ボラ協のオピニオン―V時評―

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消防の苦悩に学ぶこと

編集委員磯辺 康子
■250人以上が犠牲に
 東日本大震災では、岩手、宮城、福島の3県で254人の消防団員が死亡・行方不明となった。その8割近くが活動中だった。
 消防団員は非常勤特別職の地方公務員という立場だ。それぞれ本業を持ちながら、地域防災の最前線に立ち、住民を守る。報酬はわずか(一般団員の全国平均は年額約2万5000円)で、活動はボランティア精神で支えられているといっても過言ではない。
 多くの団員が犠牲になったことを受けて、総務省消防庁の検討会が3月、津波災害時の消防団活動のあり方について中間報告をまとめた。その内容からは、被災地の団員が懸命に地域を守ろうとした様子が伝わってくる。
 活動中に犠牲となった197人の当時の状況をみると、住民の避難誘導に当たっていた団員が最も多く、約6割に上る。自力避難が難しい高齢者宅に向かい、津波に流された人がいる。高齢者を1人背負い、1人抱えて避難していたところを津波に襲われた人もいる。避難しない住民の説得に当たっていたケースもあった。
 水門の閉鎖にかかわっていた団員は約3割いる。出動の途中で犠牲になった団員も1割を超える。
 助かった団員たちはその後、住民の捜索や救助、遺体搬送、がれき撤去などを休みなく続けた。情報が途絶し、食料やガソリンさえ不足する中で活動を続けた団員たちの身体的、精神的負担は、大変に重いものだった。
 活動記録では「乾パンを譲ってもらったが、飲み込む水もない。がれきの間に散乱していたペットボトルのうち、容器が壊れていないものを拾い集めて飲料にした」など、過酷な状況が報告されている。「被災直後から津波に追いかけられる夢を見る」、「10日間のうち同じ夢を5、6回見ることがある」という訴えもある。命の危険を覚悟で活動を続けたり、顔なじみの住民らの遺体を何度も目にした
りした団員の心の傷は、相当に深いと思われる。

■消防団も「退避優先」
 全国の消防団員の数は今、減少の一途をたどっている。昨年4月時点の団員は約87万人。高齢化も進んでおり、20代が年々減少して40代以上が増える傾向にある。
 そうした課題に直面する中で発生したのが、東日本大震災だった。震災後、消防庁が岩手、宮城、福島県内の消防団員に行ったアンケートでは、回答者の3割近くが「団員を辞めたい」と答えている。震災での活動によるショックやストレスについても、程度はそれぞれだが、8割以上が「感じた」としている。
 ボランティア精神に支えられた活動でありながら、自分の命をぎりぎりのところで守り、地域住民を救うという重責を背負わなければならない。「辞めたい」と思う人が多くても不思議ではない。そもそも、常勤の消防署員ではなく、普段は地域住民として暮らしている団員に、地域防災をどこまで担ってもらうのか、という議論がこれまで不足していたのではないかと思う。
 消防庁の検討会がまとめた報告は、「津波到達までの予想時間が短い地域では消防団員も退避を優先する」という考えを明確に打ち出した。消防団員であっても、津波の危険が迫っている場合は「まず逃げる」ということだ。
 検討会の報告を受けて、消防庁は全国の自治体に対して津波災害時の消防団の安全管理マニュアルの整備を求めた。津波到達まで時間がない場合の「退避優先」の徹底と、住民の理解の必要性を指摘し、津波警報の内容などによっては水門の閉鎖を放棄することも盛り込んでいる。
 当然のことだろう。消防団員だからといって命を落としていいはずがない。地域防災は消防団員など特定の人が担うのではなく、住民が自らの持てる力を出し合って支えるものだ。その原点を、私たちは忘れてはならない。

■「率先避難」の大切さ

 最近、防災の世界では「率先避難」という言葉がよく使われる。津波災害などで、周囲に呼び掛けつつ自ら率先して避難することだ。
 人間は津波のような危険な状況が迫っても、「自分は大丈夫だろう」と思ってしまう傾向がある。心理学の用語で「正常性バイアス」という。豪雨で避難勧告や指示が出ているのに逃げない人が多いのも、そういう要因がある。
 しかし、誰かが率先して避難行動を起こせばほかの住民も付いてくる。多くの人が「私も逃げなければ」という危機感を持つ。東海、東南海、南海地震による津波被害が予想される地域では、「率先避難者」の養成を進めているところもある。
 消防団の「退避優先」も、団員が率先避難者の役割を担うことにほかならない。団員が危険を知らせながら逃げる先頭に立つことで、住民の早期避難を促すことができる。住民の命を守ることにつながる。
 東日本大震災で消防団が直面した現実は、ほかの分野で地域を支える人々の課題とも重なる。今回、東北3県では民生委員の死亡・行方不明も50人以上に上る。高齢者を避難させようとして津波に巻き込まれた人は少なくない。町内会長や区長として、避難を呼び掛けている最中に流された人もいるとみられている。
 自身の安全確保と住民の救助・救援をどう両立させるのか。その問いに対する答えは簡単には出ないだろう。「住民が残っているのに逃げられない」という支援者は多い。しかし、今回の消防団の活動状況や消防庁の方針から考えるべきことは多い。結論は出せなくとも、家族や仲間、地域で災害時の行動を話し合うきっかけにはなるはずだ。自分が「率先避難者」となることで、地域で活動する支援
者の負担を減らすこともできる。
 東日本の被災地から学ぶことは、まだまだたくさんあると感じる。そして、被災地には深い心の傷を負った支援者が数多くいることも、重ねて付け加えておきたい。

【Volo(ウォロ)2012年4月号:掲載】

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