ボラ協のオピニオン―V時評―

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市民活動団体の事務局長の役割

編集委員早瀬 昇
■「事務」の責任者ではあるけれど…
 私事で恐縮だが、大阪ボランティア協会をこの5月末で退職し、19年間務めた事務局長を退任した。引き続きボランティアの常務理事として新しい体制を支える一翼を担わせてもらうものの、今後は若いスタッフのフレッシュなセンスで次代の「大ボラ協」を創造してもらおうと思っている。
 事務局長を退任するにあたり、あらためて市民活動団体の事務局長の役割を考えてみた。
 まず「事務」局というぐらいだから、きちんと事務をこなさなければならない。参議院議員であった故・市川房枝氏が「運動とは事務なり」と喝破したように、時に単調とも言える事務作業が活動の土台となる。それに、会議の議事録などが丁寧にまとめられていれば、仕事等で欠席しても継続して活動を進めやすくなるように、事務能力には市民の参加を広げる意味もある。また、発信する文書を作成したり校閲したりするのも仕事で、文章力も問われる。
 加えて日々の出納管理など経理面を把握することも大切だ。事務局長が日々の経理を直接担わなければならないわけではないが、最終的にまとめられる財務諸表を読めないと、管理者としての役割が果たせない。このように事務局長には、まず事務の責任者という役割がある。

■情報共有で共感的な活動の場づくり
 このように書くと「生真面目で堅実な人物が適任だ」などと思われそうだが、これらのことは実のところ「できるだけ頑張れば良い」というレベルのものだと思う。というのも、市民活動団体の事務局長には、より重要な役割があるからだ。
 市民活動団体の場合、多くのボランティアが参画しているのが一般的だ。事務局長を含め全員ボランティアという場合もあるが、専従の有給事務局員とボランティアが協同で活動を進める団体も増えてきた。
 この場合、ボランティアは、もちろん事務局長の「部下」ではない。そもそも市民活動団体では、有給スタッフの間でも、企業や行政のようなきっちりとした指揮命令態勢で動くことは多くない。恵まれた労働条件が保障されているわけでもない市民活動団体で、活動を進める一番のエネルギー源はまさにスタッフの自発的(ボランタリー)な意欲だ。つまり、上から命令されて動くのではなく、自ら納得し、主体的に行動し発言していく姿勢こそが大切になる。
 このため、やたらと会議が増えがちだが、この意思決定にはボランティアの参加も重要だ。それぞれに多彩な経験と能力を持つボランティアの意見によって、視野が広がりバランスのとれた判断ができるし、意思決定の場に参加することでボランティアの活動意欲も高まるからだ。
 とはいえボランティアは、普段、別の場で仕事や勉学に励んでいるわけで、市民活動団体を「職場」とする専従スタッフとの間には情報格差が生じざるを得ない。そこで、随時、活動状況を報告することも専従スタッフの大切な役割となる。
 事務局長は、こうしたことに配慮し、共感的な活動の場づくりを進める役割もある。

■撥はね返さない柔軟さ

 そして、事務局長の役割としてもっとも重要なのは、日々の決裁。当然、総会や理事会で決められた活動方針をふまえるわけだが、日々の活動の場面では事務局長の判断で物
事が進むこともあれば止まることもあるからだ。
 ここで鍵となるのが、市民活動には「普遍的な行動基準がない」ということだ。住民全体の合意のもとで動く行政や、ともかく損を出してはいけないという企業と違い、市民活動は「やろう!」という人がいれば、誰も賛成してくれなくても、直接的に収入が増えることはなくても、活動を進められる世界だ。
 そのような活動の特性を考えると、日々の決裁を託されている事務局長の姿勢として、ボランティアや職員からの提案を、まずは肯定的に受け止めることが大切だ。すぐに撥ね返してしまわず、ちょっと大変そうなことにも挑戦していける雰囲気を生みだすよう努力する必要がある。
 これらは「受け止める」「高める」「創り出す」「発信する」「つなぐ」…などの形で整理されるボランティアコーディネーターの役割につながるものでもある。今、日本ボランティアコーディネーター協会でボランティアコーディネーションの体系化が進められつつある。その成果を生かし、ボランティアや問題を抱える当事者の思いが行き交い、刺激し合う場を創ることで、市民活動の展開力が高まっていくことになるだろう。

■事務局長自身が乗りすぎると…

 もっとも、実はそんな雰囲気作りを目指しながら、一番事務局長職を楽しんでいたのは、他ならぬ私自身かもしれない。ボランティア活動に伴いがちな窮屈さ、過度のまじめさから脱皮しようと「ボランティア悪魔祓ばらい講座」なる講座を企画し、「ボランティアはアガペではなくエロスだ」のテーマでたんぽぽの家の播磨靖夫理事長に話してもらったり、国土交通副大臣になってしまったピースボート主宰者の辻元清美さんに「アホは国境を越える」という演題で話に来てもらったり…といったこともあった。

 また「売られたケンカは買う」と宣言して、寄せられる相談に「あれもこれも」関わる中で、企業と市民活動団体との連携作りが進んだり、宮城県や高知県、新潟県などの市民活動推進施策づくりに関わったりもしてきた。もっとも、ネットワークは広がったものの事業が広がりすぎて、協会の取り組む事業の焦点がぼやけがちになってきた面も否めない。
 このあたりのバランスをとるのが、なかなか難しい。スタッフとのフラットな話し合いが必須となるわけで、様々な気遣いも必要だ。縁の下の力持ち的役回りも多いし、難しい仕事ではある。 しかし……。事務局長はやっぱり活動の要となる役割で、しかも、スタッフが元気になることで自分自身も活動を楽しめる。最近、ちょっと疲れ気味という事務局長の皆さんに、心からエールを送りたい。
 (早瀬は今後も本誌の編集委員を続け、また協会と賛助企業の皆さまとのパイプ役など財務面の強化にあたるほか、引き続き協会を介して講師などのご依頼にお応えしていきます。よろしくお願いします。)

【Volo(ウォロ)2010年6月号:掲載】

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