&社交的な新しい媒体
 「ソーシャルメディア」とは、〈日経ネットマーケティング〉のホームページによると、「ユーザーが情報を発信し、形成していくメディアのこと。個人が発信する情報が不特定多数のユーザーに対して露出され、閲覧したユーザーはレスポンスを返すことができる。ユーザー同士のつながりを促進する様々なしかけが用意されており、互いの関係を視覚的に把握できるのが特徴」である。英語の字義通り、社会的かつ社交的な媒体なのである。
 具体的には、最近日本の首相やアメリカの大統領も使っていることで有名になったツィッター、ブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)など。ほかにも、ネット上で「お気に入り」を共有するソーシャルブックマーク、ソーシャルニュースサイト、「ウィキペディア」などの誰でも編集に参加できるオンライン百科事典、クチコミサイト、FAQ(質問&回答)サイト、ビデオ投稿共有サイト(You Tube/ ユーチューブが有名)、「2ちゃんねる」等の電子掲示板などを含めることもある。マーケティングの世界でよく使われる用語「CGM(コンシューマー・ジェネレイテッド・メディア=消費者作成媒体)」とほぼ同義である。
 その特徴としては、情報の伝播力が強いため、近年著しく影響力を増しており、ユーザーのサイト滞在時間が長いこと。また多くの場合、編集権がユーザーにあるため、行政や企業にとってはコントロールが難しいことなどであろう。従来型の“産業メディア”である新聞や雑誌、テレビや映画等の媒体とのいちばん大きな違いは、個人でも比較的安価に利用できる点である。既存の産業メディアは情報を発信するのに膨大な人員と資金や装置などの資源を必要とする。
 因みに、読者諸氏は、ソーシャルメディアの典型であるブログとSNSのユーザーが現在どれくらいの数、日本に存在するかご存知だろうか?
 総務省の情報通信政策研究所が09年7月に行った「ブログ・SNSの経済効果の推計」調査によると、同年1月末時点のブログ登録者数は、延べ約2千695万人、月間閲覧数は約205億PV(ページビュー)、SNSにいたっては会員数延べ約7千134万人、PVは約439億という驚くべき数字である。もちろん数字は延べ人数なので、実数はもっとずっと少ないはずである。
 ブログだけに限って言うと、月に1回以上更新するアクティブブロガーの数は、「ブログの実態に関する調査研究~ブログコンテンツ量の推計とブログの開設要因等の分析~」(平成21年3月 総務省 情報通信政策研究所)によると、約221万であった。
 また、世界に目を向ければ、米国テクノラティ社の調査によると、07年3月時点で同社が追跡するブログ数は、世界全体で7千万以上存在するという。そのうち、日本語によるブログ記事は全体の37%を占め、英語(36%)を超えて世界第一の発信量と報告されている。7千万の37%と言えば、2千590万である。この数字は前述した総務省による09年1月の延べブログ登録者数2千695万人とほぼ重なる。
 また、07年3月に公表されたエデルマン・ジャパン(世界最大の独立系PR会社の日本法人)の「日本におけるブログ利用動向調査」によれば、日本ではインターネット利用者の74%が平均で週最低1日はブログを閲覧しているという。これに対して、米国では27%、イギリスでは23%、フランスでは22%となっており、日本に次いで多い韓国でさえ43%である。ブログの閲覧頻度は日本が突出して高い。日本人がいかにブログというソーシャルメディアを好んでいるか、また性に合っているか分かるだろう。

■ソーシャルメディアで「民主主義」を深化
 冒頭に掲げた『風の歌を聴け』のなかの“箴言”を待つまでもなく、文明とはコミュニケーションの多寡と密度、そしてその質によって決まってくるものだと考えられる。そういう意味では、できるだけ多くのフツーの人びとによって多様なコミュニケーションが行われていることが重要である。つまり、現代文明の質というのは、換言すれば、民主的なコミュニケーションの多寡と密度、質によって決まってくる。民主主義とは畢竟、「フツーの人が主人公」という考え方だから、良質で多様なコミュニケーションが、できるだけ多くのフツーの人びとによって担われていることがとても重要なのである。
 たとえば、江戸時代の庶民のコミュニケーションの実態は、日常的な身の周りの人たちとの話し言葉によるものが大半であったと推察できる。文字によるコミュニケーションは、識字者間の手紙のやり取りや、瓦版・滑稽本などの読書、また為政者による高札の通達を読む……といったアナログ的コミュニケーションに限られていただろう。
 それに比べると、現代の市民には、デジタル世界のソーシャルメディアにより、他者や社会とのより活発なコミュニケーションを実践できるインフラが整っている。これを活用して、「フツーの人が主人公」の民主主義をさらに推進・深化させていく必要があるのではないか。
 09年3月の総務省調査でも、「さいごに」のところで、「(前略)本調査研究において、国内のブログが06年にかけて急拡大し、その後も大幅な規模の縮小には至っておらず、アクティブブログ数や新規記事数等はピーク時とほぼ同程度の規模を維持しており、活発な情報発信が続いていることが明らかになった。また、ブログの利用においても、日記的な自己表現のみならず、コミュニティの形成、社会貢献、収益といった多様な目的で利用され、様々な分野における自身の知識・経験などを生かしたコンテンツが発信されている利用実態が浮かび上がった」として、「ブログの伝搬力に着目した企業が販促活動に利用するなど、ブログの社会・経済活動への影響力は今後も高まっていくと考えられる」と結論づけている。
 このような社会の現状に鑑み、目を大阪ボランティア協会に転じてみると、会員の中にも、筆者を含めて、たくさんのブロガーたちによる、活発な情報の受発信が行われている。これらを有機的に繋げて、さらなる民主主義の推進に資することができないか…というのが、今回の「時評」の問題意識である。
 たとえば、あなたの団体のホームページ内に会員の皆さんによるブログのタイトルとアドレスを掲載・集積して、供覧できるようにする。そして、ブログに書かれているテーマや内容についてのコメントや議論を展開できるようにし、組織内のディスカッションを活性化する。当協会でもそれができたら、活発な議論があちこちで湧き上がり、新生ボラ協が生まれるのではないか……そんな妄想(?)が筆者の頭のなかに渦巻いている今日この頃である。

【Volo(ウォロ)2010年4月号:掲載】

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