ボラ協のオピニオン―V時評―

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「除染ボランティア活動」の憂鬱

編集委員早瀬 昇
■環境省が普及を始め、批判噴出
 昨年11月8日から環境省が「除染ボランティア」の情報を流し始め、13日には細野環境大臣が約60人のボランティアと福島県伊達市で行った除染活動の様子が報道されたが、同時期、除染ボランティアに対する批判が相次いだ。
 これは、福島第一原発事故によって放射性物質で汚染された地域の除染に取り組むボランティア活動だ。既に昨年6月頃から、ふくしま除染委員会(郡山市など)、コープふくしま(伊達市など)、安全安心プロジェクト(南相馬市)など各地で活動が始まった。市民主導のものが多く、福島県内での活動が活発だが、千葉県、茨城県などでも同様の取り組みが進められた。ボランティア募集後、多くの地域では早い時点で定員を超え、除染活動が進められたが、冬に入った今はいずれも募集を中止している。
 この活動については、「放射能被曝の不安を抱えながら暮らす人々にとって喫緊の課題は除染。ボランティアの参加で、少しでも安心できる環境の整備を急がなければならない」といった意見がある一方、「そもそも一刻も早く高濃度汚染地域から移住できる環境を整えることが必要だ」という意見を最右翼に、以下のような批判も相次いだ。

■「除染ボランティア活動」の問題点

 まず、除染活動は東京電力の責任でなされるべきで、ボランティアが東電の肩代わりをすることはおかしいとの批判だ。実際、労働安全衛生法にもとづく電離放射線障害防止規則の28条で「事業者は…放射性物質…により汚染が生じたときは、直ちに…その汚染を除去しなければならない」と規定している。この規則をふまえれば、東電が除染の担い手となるべきことは明らかだ(注1)。
 活動の危険性も問題となっている。放射線被曝は様々な障害をもたらすが、やっかいなのはたとえ低線量の被曝でも「確率的影響」と呼ばれる影響が懸念されることだ。すぐに発症しないガンなどの晩発性障害は、被曝量が多いほど発症確率は高まるが、「これよりも少ない線量だと影響がない」と言える「しきい値」がない。細胞分裂の活発な若年層ほど影響を受けやすいが、年長者だから影響がないとは言い切れない。除染活動は、当然、汚染度が高い場所で、放射性物質に近づく形での活動となるし、内部被曝の危険性も高くなる。その上、晩発性の放射線障害は労災の認定例も少なく、事故から180日以内に発症した後遺障害しかカバーしないボランティア保険も、実際上、対応しない。この活動にはこのような危険が伴う。
 除染活動の効果を問う意見もある。放射性物質は瓦やアスファルトの微細な窪みにこびりつく場合もあり、時間の経過により岩石成分に入り込むと除去は困難で、高圧洗浄でも大して放射線量が下がらない場合もある。さらに高い放射線量の土壌や落ち葉を集めても付着する放射性物質そのものは減らず、除染といっても場所を移すだけだ。高圧洗浄機などによる処理で汚染された水が下水口に流れ込んだり地下水と混ざったりすると、河川の汚染、ひいては海の汚染につながる危険性もある。これでは、除染活動によって汚染地域を広げることになってしまう。

■除染活動の実際

 このような批判も聞く中、昨年12月、実際に福島市で除染ボランティア活動に参加した人の話を伺った。
 それによると、ボランティアの作業時間は2~3時間。主に民家での活動で、業者が一通りの除染作業をした場所など、比較的、放射線量の低い場所での活動だったという。活動時の被曝量を記録するボランティアカードが手渡され、自然界から通常受ける被曝量(年間1・4ミリシーベルト)とは別に、追加的に被曝する量が年間1ミリシーベルトを超えないよう、活動するたびに記録する仕組みが取られている。ただし、顔と密着し内部被曝を予防する防塵じんマスクなどではなく、風邪の際に使う通常のマスクが支給されただけ。目への粉塵の飛び込みを予防するゴーグルなども貸し出されていなかったという。
 昨年7月15日、福島県は「生活空間における放射線量低減化対策に係る手引き」を発表した。その中に「通常の場合、重装備は必要ない。土つちぼこり埃がたつ所ではジョーロで水まきをし、心配であればマスクをする等、状況により判断する」との記述があり、除染活動の危険性を強く警告する表現はない(注2)。徹底した被曝防止対策がとられていないのは、この記述の影響があるかもしれない。
 ただ、平時に比べて、かなり高い放射線量の下で暮らさざるを得ない日々が続く中で、短時間の除染活動での被曝対策に、あまりに神経質になることへの違和感もあるだろう。除染活動の現実からは、このような現地と遠隔地との「温度差」も感じられる。それに低線量被曝の影響については、専門家間でも主張が分かれている点も悩ましい。

■除染時の対策も避難者への配慮も

 東電の責任追及も必要だが、現に高い放射線量下で暮らす人たちの健康を守るため、緊急避難的な除染活動は不可欠だ。現に今春には各地で除染ボランティア活動の再開が予定されている。では、どうするべきだろうか。
 ボランティアの語源が自警団・義勇兵であったことに象徴されるように、危険な場での活動に挑戦してきたボランティアは多い。その意味で除染活動は危険だからボランティアが関わってはいけない……とは言えないだろう。
 ただし、この活動に参加するボランティアを募集する際には、除染活動での危険性を、特に将来の影響が不明な点も含めて、事前に丁寧に説明し理解を得ておくこと。それに、十分な被曝防止対策を取ることが不可欠だ。ボランティアが未成年の場合、保護者の了解も必要だろう。
 また除染活動が汚染の拡散とならない配慮も必要だ。昨年12月14日、環境省はようやく「除染関係ガイドライン」を発表したが、その中で水を使う除染時には事前に汚染物質を徹底して回収することや、排水自体の回収などにも言及している。こうした対策も必要になる。
 また、被災者が「故郷を捨てない」と踏ん張ることが、避難を選択する人たちを排斥することにつながってはならない。幼い子どもを抱える人たちが、ひっそりと避難先に移る例もあるという。除染により被災地に残る人たちを応援する一方で、被災地から避難する人たちの避難先での暮らしを支える努力も並行して進めなければならない。
 被災された人々を様々な形で応援するスタイルを認め合うことでこそ、復興に努力する人たちのそれぞれの暮らしを応援できるのだと思う。

注1:この規則は労働者の安全確保に関わる規定だが、今回の事故にも援用されるべきものと考える。ただし、東電は放出した放射性物質は「無主物」だとし、除染責任を認めていない。
注2:昨年10月発表の第2版では、「粉じんの吸い込みや口からの摂取を防止するため、作業場では飲食、喫煙は控えてください」との記述が追加された。

【Volo(ウォロ)2012年1・2月号:掲載】

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