ボラ協のオピニオン―V時評―

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ミスマッチを受け止める力は自発性から

編集委員早瀬 昇
■「ボランティア派遣」という表現はおかしい
 「派」という字がある。川から支流が分かれる姿を示す象形文字だそうだ。広辞苑によると、この文字には、まず「もとから分かれでること。分かれたもの」の意味をもつ。「派生」などは、ここから来る。次に「流儀・宗旨などの分かれ。なかま」の意味になる。「派閥」や「党派」などは、この用法だ。そして、最後に「さしむけること」の意味が加わった。「特派員」や「派出所」などの用法だ。
 東日本大震災では新聞紙上などで「ボランティア派遣」という言葉が多用されている。しかし辞書の解説は、「派遣」という言葉がボランティアにはそぐわないことを示している。「もとから分かれる」つまり、自らの下にある人々を分ける意味をもつ「派」に「『遣』わす」を組み合わせたのが「派遣」だ。この言葉は、部下など指揮下にある相手に使う言葉であって、自発的、主体的に活動するボランティアに使う言葉としてはふさわしくないからだ。実際、「派遣する」は自動詞ではなく他動詞。「派遣される」とは言っても、自らを「派遣する」という使い方はしない。
 実はこの「派遣」の表現を避けようとの意見は、日本ボランティアコーディネーター協会が3月21日に発表した「緊急アピール」でも指摘されていた。「派遣」ではなく、たとえば「活動紹介」などボランティアの自発性を尊重する表現をとることが必要だ。

■災害時には多発する「ミスマッチ」
 この些細とも言える表現にこだわるのは、ボランティアを「派遣される存在」として位置付けることが、今、災害ボランティア活動の現場で多発している「ミスマッチ」の原因の一つになっていると考えるからだ。
 元来、災害時には「ミスマッチ」が頻発する。
 今回の大震災でも、心をこめて送られた救援物資が倉庫にあふれたり、被災した子どもたちに2年分のノートが届き、被災地の文房具店が「しばらくは文具が売れない」と頭を抱えているとか、1台と聞いていたボランティアバスが2台も来て、準備していたプログラムだけでは足りずに対応に苦慮した……といった事例が多発している。このようなことは阪神・淡路大震災の際にもよくあった。
 多発するミスマッチに、どう対処すれば良いのだろうか?

■問題は、ミスマッチにどう対応するか

 この点について、この3月で神戸女学院大学を退職し作家業に入ったという内田樹さんは、雑誌『AERA』にこんなコメントを寄せている。
 「人生はミスマッチの連続である。私たちは進学先を間違え、就職先を間違え、配偶者の選択を間違える。それでも工夫次第で何とか幸せになれる」。(「ボランティアのミスマッチ」『AERA』5月29日号)
 「確かにたくさん間違えてきた」と振り返る読者もいるだろうし、「工夫次第」とは具体的にどうすれば良いのだと突っ込みたくなる人もいるかもしれない。その点への深入りは避けるとして、内田さんの指摘のポイントは、そもそも「ミスマッチは問題なのか?」という点だ。
 普段の暮らしでさえ小さな誤解やアクシデントからミスマッチは起こる。ましてや大災害という非常事態。本号のニュース欄42ページ)で報告しているように、災害ボランティアセンターで活動するボランティア数は、日々、まさに激変している。このような状況下では、事前にどんなに準備をしても、多少のミスマッチは避けがたい。
 だから、ミスマッチの発生を前提にしつつ、それにどう対処するかを考えることこそが、真の課題だと思う。

■前向きの対応に不可欠な自発性

 ミスマッチが問題になるのは、ボランティアの期待と現実にギャップが生じ、それを「こんなはずじゃない」と否定的にとらえてしまうからだ。
 そこで、「こんなはず」というボランティアの期待や見込みの幅を広げることに加え、ボランティアがまず現実を受け止める姿勢をもてるようにする必要がある。
 そのカギは、指示待ちの状態を避けることだ。
 指示を受けて行動し、指示の前提だった事態が違っていると、指示を出した人を批判することになる。「話が違うじゃないか。ちゃんと調べてから指示を出せ」。これでは不満や不信が広がるばかりだ。
 このように不満だけで終わるのではなく、混乱する状況を自ら主体的に受け止められるように働きかけることが必要だ。混乱を「こんなはずじゃない」と否定するのではなく、「こんなもんだろう。仕方ない」とまずは受け止め、その状況の中で前向きに事態に対処していく姿勢がとれるようにすることだ。
 つまり、指示待ち状態ではなく、自らが主体的に選んで行動しているという意識を持てる環境を作ることが必要だ。冒頭の「派遣ではない」ことにこだわる意味は、この点にある。たとえば複数のプログラムを用意し、ボランティアが自ら選んで活動できるようにする。予定と異なる状況があることも伝え、その際に自らの判断で活動する選択肢を事前に打ち合わせておく……などの工夫が必要だ。

 よく、「被災者に寄り添う」という言葉が使われる。とても大切なことだ。
 しかし、3月11日以降、突然、不条理な状況に置かれてしまった被災者を前にすると、この言葉を安易に使うべきではないと思い知らされる。納得などできようもないけれど現にある数々の問題を前に、耐え、戸惑い、しかしなんとか明日に向けた努力を積み重ねるしかないのが、被災された方々の現実だ。
 ボランティアがその立場に寄り添おうとするならば、ボランティアもまた、混乱する現実を受け止め、そこから前向きに打開策を探ろうとする姿勢が大切だ。その基盤となるのは、やはりボランティアが主体的に活動する環境の整備だと言えよう。

【Volo(ウォロ)2011年7・8月号:掲載】

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