ボラ協のオピニオン―V時評―

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編集委員早瀬 昇
■「何も変わらなかった」…のだろうか?
 「60・6」から「27・8」へ。
 これは時事通信が調査した政権支持率の推移だ。09年10月に実施された鳩山政権への支持率が「60・6%」、そして昨年11月の菅政権への支持率が「27・8%」。他の調査では今や1割台もある状態で、「歴史的な政権交代」とまで評された新政権への期待は、すっかり色あせてしまった。
 迷走する普天間基地問題や小沢元代表の政治資金疑惑など、支持率低下の理由をあげればキリがないが、こうした中、「政権が代わっても何も変わらない」と不信感を口にする人も少なくない。
 しかし市民活動との関わりでみれば、「かなり変わった」と言える面もある。本誌ニュース面で紹介する「新しい公共」の関連施策もその一つだが、もう一つ、指摘できるのが現政権への市民活動関係者の関わりだ。
 「事業仕分け」を進めた行政刷新会議の事務局長に、この仕組みを発案した「構想日本」代表の加藤秀樹氏が就任したのは09年9月。10月には年越し派遣村の村長を務めた「自立生活サポートセンターもやい」の湯浅誠事務局長が内閣府の参与に就任し、11月には「自殺対策支援センター・ライフリンク」の清水康之代表も内閣府参与に任命された。さらに鳩山前総理の肝いりで10年1月に始まった「新しい公共円卓会議」の事務局には、病児保育で有名な「フローレンス」の駒崎弘樹代表理事や、寄付の仲介役を自任する「チャリティ・プラットフォーム」代表理事の佐藤大吾氏などが参画した。

■野党が政権を取ることの意味
 もっとも、このように多くの市民活動関係者が政権に関わることになったのは、民主党という政党の特長というより、「野党が政権に就いた」ことの影響が大きいように思う。野党は当然、与党の政策に批判的になるが、それゆえに、今、起こっている社会問題の実情を学ぼうと、現に問題と格闘している市民活動家との関わりを深めることが多い。そこで、その野党が与党になった時、野党時代に関わってきた市民活動家を政権スタッフに招くことになった……というのが、今回の状況とも言えるからだ。
 実際、政権交代がよくある欧米では、政権交代で市民活動関係者が政権に参画し、政権が代わると、また活動の場に戻ったりシンクタンクや大学で政策研究を進めたりという「人の循環」もあるぐらいだ。
 このように考えると、政権交代には、結果的に政治と市民活動との距離を近づける側面があるといえる。

■利害調整の現場に向き合う

 しかし、政権に関わった活動家たちはやっかいな問題に直面することになる。従来は、野党的な立場から問題提起や陳情を進めるだけで良かったものが、政権内部で政策作りに関わることになると、複雑な利害調整の現場に立ち会うことも起こってくるからだ。たとえば「もやい」の湯浅氏は雑誌『世界』の昨年6月号で、以下のように、その体験を綴っている。
「(内閣府参与を務めて)私の中で変わったものがあるとすれば、それは、政府内部の『複雑さ、困難さ、厄介さ』を垣間見たことに起因するだろう」「政策をつくる側に回ってみて、『ほんの一歩』を刻むのがいかに困難かを思い知った」……と。
 これは、政府に取り立てられた一部の著名な市民活動家の悩みだと思われるかもしれない。しかし、今やこのような当事者間の利害調整に市民自身も関わざるをえない状況が、様々な場で生まれだしている。
 最近、SR(組織の社会的責任)への関心が高まっているが、その水準を高める上で「マルチステークホルダー・プロセス」なるキーワードが、よく使われる。長いカタカナ語だが、要は3者以上の利害関係者(たとえば市民活動団体と行政と企業)が対等な立場で議論を重ねながら、単独では解決の難しい課題解決のための合意づくりを進める過程を指す。ゴミ問題、地域交通システムづくり、多文化共生の社会づくりなど、さまざまな課題解決に向けて、こうした取り組みが始まっている。
 また、市民活動と自治体との「協働」を進める動きも盛んだが、この目標の一つは市民による「自治」を進める点にある。しかし、この「自治」という営みには必然的に住民間の利害調整が伴う。
 これまでは、異なる立場にある人々の利害調整は行政の役割だった。つまり市民それぞれが自らの要求を行政にぶつけ、その利害調整は行政に任せる……という状態が一般的だった。しかし、「最後は役所に頼る」ということでは、とても「市民自治」とはいいがたい。
 利害の異なる人々が、対話を通じて適切な妥協点を見出していく。「協働」の場面が増える中、このような作業がこれからますます重要になってくるだろう。

■面倒だけど、あきらめずに対話を進めよう

 市民活動のスタイルは多様だ。
 行政などとは特に関わりをもたず、独立独歩で活動するスタイルもあれば、行政と協調し、時に〝お膳立て〟を得て活動する形態もある。
 さらに、少数者の人権や環境などを守るために現行の施策に「異議申し立て」をする活動もある。当事者の運動を応援するとともに、当事者が前面に出られない場合は代弁的な役割も必要だ。この場合、単に批判するだけでなく、実現可能な代案を示し、多様な解決策の中から最善の策を選べる状況を作ることが大切だとされてきた。
 しかし、これからは単に代案を示すだけでなく、さまざまな立場の人々や組織との対話を通じて、その主張も受け止め相互に妥協もしつつ、みんなでよりよい社会を築いていく努力が重要だと思う。
 もちろんこれは、なかなか面倒な作業だ。誰か強いリーダーに決断を任せたい誘惑にかられる。実際、「指揮者は1人で良い!」と声高に叫ぶ知事もいるし、その支持率は史上まれにみる高さを保ち続けている。
 しかし、そうした痛快かもしれないが乱暴な手法では、弱い立場にある人々の声が切り捨てられがちだったのが、これまでの歴史だった。ここはめげず、あきらめず、最上の妥協点を見出す努力を続けたいと思う。

 年の初め、市民活動を進める際にどんな姿勢で臨んだら良いかを考えてみました。
 市民の力で、今年をより良い年にしたいですね。

【Volo(ウォロ)2011年1・2月号:掲載】

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