■行きたいのに行けない
阪神・淡路大震災を大きく上回る甚大な被害をもたらした東日本大震災の発生から、まもなく2カ月。大地震に加え、大津波が被災地を襲い、地域の生活基盤を根こそぎ奪われる被災地が広範囲に生まれた。その上、いつまでも終息しない原発事故により先の見通しが立てられず、復興のあり方を考えることさえ困難な人々が数万人に上っている。阪神・淡路大震災や関東大震災などでも経験しなかった深刻な事態だ。
さらに今回、特に震災から約1カ月は被災地へのアクセスが難しく、ボランティアとして出向くことが困難な状況にじりじりする状態も続いた。鉄道に加え、製油所なども数多く被災したため深刻なガソリン不足が起こったからだ。
それに変電所や下水処理施設をはじめ多くの社会基盤が破壊され、当初は食料や水、燃料などを持参する「完全自立」型でないと困る、といった厳しい条件が求められた(今は状況が改善しつつある)。こうした条件を整備して出向ける人は少なく、被災地が広大であるにもかかわらず、震災1ヶ月後の集計で、被災地で活動したボランティアの数は、阪神・淡路大震災の5分の1程度にとどまっている。
震災の発生翌日から被災地に電車で出向くことができ、日帰りでの活動も多かった阪神・淡路大震災とは大きく異なる状態だ。
■「義援金」の課題
そのような中、被災された方々を寄付で応援しようという動きが活発化した。
Yahoo!の寄付サイトでは数秒で数十万円単位の募金が積み上がっていった(4月28日現在で約14億円)し、企業の寄付も億円単位のものが少なくない。震災から2カ月を経ぬ前に阪神・淡路大震災時の義援金総額1千793億円を超える勢いだ。
もっとも、義援金には悩ましい側面がある。様々な立場の被災者がある中、どう基準を設定すれば「公平」な配分となるかの検討に時間がかかり、とりあえずの第一次配分は比較的早いものの、それ以降の配分に相当な時間を要するのだ。阪神・淡路大震災の際も、第一次配分が決まったのは1月29日(12日後)だったが、第二次配分は4月21日(3か月後)、第三次配分は翌年7月19日だった。
また、募金総額と被災者数のバランスにより、配分額が大きく変わってしまう点も悩ましい。募金総額は報道量などによって増減し被害規模に完全には比例しないが、配分額は被災者数によって大きく変わるからだ。
この矛盾が顕著に表れたのが阪神・淡路大震災だった。被災された方があまりに多く、配分額は全壊世帯の平均で約40万円だった。有珠山噴火の際には義援金総額は22億円だったが、全壊世帯の平均配分額は約500万円、奥尻島が津波に襲われた北海道南西沖地震では190億円が集まり平均配分額は約400万円、新潟県中越地震では348億円が集まり、平均配分額は約380万円だった。
このように義援金は、被災者の数が多い場合、相対的に大きな力になりにくいという課題もある。
「活動支援金」に思いを託そう今回、この「義援金」と対比される形で注目されたのが「活動支援金」、つまり被災地で活動するNPOの活動を支える寄付だ。
このタイプの寄付も、従来からそれぞれのNPOが募集していた。しかし、市民や企業からすると、どの団体に寄付すれば良いか分からないという課題があり、さらに一部の著名な団体ばかりに寄付が偏ることも少なくなかった。
しかし今回、中央共同募金会の「災害ボランティア・NPOサポート募金」、日本NPOセンターなどの「現地NPO応援基金」のように、広く寄付を募り、配分先のNPOを公募・選考し、被災地で活動するNPOに資金を託す仕組みが登場した。
これらの寄付金は、NPOが被災者を応援する活動、つまり炊き出しや被災地の片づけなど、さまざまなプログラムの資金として、すぐに活用されることになる。
しかも、この「活動支援金」には、早さに加えて重要な長所がある。日本ファンドレイジング協会の鵜尾雅隆常務理事が主張する「テコの効果」だ。いわく、託された寄付をもとに、NPOのスタッフがボランティアとの協働体制を充実できれば、ボランティアなどの活動が活性化し、寄付額の何倍もの効果が生み出されやすいという。
この「テコの効果」は、多くのボランティアが参加している団体ほど大きくなる。寄付の推進とボランティアの参加促進は、相乗効果をあげる関係にあるわけだ。
■コーディネーション力検定で人件費助成が可能に
この「活動支援金」に関して、今回、制度の壁が一つ取り除かれた。共同募金の配分では、従来は人件費の支出が認められていなかったが、今回、上記「サポート募金」の配分では、被災地で活動するNPOの専門職スタッフに対する人件費支出が認められたのだ。
「サポート募金」の場合、企業の寄付は全額損金算入が可能だし、個人の場合、所得税に加え地方税も控除され、かつ高額所得者に有利な所得控除と所得の少ない人に有利な税額控除を選べる(4月27日に震災特例税制法が成立し、上記の所得税と地方税の税制優遇が、サポート募金と認定NPO法人への震災関係寄付で適用されることになった)。
手厚い税制上の優遇策がある反面、その取り扱いについては財務省との交渉が必要で、厚生労働省、中央共同募金会、さらに上記サポート募金の運営委員に加わったNPO関係者らの間で熱いやり取りが続いた。
このやり取りの際に、人件費の支出を認める大きな鍵となったのは、日本ボランティアコーディネーター協会が進めている「ボランティアコーディネーション力検定」だった。検定を通じて専門職としての確立が進んでいる実績も考慮されたことから、今回の制度改革が実現できた。「市民の社会参加を進めるプロをめざして」を合言葉としつつ、主にボランティア活動の推進に取り組んできた同協会の活動が、寄付の促進を進める役割も果たしたわけだ。
もっとも、寄付とボランティアは、共感によって進められる市民の社会参加の基本スタイルとして、両輪の関係にある。寄付もボランティアもできるならば、それに越したことはないし、寄付だけ、ボランティアだけでも大きな意味がある。それぞれのペースで、被災された方々を応援し続けたい。
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